夢の世界へと続く道〜太陽の散歩道1
この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
大人な表現ありです。過激な表現もありなので気をつけてください。
縁が深い者同士〜プロローグ
一見70代半ばくらいだろうか?仲良し老夫婦のように見える2人の男女が幸せそうに寄り添っている。
微笑みを絶やさず手を繋ぎ、2人ゆっくりとある広場にやって来た。
「ここは何度来ても落ち着くなぁ。」
「そうねぇ。遠い昔からよく来たものねえ。」
「遠い昔からあまり変わっていない所も良いなぁ。」
「本当にそうねえ。」
古い古い本屋さんや床屋さんはもちろん代替わりしているだろう。2人が子どもの頃からずっとある。
2人が生まれる前から歌い継がれているであろう童謡も変わらず流れている。
2人はベンチに腰掛けた。
「ほんわか」や「なごみ」という言葉がぴったりだ。
実はこの2人、双子の兄弟だ。姉の知里(ちさと)と弟のレンだ。
弟の方が姉を守る事もあり、もちろん姉が弟を守る事もあった。
厳格な両親の元で2人は育ち、お互いに支え合って来たのだ。
一時グレて、自宅から脱走して、2人の所持金を足して、出来るだけ遠くまで電車を乗りついで行った事もある。
仲間達の家に2人揃って居候させてもらい、転々とした事もあった。
2人はお互いいつでも味方だった。
ご縁が深く、前世でも確実に兄弟や恋人同士や夫婦だっただろう。あまり間違わない知里の直感はそう言っていたし、占い師にも言われた事があった。
一時期兄弟同士だがデキてしまった事もあり、親の寝室から離れた部屋で2人同じベッドで寝ていた事もあった。
2人は中学生の頃キスをした。
歳を重ね、だんだんその先の行為に行きそうになったが、
「やっぱりそこまで行くのは良くないよ。結婚願望が少しでもあるなら、その時までしっかり童貞は守っておきなさい。もし赤ちゃんが出来たらどうするの?」
と知里が諭した。
レンはしばらく、「硬いなあ。」という表情で黙っていたが、
「そうだな。分かった。軽率だったな。悪かった。」
と受け入れたのだ。
一見1人が好きで、それが向いている2人。
しかしながら同じような性格の者が居ればやはり仲良くしたいのだ。
そういう意味でも2人は幼い頃から気が合い、仲良しだった。
ところがお互いが結婚してからは、自然にあまり関わらなくなってしまったのだ。
喧嘩をしたわけではないが、知里もレンの家に2回や3回行ったくらいでレンには知里の家には来てもらった事が無かった。
2人とも実の両親とももちろん疎遠だった。
家族集まる事も無かった。
レンはやがて離婚し、一人暮らしをしていた。
知里も占いで、離婚の暗示があるとよく言われていたのだ。
今こそ日向ぼっこが似合うほんわかした2人だが、人生結構いろいろあったのだ。
時は今から35年遡る。
明日は宮参り〜私ってそんなにダメですか?
