in the hell6話、自分本位野郎共の感情押し付け合戦

現世にいながら地獄の世界を目視出来るこの懲役50分ドラマも今回で第六回目を迎えた。ゲイでありながら結婚するも早々に家庭が崩壊し以後十年間妻子を放ったらかしにしていた無責任男・四宮はそんな妻子に舞台装置特有の都合の良さで「貴方も幸せになっていい」と背中を押された事により完全に心が吹っ切れ、一度自分を振った主人公に「お試しでいいから」と一週間の有限の交際を強引に申し込む。

後輩女をキープしていた事を憤慨され「気持ちのない相手とデートするな」と忠告をされたのもつい前話、四宮に心を開く成瀬に嫉妬し「誰にも渡したくない」と成瀬に強引なキスで迫ったのもつい前話なので、普通ここはきっぱりはっきりと断るべき所なのだが、そんな物語の流れをガタガタに崩してまで何故か主人公はこの申し出を流されるがままに受け入れてしまう。これでは後輩女の涙ながらの訴えも成瀬への熱烈な求愛も途端にうっすい物となってしまう。おっさん同士のシケたセブンデイズをやりたいがあまりに主人公が学生時代からの後輩の気持ちを蔑ろにし挙句独占欲を剥き出してして強引に成瀬に迫ったものの別の男に言い寄られれば揺らいでしまうクソ男として描写されてしまい非常に救いがない。

主人公の交際に浮かれた四宮はけして乗り気ではない主人公を前にもおおはしゃぎおじさんぶりを隠しきれず、「呼び方変える?しのみーにするか?」などとウッキウキのご様子。挙句おもむろにカードを取り出して「1日1枚このカードを引いてくれ。ここに俺の考えたイベントが書いてあるから」と早速狂気をぶつけてくる。この7日間の間で、引かれたカードの内容を二人で一緒に遂行したいのだという。

35歳と40歳のシケたおっさん共が職場のロッカーでこんなやりとりをしている時点で目も当てられないほどの大火傷なのだがなまじ前回で四宮の無責任さに人生を翻弄された妻子を目にしているこちら側としてはそんな事よりお前はちゃんと養育費を払っているのか、いや金だけの問題じゃない、あの子供が妙なまでに達観し大人びていたのは幼い頃から女で一つで育ててくれた仕事で忙しい母の前で聞き分けの良い子供の姿でいなければならないと思ったのではないか…などと余計な事をごちゃごちゃと考えてしまい、画面に華の無い事も相まりこの木枯しおじさんずの疑似恋愛にちっとも集中が出来ない。

セピアオーラの漂うおっさん二人がきゃっきゃとカードを引いている所に成瀬がやってくるのだが、つい昨日強引なキスをぶつけてしまった主人公は気まずさのあまり悶えながらもなんとか成瀬に話しかけるのだが、成瀬はこれをガン無視して四宮に話しかけている。前回から完全に四宮の事しか眼中にない様子の成瀬の存在が主人公が全然主人公のオーラを放っていない空気化現象をより一層際立たせているように思える。

そこに黒澤も現れ、黒澤の娘である後輩女を振った主人公は罪悪感のような思いに駆られ黒澤に後輩女との事で話があると言うのだが「こんな場所でする話じゃないだろ」とばっさりと一刀両断される。しかし黒澤には2話で職場のど真ん中(しかも野外)で狂ったように主人公へ愛の告白を叫んでいた前科があるのでその言葉に一切の重みがない。

OPを挟み場面が変わると、職場のデスクで仕事中に堂々と四宮とお試し交際をする事になった旨を先輩CAのMEGUMIに相談する主人公、という狂気がいけしゃあしゃあとぶちかまされている。男同士とか以前に職場恋愛の相談を仕事中に職場で持ちかける時点で既に100万回疑って来た脚本家の倫理観に疑問を感じてしまうし、主要人物がチンケな恋愛談義をだらだらとしている間にも周りの人間は普通に仕事をしていてpeach監修のお仕事ドラマと謳っておきながら顔のぼかされたモブの方が主人公よりよっぽどお仕事しているのが非常に草である。

そんな中ドバイ空港から移動してきた山崎育三郎演じる獅子丸怜二が紹介される。春田が自分と同い年だと分かったとたんに「はるっぴ」と馴れ馴れしくなるあたり、この獅子丸という男からは出身中学が被っているだけでテンションが上がる田舎のヤンキースピリッツを感じる。そんな獅子丸は何やら仕事が出来るわ気さくだわルックスが良いわと登場が遅かった分を取り返す様にスペックがてんこ盛りでスタッフが考えた最強のモテ男要素全部のせスペシャルな夢女子御用達男の為周囲のCAがキャッキャと色めき立つ。

