お笑い初期衝動
89.貴さんの並々ならぬ執念
『生ダラ』の特番、木梨憲武vs石橋貴明のPK合戦。
結論からいうと、これは石橋貴明さんが勝利した。
僕はこの放送を見ていて、「嘘でしょ!?」とTVの前で大変驚いた。
いや、単純に「サッカーのイメージがない貴さんが勝てた」ことに驚いたわけではない。
そこではなく、バラエティの定石を全く無視する貴さんに、僕はとてつもなく驚いたのだ。
普通のバラエティの展開であれば。
接戦になった時点で、元サッカー部である憲武さんに花を持たせるために、貴さんが視聴者にバレない程度に少し手加減して、憲武さんが勝つようにもっていく。
これが定石であろう。
とんねるずは、当時既にバラエティの百戦錬磨。
大方の視聴者の期待が、「最後は憲武さんが勝つ」であったことは、貴さんも百も千も承知だったはずだ。
しかし。それでも一切の手加減をせず、貴さんはなぜか勝利へまっしぐら。
そして、本当に憲武さんに勝ってしまった。
言うならば、最後は水戸黄門が印籠を出しておさまるんだろうと思いきや、水戸黄門がそのままフルボッコにされたような。
僕的にはそんな衝撃の結末だった。
ではなぜ、貴さんはここまで勝ちにこだわったのだろうか。
それを考えたときに、「コンビは仲悪くなってからが本当の勝負」という貴さんのあの発言が、ここで繋がってくるように思えてならない。
当時、憲武さんは安田成美さんと結婚し、愛妻家として世間のイメージは非常に良かった。
ただ、バラエティでの憲武さんはこの頃なぜか元気がなく、ひょっとして鬱なのかなぁと思うほどであった。
一方、貴さんはというと。
遊び人で暴れん坊という、所謂やんちゃな芸人というイメージで。そのイメージに即したおもしろギャグをたくさん繰り出していた。
笑いの面では、この頃のとんねるずを引っ張っていたのは貴さんだった、と言っていいだろう。
が、その繰り出すアダルティなギャグが下品というイメージにもなり、世間の貴さんへのイメージは決して芳しくはなかった。
極端に言うと、世間からは、木梨憲武=正義、石橋貴明=悪ぐらいに見えていたのだ。
あくまで僕の推測だが。当時の貴さんの心境は、こうだったのではなかろうか。
「芸人として頑張ってるのは俺の方なのに、なんで憲武の方がイメージがいいんだ。くそ…ふさけるな!!」
PK合戦での直接対決は、貴さんのそんな思いが渦巻く中で行われたものだったのかもしれない。
「不条理なまでにイメージのいい憲武に、これ以上花を持たそうなんて冗談じゃない。PKであろうが何であろうが、この際絶対に憲武を倒し、石橋貴明ここにありを圧倒的に示してやる!」
といった具合に、貴さんは並々ならぬ執念を燃やしていたのではないか。
「コンビは仲悪くなってからが本当の勝負」を、もろに体現したPK合戦。勝手ながら、僕にはそんなふうに見えた。
昔、とんねるずが売れたとき、「運があったから」「時代のおかげ」という見方をする者もいた。
しかし、この貴さんのギラギラした人並み外れたエネルギーを想像するに、とんねるずが売れたのは決して「運」や「時代」ではなく、必然中の必然であったのだろう、という思いがしてならない。
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