知里は念願の赤ちゃんを産み、3ヶ月が過ぎた頃だった。知里は高齢出産だった。
なかなか子どもが授からず、もう諦めていた。
ところが結婚して10年でやっと元気な男の子を授かったのだ。
先程も書いた通り、あまり関係が良くなかったせいか、実の両親は知里の産後サポートを断って来たのだ。
その代わり、知里の旦那の家族が産後サポートをしてくれたのだ。
珍しいのか、義理の家族は知里に優しく、凄く良くしてくれたのだ。10年間何の問題も無かった。
バギーや赤ちゃん用品全てを買い揃えてくれたのだ。
その上、産後サポートは1ヶ月にとどまらず、気がつくと3ヶ月もズルズルと来てもらっていたのだ。
知里達夫婦は、確かに甘えすぎていたのだ。それから問題が起きたのだ。
それを知里の旦那の姉が旦那に、
「知里は甘えすぎじゃない?出来が悪い。お母さんが来ないとあんたの家回らないって事やんね?あの子何してるの?気は効かないし全然やわ。うちだから良いけど他の家ならダメな嫁として認定されてるわ…。人付き合いも浮いてるし、受け身やし、柔軟性も無い。考える力がなく、言われた事しか出来ない子は社会には必要ないで…。何かあってもあの子は周りに丸投げやろ?気をつかうピントもズレてるし…。」
旦那の姉は、この話を知里に伝えておけと旦那に言ったようだった。
旦那はこの10年成長しているが、知里はあまり成長してないなど、傷口に塩を塗るようにけちょんけちょんだったそうだ。もう知里の心はボロボロだった。
趣旨は、「お母さんに3ヶ月は来てもらい過ぎ。知里がいろいろ覚えて自立して子育て出来なくなるよ。」
という内容だったが旦那の姉はたいそう怒っていてキツく言っていたようだ。
それも旦那の母や姉は、姉の家で一緒になって知里達夫婦、特に知里の悪口で盛り上がっていたというではないか。
家もくちゃくちゃやし、やる事も遅い。見ててキレそうになる。その都度その都度考えてレイアウトを考えれてないなど片付けなどのダメ出しも旦那の母からあったりで知里はストレスが溜まっていったのだ。
知里も最初は素直に「ご指摘ありがとうございます😊」
と従っていたが。
知里の旦那も母や姉に怒っていた。
旦那も旦那の母からボロカスに怒られる事が多かったのだ。
一瞬で知里は旦那の母や姉が嫌いになり、怒ってしまったのだ。「私だって一生懸命この10年やって来たのに。」と悲しみに暮れたのだ。
何だか以前の会社勤めの時も同じような事があって退職に追い込まれたのだ。
知里は2人を知里夫婦の家に出禁(できん)にしたのだ。
出来るなら息子も、2度と旦那の母や姉には会わせたくないというくらいの剣幕だった。
ちなみに旦那が母に問いただしたら、
「私は知里ちゃんの悪口は言って無いよ?」
と。
知里も旦那も、しらばっくれるな!と余計に怒りを募らせたのだ。
旦那の母「その調子じゃ私が弁明しても無理だね。嫁と姑(旦那の母)小姑(旦那の姉)が揉めている所は多いし、もともと仲良くなれるはずがないからね。
だからもう諦めて、あんたら夫婦とは距離を置きます。」
と言っていたようだった。
他人である知里が入り、10年仲良くやってきた歴史がいくらあるとはいえ、嫁姑、嫁小姑の関係は、たった1回の事で崩壊するのだ。
もう無理
知里はなかなか治せない欠点を指摘され、これならもう自分から離婚を申し出ようとした。仕事は辞めていたがとりあえずどこかにアパートを見つけ、そこに引っ越す事を考えた。
旦那は知里を、もちろん至らないところもあるけど、そこまでダメだとは思わないと言ってくれたが…。
これは占いが当たるかもなあ。
不妊時代も、旦那さんに申し訳なくて、何度も離婚を切り出す事を考えた。
独身時代知里は会社員だったが、なかなか仕事も覚えられずテンパってばかりだった。
人間関係も悪くなり、3年で退職したのだ。
会社員は向かず、専業主婦もしくは、自分が出来る仕事との兼業主婦になりたいがために結婚したが、思いのほか辛かったのだ。このまま行くと会社員時代と同じ事を繰り返すであろう。
実の母や、年の離れた姉は、自宅も片付いておらず、くちゃくちゃだった。しかも性格は知里と対極で、どちらも気が強く意地悪で、生意気だ。
きっと知里の嫁いだ家では論外認定だろう。
それでも離婚していない。嫁ぎ先に厚かましく居座っているのかも知れない。
知里は
「なんで私ばかり