一方、元から意識していた四宮に前回の頭ぽんぽんで完全にZOKKONLOVEになってしまった成瀬は大した用事もないのに整備の倉庫までわざわざ足を運び四宮に会いに来る。基本このドラマの登場人物はコスプレしながら空港内をぶらぶら徘徊しているだけなので、勿論この成瀬も一話からかけらも副操縦士たる姿を描写されていないのだが、その余裕があるスケジュール的にこの空港には恐らく副操縦士が200人位いるに違いないので大丈夫なのだろう。

わざわざ出向いてまで聞く様な事でもない事を口実にやってきた成瀬に四宮がツッコミを入れるとあからさまにどもる成瀬。散々口籠ったあと、「あの…土曜日って空いてますか?日曜日でもいいですけど」と猛アプローチをかます。つい昨日主人公に熱烈な告白と無理矢理なキスをされておきながら成瀬にはちっとも響いていない様子である。それどころか今までのインドアキャラが嘘のように別の男に滅茶苦茶アクティブにアタックしているのだが、そんな誘いも四宮に断られた挙句春田とお試し交際の事を打ち明けられ成瀬は酷く動揺する。

同じく仕事中にも関わらずデスクで一切仕事と関係ない事で混乱している武蔵。娘の後輩女が主人公に振られた事に怒りを隠しきれていないのだが、ここでこの男が憤っている理由が「娘が振られたから」ではなく「娘の為に自分が身を引いたのに娘が振られるなら俺は何の為に身を引いたのか。俺の立場はどうなるのだ」という所にあるのが父親として、人間として終わっている所だと思う。このドラマの登場人物は基本的に本当に自分の事しか考えておらず一方的に気持ちをぶつけ合っているだけなので見事に誰も応援できない。

場面は変わりCA開催の獅子丸の歓迎会に。「今日は獅子丸の歓迎会と後輩女の慰め会ですw」と言われ嫌がる後輩女を尻目に何も知らない獅子丸に次々とCA達の口から「この子失恋したのよw」「相手は主人公ですw」と出てくる流れが本当にキツすぎて流石に後輩女が可哀想になってくる。女の扱いが酷いBLは総じてクソだがこのドラマも例外ではない。CAの間で主人公の悪口大会が始まるのだが出会って1日目の獅子丸が「あいつは暖かいヤツだよ」とこのあらゆる物をすっ飛ばしたドラマの住人ならではの超速スピーディーさでフォローを入れる。私は獅子丸より5倍の時間はこの主人公を見て来ているのだが残念ながらその暖かさとやらが微塵も伝わって来ていない。

つうかなんでこの歓迎会に主人公がいないのかと思ったらなんとオサレ寮で四宮と二人できゃっきゃとオムライスを作っているから驚きである。職場の歓迎会より四宮とのままごとセブンデイズを優先するのがなんかもう滅茶苦茶過ぎる。というか主人公もかなりノリノリでこの華の無い木枯しセブンデイズを満喫していて、割とかなり楽しんで四宮とプラモを組み立てたりタピオカを飲んで自撮りしたり銭湯に行ったりしていて…え…銭湯って何…?こんなもんを選択肢に入れてくる四宮の下心がマジで無理すぎて笑えないレベルだしどうしても妻子の顔が頭にちらついてしまう。切ない担当と公式が明言している四宮だが妻子放ったらかして暴走し片想いの相手を銭湯に誘う切ないというよりは節度がないクソ録でもない男である。なまじ五話までは誠実面をしていて比較的まともだった四宮の突然のクソ化に感情が追いついていかない。ちなみに六話放送前公式ツイッターでは散々この二人のドキドキ裸のお付き合い煽りをしていてとことん安いドラマに成り下がったものである。

黒澤親娘を振った事で黒澤と、成瀬を襲った事で成瀬と、それぞれ気まずい主人公はこの状況を作ったのは自分なのでせめて仕事で挽回しないと人としてあまりにも駄目すぎると困ったときのご老人お助け大作戦やチラシを配置するなどして、地上で出来る範囲のふわふわとしたお仕事を頑張るのだが何せ1話から今回まであまりにも仕事をしてこなかったツケとしてそんなふわふわキッザニア体験でさえミスを連発してしまう。

