メトロンズ第1回公演「副担任会議」の感想

 メトロンズの第1回公演「副担任会議」は、2020年4月から1年延期となって2021年4月に上演された。幸い劇場で観劇できた私は、物語の内容と「この世界にはエンタメが絶対に必要だ」という確信から最後には泣きながら舞台を眺めていた。

 来月、10月6日から第2回公演が始まる。それにあたり、第1回公演の「副担任会議」がYouTubeで公開されたので、今更ではあるが感想(ネタバレあり)を書いておきたくなった。

 「副担任会議」は、卒業式の日に掃除を担当する副担任たちが、「副担任の見る目を変えたい」という花岡の呼びかけをきっかけに、副担任の見る目を変えるためにできることを話し合っていく、その中でそれぞれが抱えている問題を解決していくという物語だ。

 メトロンズの本公演としては「副担任会議」が第1回だが、ユニットとしてはその前に「KASAMATSU」「空を染める」「MILLION $ TICKET」が上演されており、これらはすべてYouTubeで公開されている。6人の演技力を評価する感想はこれまでの公演からあったが、「副担任会議」では6人の演技力に改めてはっとさせられた。「副担任会議」のすごいところは、ほぼ全員が実質「一人二役」を演じていることだ。個々の問題を解決する前と後とでは、別の役と言ってもよいほどの変化がある。

 最初に劇場で見た時、前半部分は少しの違和感を覚えながら見ていた。今回はこういう配役なのか、と思いながらもどこかぎこちない違和感を覚えていた。物語の終盤、それぞれが問題を解決した後の彼らには前半で感じた違和感は全くなかった。つまりこっちが本当の彼らであり、前半の違和感は「問題を抱えた本来の自分ではない姿」だからだとしたら、とてつもない演技力だ。そしてこの実質「一人二役」であるところが「副担任会議」の満足度の高さにもつながっていると思う。

 「副担任」という、責任もなければ存在感もない微妙な立場の5人は、副担任として共通の問題を抱えていながらそれぞれ個別の問題を抱えている。
同じ副担任であり、「副担任の見る目を変える」という共通の目的を見つけながら、うまくいかないのは個々の問題のためである。そして、この個々の問題を解決するのは、小野田という存在だ。小野田の、当事者ではないのに副担任の見る目を変えようとするという「おせっかい」のおかげで、4人の抱えていた個々の問題が解決するのだ。同じ副担任という立場であり、それぞれが問題を抱える副担任同士だったら、お互いの問題にここまで踏み込み、変えていく力はなかっただろう。この物語を動かしているのはひとえに小野田の「おせっかい」なのだ。

 一度最後まで見て改めて最初から見てみると、「自分は副担任じゃない」と積極的に言っていないだけで小野田は一度も嘘をついていないし、小野田だけが担当の学年や名前を確認するところがないということも、木戸と談笑しながら入ってくるという登場シーンにより何の違和感もない。また、木戸のキャラクターを考えると、相手が誰なのか確認しないことも、同じ学年の副担任が欠勤であることを伝えないことも不自然ではない。非常にうまくできているので何度も観たくなる。

 部外者であることがわかり、警察に通報という案も出る中、5人は戸惑う。「でもあの人なにか悪いことしましたか?」という井口の問いかけ、そして最終的に「あの人は、誰かわかんない、それだけですよ」「誰かわかんないってだけですもん」という結論に至る。勝手に学校に侵入し、副担任たちの会議にしれっと紛れ込む、小野田のやっていることは普通に考えたら通報されてもおかしくないことだ。しかし副担任の5人が各々の問題を解決し、共通の目標に向かって連帯感を持つことができたのは、部外者の小野田のおかげであり、5人もそれがわかっている。そして5人が「誰かわからないというだけで問題はない」という結論に至ることができたのも、彼らがそれぞれの問題を解決し、自分で考えて意見することができるようになったからだ。

 やっていることは問題がある、しかし人間として見たときに、関わったときに、「悪とは何なのか」を考えさせられる。この仕組みは「KASAMATSU」とも共通する。「KASAMATSU」では、サイコパスで人を殺したモモカワは明らかに犯罪者でありながら、吹雪で救助を待つ間に、そこにいる他の人たちの抱える問題を解決していく。自分の問題を解決できた人たちのモモカワへの愛着は強くなっていき、「本当に彼が殺したのか」という疑問まで感じさせる。実際に彼は人を殺したわけだが、やはりこの場合も「悪とは何なのか」、出来事と人間性の間で「悪」ということを相対化し考え直すような視点がある。

 「副担任会議」の最後のシーンは一年後か、数年後かの卒業式の場面で、副担任の彼らは相変わらず掃除をさせられている。同じ卒業式の日を描きながら、冒頭とは違って雰囲気は明るい。担任になったわけでもない、注目されるようになったわけでもない、相変わらず掃除を担当している彼らが、その副担任という立場でそれなりに楽しくやっているというのがわかるのは仲間ができたからだろう。やっていることは同じでも、副担任同士の連帯感は彼らの生活を変えたのだなということがわかる爽やかなラストだった。

 「副担任会議」は副担任たちの成長を適度なナンセンスさを織り交ぜながら描き、笑っていたはずが涙が出てきて、最後には成長した副担任たちを自分に重ねて「完全に理想の状態じゃなくても人生は楽しめる」と前向きになれる作品だ。

 第2回公演「ミスタースポットライト」もとても楽しみだ。


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