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たなえりは行方不明 #4

最終話 たなえりは行方不明

昔はずっと何かと戦っていた。
自分を良く見せたいとか、もっと稼ぎたいとか色々考えていったら、私自身が”たなえり”ってどんな人なんだったっけ?と思い始めて、「たなえりが行方不明」になっていた。

一人でがんばってがんばってがんばって、そこから全てを手放して人に頼り始めたらミラクルが起こりまくっていた。
サムイでもやっぱり起きた、そんなミラクルなお話。

ーーーー1月26日AM02:30ーーーー

エリが席を立った後、バーテンダーがもうそろそろ交代するらしく一緒にドライブへ出かけようと誘ってきた。
もう何杯も飲んだウォッカのせいで足元がふらつきながら、立ち上がる。
今日はアジア覚醒ツアーの初日。この先あと一週間以上みんなの写真を彩るためのターポリンをしっかりと握りしめた。

バイクに乗ってバーテンダーがやってきた。後ろに乗りしっかりと彼の背中に抱き着く。
海の水分を含んだ生温かい風が頬を撫でていく。日本から遠く離れた小さな島でデートすることになるとは。あさぎさんと出会い自由にゆるく生きていけばいくほど、男性がほっておいてくれなくなるらしい。

ーーーー1月26日AM03:30ーーーー

このまま真っすぐ行けば船着き場に帰れるよ。素敵な夜をありがとう。
そう言って私を路上の片隅に座らせると、バーテンダーの彼は立ち去っていった。
夜風が心地よい。酔いも相まって、そのままうつらうつらと眠ってしまった。

道端で眠りこける私のことをゆらゆら揺らすおじさんが現れた。
「帰りの船が終わっちまうぞ!!」
どんなに揺らされても全く動じない私にあきれたおじさんは無理やりバイクの後ろに乗せると港まで連れて行ってくれた。
「このままちゃんと列に並ぶんだぞ!!!」
厳しい言葉ながらも送り届けてくれた地元のお父さんに手を振りながら観光船の列に並ぶ。

ーーーー1月26日AM04:30ーーーー

帰りの船が少なくなってくる時間帯で、船着き場は満員電車の山手線状態に混み合っている。
主張の強い海外の人は我先に船に乗り込もうと、列の並び等を全く気にせずどんどんと列のロープを乗り越えて行っている。
千鳥足の私が右へ左へと押し流されていると、屈強なロシア軍曹といった風貌のナイスガイが、大丈夫か?といい私の手を引いてくれた。
少女漫画でありがちな満員電車で壁ドンしながら彼女のこと守ってくれるヤツやーん!!と想像しながら、彼の分厚い胸板の温度を感じた。
このまま彼に包まれて眠りたい・・・・。

ーーーー1月26日AM05:10ーーーー

「もう観光船は終わっちゃったみたいだ。地元の船で帰るからじゃあね。」そう言い残すとさっそうとロシア軍曹のナイスガイは去っていった。

さて、どうしよう。地元の船に乗るにもどうやらここの港ではないらしい。
みんな心配しているだろうが、スマホの充電も切れて連絡もつかない。
港にたどり着いた所で現金もほとんど残っていないが船に乗れるのだろうか・・・。
とりあえずどこに向かうでもなく、答えを求めてフラフラと彷徨っていた。
もうすっかりパーティーは終わってしまい、あれだけ歌い踊っていた観光客はいない。

所在なさげに佇んでいると、見覚えがあるマッサージ屋のおばちゃんがニコニコしながら手を振っていた。また店に来いと手招きをしている。

「No Money!!!!!No charging!!!!!」とありったけの主張をしてみると、それでもいいから来な~と微笑んでいる。
ご厚意に甘えてiPhoneの充電器を借り、しかも疲れているだろうからとマッサージベットで休ませてくれた。

ーーーー1月26日AM07:00ーーーー

気が付くとすっかり眠り込んでしまっていた。iPhoneがフル充電されていた。

私が行方不明になってしまい、心配でみんなきっと夜も眠れていないだろう。
早速、長年のツレであるエリに電話をかけてみる・・・何回もコール音が鳴るが全くでる気配がない。
きっと心配しているであろうしっかり者のあんじゅに電話をかけてみる・・・・でない。

一縷の望みをかけてこふみんにもコールをしてみる。
少し不機嫌そうな声でこふみんが電話に出てくれた。みんなもきっと色々と大変だったんだろう。

ーーーー1月26日AM08:00ーーーー

いつまでもマッサージ屋のおばちゃんに甘えてゴロゴロしているわけにもいかない。おばちゃんに御礼を言って立ち上がった。
するとおばちゃんはイイから乗りなと言って私をバイクの後ろに引っ張ってきた。私は今日何度、現地の人にバイクに乗せてもらったんだろう・・・。
日本円しか持っていない私を見かねて、両替所まで連れてきてくれた。

・・・しかし、まだ両替所が空いていない!
するとおばちゃんはわかったわかったと言ってそのままバイクに乗り、現地の人の乗合船まで連れてきてくれた。
しかも何も言わずにチケットまで買ってきてくれたのだ!!

チケット代には全然足りないが、なけなしの300バーツを渡そうとすると、
「帰りのタクシー代に取って置きなさない」と笑顔で返してくれたのであった。
長い長い夜を超えて、やっとコテージに帰ってきた。
コテージはそれぞれの棟が独立しているのでわかりにくいが、まだまだみんなの部屋は寝静まっているようだ。
疲労を覚えながらもサムイの人々のやさしさに触れて、幸せな気分になりながら眠りについた。

ーーーー1月26日PM07:00ーーーー

無事にパーティーに到着して事の顛末をあさぎさんにも話してみた。
「あーたしかに、たなえりにいいことするとご利益ありそうだもんねー」
乾杯をしながら軽く話すあさぎさんを見ながら改めて思う。
こんなミラクルが当たり前に起こるこの世界にずっと身を置いていたいな。
世界はどこまでも優しくて、行方不明になってもみんなが助けてくれる。
それが当たり前の素敵な世界。

すごく濃縮された1日だった。
でもこれから始まる12日間のアジア覚醒ツアーはまだ始まったばかり。

ーーーーHappy Endーーーー


お話のモデルになった小田桐あさぎさんについて気になる方はこちら
小田桐あさぎオフィシャルブログ Powered by Ameba (ameblo.jp)

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