一方成瀬と武蔵はどこかの店で火鍋を突きながら真面目な顔でとってつけたようなフワフワした仕事の話をしていたのだが、お仕事関連に激弱な脚本家の力量の問題ですぐ話は脱線し、「どうして俺は身を引いたんだ…」と落ち込む武蔵。完全に娘可愛さ<自分可愛さである。その話の流れで四宮と春田が付き合っている事を半ギレで報告する成瀬。どうしてこんな事になったんだと主人公の肩を持つ武蔵と四宮の肩を持つ成瀬で店内で喚き合い揉み合い大暴れし周りのキャラも視聴者もドン引きさせる。

四宮を必死で庇う成瀬に「お前それ、恋なんじゃないか?」と指摘する武蔵。とたんに成瀬の頭の中に四宮とのメモリアルが走馬灯のように駆け抜けて、「えぇぇ…」と困惑する 成瀬。「えっwwwwww?ナイナイナイナイ」と立ち上がって大声で喚き散らしまたも周囲の客に冷たい目で見られる。いちいちどのキャラも常識のある人間とかけ離れた言動しか取らないのが見ていて本当にしんどいしそういうとんちんかんな言動でしかコメディを描けない脚本家の力がシンプルにクソである。

主人公と四宮に関しては利害関係が一致している事に気付いた成瀬と黒澤はスカッとしに行こうとバッティングセンターへ。しかしそこにはなんと偶然にも主人公と四宮もデートに来ていたのである。クソ気まずい空気が流れる中、お試し交際しているという二人に「そんな通販みたいな恋愛ある?インスタントラブ???」とブチ切れる黒澤だがこの物語、四宮といい黒澤といい後輩女といい最初から説明もなく主人公への好意がMAXだった即席的な代物だったのでインスタントラブという言葉は黒澤自身にも跳ね返ってくる。

黒澤に問い詰められ困惑する主人公を切ない表情で見つめる四宮を心配げに見つめる成瀬に複雑な心境になる主人公。すると突如武蔵がぶつぶつと独り言を言い始め「ワーワー!4番黒澤!引っ込め!ワーワー!」とぶつぶつ呟く恐怖パートを見せられた後キャットファイトみたいな事をしたいんだろうなという意気込みだけは伝わってくるバッティングバトルがはじまるのだが普通に面白くないし特に意味のないシーンの為割愛。というかこのドラマで意味のあるシーンを見つける方が難しい。

翌日、何もかも中途半端な自分を変える為に仕事に奮闘する主人公だが チラシをばら撒く、勉強会に遅刻する、挙句客から時間変更を頼まれ預かったチケットを忘れたまま放置する、と怒濤のポンコツメリーゴーランドぶりを発揮する。何事に於いても説得力に欠けるこのドラマだが主人公が前職をリストラされた所以だけは妙に物語ってくれる。そんな主人公に「一気に全部やろうとせずに一つ一つの仕事に責任を持て、大丈夫だ、お前ならやれる」と黒澤は励ますのだがコイツだからこそどうにもならんやろとこっちは思ってしまう。

そんな中お試しセブンデイズを継続し呑気にDVD鑑賞をしてはしゃぐ四宮と主人公に嫉妬する成瀬。このフラグの突貫工事ドラマの中では比較的一番丁寧に描写されて来たのが四宮←成瀬の恋愛感情なのだが一話時点で主人公の大量の盗み描きの裸デッサンをみっともなく撒き散らし大騒ぎしていた四宮を目の当たりにしておきながらもどんどん想いを膨らませて行くあたり成瀬も稀代の物好きである。いい年こいてセブンデイズを提案している四宮に対し気持ちが醒めないどころか嫉妬しているあたり主人公と二度もキスをしておきながら四宮業火担過ぎてこのドラマの着地点が全然分からない。

無理らしい無理もしていないように思えるが普段あまりにも仕事をしていない為無理が祟った主人公は風邪を引いてしまいそれでも出社してきてしまう。ディスパッチ烏丸はそれをすぐに見抜くが「風邪引いてるけど今日フライトなんで!」とさらっとバイオテロ宣言をする主人公を止める訳でもなく「気をつけて〜〜」と軽く流して見送る。peach良い加減ちゃんと監修してやってやれよ。そして主人公が倒れてしまうのだが、ここの倒れ方がマジでコントのようなヤケクソのようなヘタクソな倒れ方でこのドラマを見ていて初めて笑ってしまった。これは田中圭がくれた息抜きポイントなのかもしれない。

倒れて医務室に運ばれた主人公に「帰りなさい」と言い渡す黒澤。それでも「俺、行きます!!」と食い下がる主人公に「倒れたのが機内だったらどうする!」と一喝するのだが予算の問題で機内シーンは絶対に出てこないので安心して欲しい。

