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想い人の悩み事

藤吉夏鈴さんで書きました


いいちこさんの企画作品です

普通ってやっぱり難しいなって思います


そしてあなたは最後
離れることができますか?笑



よしなにしてくださいな




ーーーーー
放課後
ーーーーー






放課後の部活動の時間
校庭では野球部だったり
サッカー部が活動している
文芸部に所属している自分は
部室に置かれた椅子に座り
藤吉先輩に押し付けられた小説を
ぺらぺらとめくり
ただひたすらに眺めていた

恋愛ものの小説で
藤吉先輩曰く
「○○が書く小説に役立ちそうじゃない?」
とのこと

確かに恋愛ものに関しては
経験も何も全く何も知らないので
多少なりとも役に立つかなと思わなくもない

今目にしたモノを
今すぐ文章にしてみろと言われても困るけど

そんな風に考えながら眺めていると
何の前触れもなく藤吉先輩は言った


夏鈴
「ねぇ、○○
私ね、いつも''死にたい''って思っているの」


視線を横にずらせば
ニコニコと満面の笑みを俺に向けている

いつも通りと言えば
いつも通りの藤吉先輩の顔

真っ黒な綺麗な髪

物静かで端正な顔立ち

美人という言葉が似合うその容姿に
一切の変化はなく、言葉の内容だけが
いつもと違っていた




そんな言葉に


○○
「……」


夏鈴
「……」


○○
「……俺も考えた事はありますよ」



とりあえず
思いついた言葉をそのまま返した



すると藤吉先輩が呆気にとられた顔をする


夏鈴
「えっ?」


○○
「何、素っ頓狂な顔してるんですか(苦笑)
そりゃあ俺も死にたいと思った事はありますよ
毎日は思ってないですけど笑」


とりあえず読みかけの小説を閉じて
話しかけてきた相手藤吉先輩に向き直る


夏鈴
「そう、なんだ……」


○○
「はい。それで話しは終わりですか?」


夏鈴
「え~と、ちょっと待って?
君の言葉が予想外で混乱してるから」


○○
「……別にいいですけど?」


相手が待ってくれと言い出したので
小説をテーブルに置き
とりあえずそのまま待つことに

文芸部の部室には俺と藤吉先輩しかいない

他に部員もいないし
顧問の先生も今日は職員会議があって
やってこないから
下校時間まで時間はたっぷりとある

だから
そのまま藤吉先輩の言葉を静かに待っていた


夏鈴
「……」


○○
「……」


ぼんやりと外に意識を向けると
外では運動部の喧騒が聞こえる

開いた窓から流れる風がカーテンを揺らす音
それ以外は何の音もしない

静かだなぁ
そんな事を思った所で

不意に藤吉先輩が喋り始める


夏鈴
「……○‭○っ‬てさ
今の言葉が冗談だって思ってる?」


○○
「冗談で言ったんですか?」


夏鈴
「いや……違うけど……
ただ……普通に『自分も』なんて
返された事がなかったから
○○なりの冗談か何かかなって……」


○○
「ああ、『そんな事言ったってどうせ死なないじゃん』とか『何阿呆みたいなこと言ってるの? 』とか?」


夏鈴
「そうそう」


うんうんと頷く藤吉先輩を見て
少し考えた後、俺は口を開いた


○○
「先輩が冗談の類で''死にたい''なんてこと
聞いた事がなかったので
俺は自分の思った事を返しました」


夏鈴
「自分で言うのもなんだけど
私、笑ってたけど?」


○○
「でも、本当に''そう''思ってるんですよね?」


俺がそう尋ねると、
藤吉先輩は「そうなんだけどね」
と困ったように笑う
あぁ、可愛い……


夏鈴
「君は周りと比べて
変わってると思ってたんだけど
本当に変わってるよね
私が何となくで言った言葉を
そうやって正直に返すんだもの」


くすくすと笑う藤吉先輩に
「別にそこまで変な事は言ってないような🤔」と思ったけれど
藤吉先輩がそんな反応をするのだから
変な事を言ってしまったのかもしれない


夏鈴
「でも……うん……
折角だから私の話、聞いてくれる?」


○○
「はい、元からそのつもりですし」


藤吉先輩の言葉を待っているから
こうして待っている

そんな自分の言葉に
藤吉先輩はもう一度笑った


そして、藤吉先輩は語り始める








ーーーーーーー
普通とは
ーーーーーーー





それは世間一般で言われている''普通''と
藤吉先輩の趣味嗜好や感覚にずれがあって
人生が楽しめていないということ

幸か不幸か
藤吉先輩はその''普通''に
合わせる事ができたから
周囲から爪弾きにされることはなく
過ごしてきた
けどその''普通''に合わせて生きる事に疲れて「自分は一体何のために生きているのか」
そう思うようになったということだった

楽しくないのに
疲れる事が圧倒的に多いのに
何で自分は生きているんだろうと


夏鈴
「そう思うようになってから
『もう生きるのがしんどいなー』
って思うようになって
けど死にたいって思うのに
実際やろうとしたら怖くなって
結局できなくて
そして自分を取り繕って生きるのが嫌になってまた死にたくなる
俗に言うヘラってるってやつ?笑」


毎日その繰り返しと軽く笑う藤吉先輩

その藤吉先輩の姿と言葉を聞いて俺は言った


○○
「死にたくないって思っていても
''死にたい''って気持ちが嘘になるなんてことは決してないと思いますよ」


夏鈴
「……えっ?」


○○
「先輩の話を聞いていると
先輩の中に''死にたい''と''死にたくない''の
気持ちがあって
どちらか''本当''でもう片方が''嘘''だと言うこと
それに悩んでるのかなと自分は思うんですけど……」


