正しい世界が壊れてゆく



 中学生の春、家族の話をする時に一番すてきな笑顔を見せる先生が私の担任でした。
「先生は7人家族で兄弟は6人苦難ばかりのなか女手1つ、俺たちを育ててくれたんやで」と自信と信頼に満ちた表情で、家族の在り方を教えてくれます。私はそのお話がとてもとても好きでした。
ホームルームのたびに聞かされるものなので自分のことも先生に知ってほしいと思うようになった私は放課後、自分の家族のことを話してしまいました。

先生のように、自信と信頼と愛情を大切にした日常についてを。



まだ半分も喋らないうちに
「ちょっと教室で待っててな職員室に行かなあかんから。」そう言って席を立とうとしたので突然、恥ずかしくなって「このことは誰にも言わないでほしいです。」と口止めをして教室に残りました。
時計は午後4時を指していました。陸上部の活動を眺めながら、入部していた漫画部の先輩が個人連載していた漫画を読んだり、10分ほど経ってやってきたスクールカウンセラーの先生と宿題をして時間を潰していました。いつの間にか陽も落ちはじめてくたびれた頃に生ぬるくなった教室に風が吹き込みました。


どやどやと現れた見知らぬ大人に「行こうね。」と、担任からは「見過ごしちゃあかんことや」と、腕を引っ張られてわけも分からず知らない大人に挟まれて車に乗りこみます。それ以外のことはよく覚えていませんでした。
なぜなら先生と約束したつもりでいたから、秘密をバラされたショックで何とも言えない気持ちでいっぱいになったのです。好きな子を打ち明けてナイショを共有したのにものの数十分でウワサになってしまったくらい、とても悲しかったのです。私にとってこのときが人生初の裏切りでした。


なんだか悪いことをした気分になってきて今まで怒られてきたこと、やってしまったことの記憶が甦り、捕まっちゃってこれから警察へ連れていかれるんだ、帰ったら叱られるんだと呑気な想像をして恐ろしくて泣いた私の手をぎゅっと握ってくれた福祉士のお姉さん、あれは慰めだったのですね…

到着した建物が刑務所のように見えて猫背がちで歩く私は“ニュースで見る犯罪者”か“連行される宇宙人”といったところでしょうか。
気分としては4:6で宇宙人強めで謎の施設へと足を踏み入れました。

この数時間でわたしの人生も価値観もそのすべてが「正しさ」によっておおきく変化していきます。



つづく


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