結婚生活辛いわあー(泣)
でも実際離婚しても、折角ご縁があった息子は取られて1人で出ていかないといけないだろう。もう息子とも会えなくなり、いつか彼が大人になった時には、俺を捨てて行ったクソババア。と恨まれているだろう。
生きていても辛い事ばかりだし、最近アニメやゲームなど夢の世界にも行けてない…。現実を見るばかりだ。
もう良いよ。早くあの世からお迎えが来てくれ。頼む…。
役立たずで生きていてごめんなさい。」
と思っていた。
明日は宮参りで、もちろん旦那の母や姉も来る。
知里はこの2人の顔を一生見たく無かった。向こうもそうだろう。
知里は本格的な鬱状態に陥っていた。
こんな気持ちで宮参りに行けるわけが無かった。
旦那からも、
「宮参り、無しにするか?それならお前から話をしてくれ。」
と言われ、もちろんそんな事出来るわけ無かった。
ただ、たった1度だけ絶好のチャンスがあったようだ。
旦那が旦那の母に何かの確認をした時、彼女も怒っている雰囲気で、
「明日宮参り無しにするか?」
と言われたそうだったが、旦那はそういう訳にはいかないと言ったそうだ。
事件から10日強あったが、その間ほとんど旦那の家族には夫婦共々連絡を取っていなかったのだ。気まずくて。
折角授かった愛しい息子の宮参りが修羅場化するであろう事は火を見るより明らかだった。
私にそれを止められる力があるわけない…。
明日よ、どうか来ないで。
知里は旦那のすすめで、夕方美容院に行ってみた。
そこから自宅に帰りたくなく、近所をほっつき歩いていた。
「もし、もし、もし、
実家の両親が優しかったら…。
カバン一つでそのまま電車で帰り、お泊りをし、明日の宮参りが終わって日が暮れるくらいの時間にしれっと帰りたい。
もしか…しなくてもそんな事したら
旦那や旦那の家族が総動員で待ち構えていて、袋叩きの刑だろう。
いやそんな生ぬるいものではなく、三行半を突きつけられ、荷物ごと放り出されて途方に暮れるのではないか…。いや、その方がとりあえずは気が楽なんじゃないか?
いや、何よりも息子が大きくなった時、写真にお母さんである私が写っておらず、悲しむはずだ。でも嫌なものは嫌だ…」
知里は歩きながら頭を冷やしていたが、旦那の母や姉に対する怒りは治っていないように感じた。
ふざけるな!調子に乗るな!私にも落ち度はあるけどあの2人を私はもう一生許さないし信じない…。
モヤモヤモヤモヤ…
宮参りをする予定の神社を参り、明日の宮参りがキャンセルになる事を祈願したのだ。
そろそろ帰るかと道を引き返していると、気がつくと目の前に駅の階段とエスカレーターがあった。
良いから早く上れと言わんばかりに。
駅構内は知里の気持ちとは対極に、白い明かりが煌々と光り輝いていた。
導かれるまま知里は駅へとエスカレーターを上っていった。
そこに知里と同じくらいの歳で、明るめの茶髪で肩まで長めに伸ばした髪に、すらっとした脚が目立つジーパンをはき、白のワイシャツを着た男が改札機に向かって立っていた。
彼が振り返って驚いた顔をしたのだ。
「知里!」
「レン!久しぶり!」
「久しぶりだな!何だか元気が無さそうだな。」
「う…うん。いや大した事ないよ。」
「それは絶対何かあったな?俺と一緒に出かけよう!」
「えっ?でも誰かと待ち合わせとかじゃなかったの?」
レンは首を横に振った。
レンは先月引っ越しをして知里の家の近くのマンションに引っ越して来たそうだ。
大阪の北つまり知里の実家の近くから大阪の南に大移動だったのだ。
3年前に離婚したレンは1人で暮らしていた。
友達や職場仲間と遊んだり食事に行く事はあっても最終は1人だ。
再婚も乗り気では無かった。知里と同じく結婚生活に向かず、子どもも居なかったため、お互いに離婚に踏み切ったのだ。
何かが足りないと思っていたら、最近は知里をよく思い出すようになり、職場がめちゃくちゃ遠くなるわけではないからと、知里の家の近所に引っ越したのだ。
そして今、新しく住みだした街を散策中なんだとか。
「とにかく行こう!俺について来い!」
レンは知里の手を握り、2人で改札口を通り、たまたまホームに滑り込んだ街行きの電車に乗り込んだ。
知里は産後初めて電車に乗る事になり、必死でレンについて行った。
続く
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