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たなえりは行方不明 #2

第二話 エリは逃亡中

たなえりとは、なんだかなんだで10年以上の仲になる。
たなえりとエリでややこしいが、そもそも私の名前をなぜか、たなえりもあだ名として使い始めたのでしょうがない。
しょっちゅう連絡を取り合う訳ではないが、人生の岐路では何度となく出逢いお互い大きな決断をする時にはそばにいる存在になっている。

そんなたなえりから久しぶりに連絡がきたかと思えば、
「エリ~、あさぎさんのアジアツアー行くから12日間のホテルとフライト予約しておいて~」っとなんとまぁ無茶ぶりである。
自分自身は小田桐あさぎさんの講座を受けたことはないが、これはまた人生の岐路になるのかも?と思い、すぐに2人分のホテルとフライト予約をしてアジアツアー全行程参加を決めたのであった。

ーーーー1月25日PM05:10ーーーー

「サムイ島、全然カード使えないからもう現金がないよ~」
パンガン島に到着して10分後のたなえりはもうすでにバーツを切らしかけていた。
とりあえず多めに現金を用意してきたのでなんとか、たなえりの分の衣装代、食事代、マッサージ代も払えそうである。
こうやってなんだかんだ周りを巻き込んで自分の好きなことができてしまうのが、たなえりという人間なのだ。

「携帯電話の充電も、もうあんまなーい!」と、今度は現金だけでなく連絡手段までなくなりかけているらしい。
とにかくパンガン島をでるまでは、たなえりの手を放してはいけないと心に決めたのであった。

ーーーー1月26日AM01:00ーーーー

海の手前には濃い煙と明かりに包まれたクラブがあった。
DJが懐かしい洋楽を繰り出している。音楽は六本木で遊んでいた時代の記憶を呼び覚ますような懐かしくも心地よいメロディーだった。

その音楽にひかれフラフラと吸い寄せられるように、たなえりと二人でDJの前まで行き音に身をゆだねる。
クラブの中では、他の客たちも同じように音楽に魅了され、リズムに合わせて体を揺らしている。その光の真ん中にいるのはたなえりだった。

ーーーー1月26日AM02:00ーーーー

さっきからバーテンダーとたなえりの見つめあう時間が1秒、1秒・・と長くなっている。
こちらはもうほとんど現金がないと言っているのに、素敵な出逢いに乾杯したいと、たなえりの前には何杯もカクテルが差し出されている。
このまま熱い視線を送るバーテンダーとたなえりを見守り続けても野暮なので、ちょっとトイレと言って海に散歩に出かける。

夜風が吹いて気持ち良い。酒で火照った体を少しずつ解きほぐしていく。
すると、突然背後から呼び止められた。
「Hi, Where are you from?」
振り返ると背が高く浅黒い、東南アジア系の男性が微笑みながら立っていた。
少し警戒心を感じつつも、日本人特有の愛想笑いを浮かべて答えてしまった。
「サンキュー、バイバイ~」適当に返事をして、踵を返し早歩きで海岸を歩く。

「Where are you from??Laous?Cambodia?Vietnam?・・・」
男はニタニタと笑い、国名を並べながらずっと私の後ろを着いてくる・・・。ラオス?カンボジア?ベトナム・・・・なんですぐ日本が出てこないんだ!っと謎の怒りがふつふつと湧いてきた。
「バイバイ~、バイバイ~」手を振りながら歩いているのに全く帰ろうとしない。
そうこうしている間に、投げ銭目当てのファイアダンサーも海辺で踊る人たちも途切れ途切れになってきた。海岸の終点まで歩いてしまったらしい。

ぱしゃん。
少し高い波音に男が気をそらした瞬間に一番盛り上がって踊る集団まで走り出した。まさかサムイで知らない男と鬼ごっこ(?)することになるなんて~。

ーーーー1月26日AM03:00ーーーー

少しのお散歩のハズが、散々な目にあった。
あさぎさんがよく言う名言のひとつにこんなものがある。
「1回目、散々な目にあう。2回目、落とし前をつける。3回目、余裕。」
元々はロックスターの名言らしいが、この言葉通りならばもう一度サムイに落とし前をつけに来なくてはいけないのかもしれない。

とりあえずさっきの男はもう追っかけてこないようで、たなえりの待つ店へと戻った。
たなえりが座っていた席にはパンガン島で着替えた洋服が置いてはいるが、たなえりもバーテンダーも消えていた。
・・・もしや恋のアバンチュールに出かけちゃった!?もしくは私が先に帰ったと思っているのか!?

周りもみんな熱狂の夜が終わってきたらしく、どんどん船着き場に向かう人が増えてきた。
これから最終便のAM5時までは船が混むと聞いたので、とりあえず港に向かって歩き始めた。

あまりにも色々なことがあった夜、心地よい音楽とお酒の力でふわふわとした疲労感がまとわりつく。眠気でぼーっとして温かい布団に包まれることしかもう考えつかない。
きっとコテージに戻ればみんな帰ってきているだろう。
この熱くて暑い夜は振り返ればきっと、人生の岐路のひとつになっているのかな。
明日、たなえりに色々話したいなぁ・・・。

#小田桐あさぎ
#アジア覚醒ツアー
#魅力覚醒講座
#ちゃん卒

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