「サービスができないだけじゃない。お客様の命を預かる保安要員としての責任はどうなる」とシリアスに問う黒澤だがこの主人公は前回時点で救命胴衣もまともに着けられていなかったのでそこはもう諦めようね。極め付けに出てきた「そんな自分本意な人間に空を飛ぶ資格はない!」と言う台詞がこのドラマの主要人物が全員地上でコスプレキッザニアをしているのは自分本意な野郎しかいない為飛ぶ資格がないんだという事を裏付けており、いやはやメッセージ性の深いドラマである。

黒澤に説教され落ち込みつつも獅子丸に励まされ元気になり寮に戻った主人公は大人しく床に伏せるどころか四宮に「7日目のカード引きましょう」とセブンデイズの続きの提案し手を繋いだり涙ながらに四宮を振ったりと中々のエネルギーを発揮している。つい数時間前に倒れておいて元気になるのが早すぎだろ。あとここの四宮を振る台詞が不動産の武蔵への台詞のコピペなあたりに脚本家の仕事ぶりの雑さが顕著に出ている。そこはもっと捻ったれや。

涙のお別れタイムの後、寮のオシャレでクソ生活味のないテラス、通称オシャクソテラスで物思いにふける成瀬の元に「俺、しのさんとは付き合えないってちゃんと報告してきたぞ」と報告しに行く主人公。「で?」と返す成瀬の目がマジでゴミを見る眼差しの様に冷たいのだが成瀬にとっては自分を好きな男をわざわざ振った宣言されてる訳でそりゃ塩対応にもなるだろう。

この前の強引なキスを謝る主人公だが成瀬があまりにも冷たいので傷心してすごすごと寮を出ていく。そしてどうせなら高かった雨の機材をもう一回使ったろうというスタッフの勿体無い精神で降り頻る雨の中夜の町をさまよう主人公。ちなみにこの男、つい数時間に倒れ仕事に穴を空け上司にガチ説教されたばかりである。

そこで偶然獅子丸と鉢合わせ、捨てられた犬ころのような主人公を前に何かを超即理解した獅子丸は「そっか…辛かったな…はるっぴ」と3話ぶり2度目のレインハグをキメる。辛いも何も全部この男の自業自得だろうが。ちなみに胡散臭いほど主人公全肯定botだった獅子丸だがドラマのラストで実は執行役員だった事が発覚し主人公は親友の突然の変化に苦悩するらしい。出会って数日で親友って本当インスタントドラマだな。

主人公と四宮が別れた事を聞いた成瀬は「ッシャオラ、チャンスだ!!!!!」と言わんばかりに寮のリビングで落ち込む四宮の元へ速攻で向かい、寄り添い、親身に話を聞く。マジで欠片も主人公の事眼中に無くて草。人を本気で好きになった事がないらしい成瀬は初恋パワー全開で四宮の事になるとめちゃくちゃアクティブになり、「俺はお試し期間なんていらないです。俺が忘れさせてあげるから」と四宮を熱烈に押し倒す。動揺した四宮は「面白半分で人の気持ちを弄ぶのやめろ!」と憤るが「本気だよ!どうしてあげていいか分からないんだもん」と泣き、「キスだって誰とでも出来ると思ってたけどもうアンタとしかしたくない」と訴える。成瀬はそれ程主人公とのキスが嫌だった訳でそれによって四宮への想いをより明確に自覚したのである。
成瀬の「キスなんて誰とでも出来ると思ってた」というポスタービジュアルでのキャッチコピーを散々見せ場として煽ってた主人公とのキスを踏み台にして四宮相手に回収するとは本当にこのドラマの着地点が分からない。残り二話でどうするんだよこれ。

人を好きになっていく過程や葛藤が丁寧に描写されていたのが前作だが今作は予告映えする様なインパクト重視の場面を継ぎ接ぎしたパッチワークドラマであり、自分本意な人間しか出て来ないし誰と誰がくっ付くかだけに重きが置かれている。今このドラマを支持している不動産編からのファンは春田がモテれば相手は誰でもいいというフラットな考えの人間が多く、突然出てきたぽっとでの獅子丸だがその高スペックぶりに獅子丸こそ春田に相応しいという人間もいるらしい。だが、まさかの成瀬の四宮への片思いにこんなの見たかった展開ではないという声も多く、あまりにも視聴者厳選ドラマである。

牧の応援モード一色だった前作とは違い相関図がぐちゃぐちゃに入り乱れている為誰が誰とどうなっても今作のファンからは何かしら不満が出るだろうし前作ファンは未だに苦しみとんちんかんな脚本に主演ですら話でなくキャラを楽しんでくれと言っている始末だ。挙句関連グッズも展やコンサートのチケットも捌けず、一体このドラマで誰が得をしているのかが、私には本当に分からない…。