いつも「時間がない」あなたに 欠乏の行動経済学 センディル・ムッライナタン&エルダー・シャフィール

多くの人が部分的になんとなく感じていることをまとめて本にしたような内容。同じテーマを長い例え話や実験例で繰り返し語るので、読むのが大変なものの、語られている話のポイントを理解しておくのは重要だと思います。

ざっくりまとめると、

・コンピューターと同じように、人間も計画を立てたり感情をコントロールするために「処理能力」を消費している。

・何か(お金、食べ物、時間、人とのコミュニケーションetc)が不足している人は「欠乏」状態に陥り、思考の意識的・無意識的な部分に広く影響を受ける。

・「欠乏」状態の人は、目先の課題には集中力や思考能力を強く働かせられるが、それ以外のことは意識の外に追い出してしまう(同一人物が受けたIQテストで10ポイント結果がぶれるくらいの影響)。

・この特徴は、目先の支払いを工面するために高利率の借金に手を出したり、必要な休息時間を削って仕事をしたりといった、短期的な利益のために長期的な損失を引き起こす行動を誘発する。

・上記の結果、目先の事態をやりくりするために緊急の対応を行い、その対応のせいで必要なリソースがさらに削られて再び緊急の対応が必要な事態が発生し……という負のスパイラルが発生する。

・こういった状況に陥らないためには、予想外の事態に対応するためのお金や時間の余裕が必要。だが、お金や時間がたくさんある時にはその管理がおろそかになるので、結果的に散漫なやりくりでリソース不足の原因ができやすい。


といったところ。

自分の行動を客観的にとらえるためには、こういう「動物としての人間」の習性を学んでおくのがとても重要になるので、こういう知識は覚えておいて損はないはず。こういう行動経済学的な(もしくは心理学的な?それとも脳科学かな?)知見はここ20年くらいで急速に蓄積されてますが、良くも悪くもこのジャンルの知識は身に付ける必要が高まってると個人的に感じています。自分で使えば生活をより良くできるものの、知らないと他人をコントロールしようとする力にいいようにされてしまう可能性が高いので。

本書で述べられている、貧困の原因としての処理能力不足にはちょっと気になる点(まず、計画を立てるメリットや先送りのデメリットが認識されていなかったり心理的に受け入れられていない可能性、デフォルトの処理能力そのものの個人差等)があるものの、こういう視点から解決が難しかった問題に切り込めるのには可能性が大きいと思ってます。

しかし、貧困層への支援のためだけでなく、中流の人にこそこういった情報が必要だと考えてしまうのは僕だけでしょうか?なにせ、この手の先送りの害は日常生活や会社の仕事で嫌というほど思い知らされてますからね……

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