一つ一つ丁寧に言葉を選びながら話し続ける


○○
「先輩の趣味嗜好や性格がどうであれ
辛い時は誰だって辛いし
けど死ぬのは誰だって怖い
これは分けて考えるモノじゃなくて
どっちも''本当''の事だから
それを''嘘''だとか''間違い''だと考えて
悩む事じゃないと思います」


だから辛い事を冗談のように
笑って話す必要はない

そういうと藤吉先輩は笑みをゆっくりと消した

それは藤吉先輩が隠していた本心を
露わにしたという事だろう

今藤吉先輩は困ったように
眉間に皺を寄せて俺を見ている


夏鈴
「でも、『死にたい!』って事を
辛いって表情していっても嫌じゃない?
しかも理由が……
その……自分を出せずに
周りに合わせていることに疲れたっていう
大した事ないことだし」


○○
「……んまぁ、良く知りもしない人間に
急にそんな事言われても困りますけど
でも相手が先輩なら普通に聞きますよ?
それに大した事がないとか
それは周りの人が勝手にそう思っているだけで先輩はそれについて真剣に悩んでいるなら
人がどう思うのかは関係ないでしょう」


夏鈴
「……○○ってさ」


○○
「はい?」


夏鈴
「やっぱり変わってるよね」


○○
「そうですか?」


夏鈴
「そうだよ? 普通そんな風に言わない
死ぬって言葉を使ったら
困った顔をするか冗談で済ますし
私の悩みだってそう
『当たり前』とか『大した事が無い』とか言ってそんな風に真剣に向き合うなんてこと
……今まで一度もなかったもの」


藤吉先輩はふわりと笑う


○○
「……」


その笑みはいつものようで
けどいつも以上に綺麗なものだと思った


夏鈴
「でも、言えてよかったって私は思うの
……うん、私は多分誰かに
私の話を聞いて欲しかったみたい」


○○
「……これはどっかで聞いた話なんですけど」


今の笑顔は作ったものではない
そう感じて俺は言った


○○
「''死にたい''って言葉は誰かに向かって
''助けて''と言っているのと同じらしいですよ」


夏鈴
「……そうなの?」


○○
「ええ、死にたいっていうのは
誰にも言えない悩みを抱えて
自分ではどうしようもできないから
だからそれを何とかしたくて
吐き出す言葉なんだとか」


夏鈴
「……そっか」


俺の言葉に藤吉先輩は納得が言ったようで
ゆっくり噛み締めるようにして頷いた


夏鈴
「○○」


○○
「はい?」


夏鈴
「ありがとうね」


○○
「……俺、お礼を言われる事しましたっけ?」


俺は藤吉先輩の話を聞いて
思った事だけを言ったつもりなんだけど


夏鈴
「うん、私にとっては助けてもらえたっ」


そう言ってクスリと笑う


夏鈴
「ねえ、○○」


○○
「なんですか?」

夏鈴
「今度からさ
こういう周りに言いにくい事
○○に話してもいい?」


○○
「いいですよ」


夏鈴
「自分でもいうのも何だけど
○○はそうやって即答するんだね」


○○
「だって、俺先輩好きですし」


夏鈴
「えっ?」


○○
「あ、やべっ」

話の流れと言うか、''答えなくちゃ''という思いで藤吉先輩の言葉に返事していたからか
自分は藤吉先輩への好意をあっさりとバラしてしまった


夏鈴
「……」


○○
「……」


それまで流れていた空気が一遍して
場がしんと静まり返る

藤吉先輩はキョトンした表情でこちらを見る
俺はその視線に耐え切れずに
ゆっくりと顔をそらす


夏鈴
「……なんか
今さらりと告白されたような気がするんだけど気のせいかな?」


○○
「……ええと、その……いや……うん……
きっと聞き間違いじゃないですかね?」


藤吉先輩の言葉に顔をそらしたまま答える


夏鈴
「……ふーん🤭」


表情は見えないが声の感じから察するに
藤吉先輩は笑っているようだった


夏鈴
「聞き間違いかー
そうかー
私の聞き間違いか
そういうことにしといてもいいけど
そうすると○○はもう話してくれない
気がするから
○○が私の目をみてその事を話すまで
この話を続けようかな(ニヤッ」


○○
(げっ)


思わず藤吉先輩の方を向くと
両手を顎に乗せ、いたずらっ子のような笑みを浮かべこちらを見ていた

それはとても楽しそうで
言葉の通り見逃してくれそうに無い


○○
(しくじった)


自分は藤吉先輩に
思いを告げるつもりはなかったのに

藤吉先輩が自分の悩みを
打ち明けてくれたのが内心嬉しくて
隠すつもりの気持ちを
思わず言ってしまった事を後悔する




ーーーーー






先輩が''死にたい''と思うように

自分も''死にたい''と思っていた

昔から周りに馴染めず
かといってそれを良しとしていなかった俺は
このまま生きていかなければならない事が
苦痛で仕方なかった

けれど、高校に入学し
趣味の読書から講じて書き上げた小説を
たまたま藤吉先輩に見られたとき

夏鈴
『これ面白いねっ』


その言葉に
こんな自分が''認められた''ようで嬉しかったし
それに人の付き合い方がわからない自分に
藤吉先輩は''変わってる''と
いいながらも付き合ってくれる
そんな藤吉先輩の事を好きになるのに
そう時間はかからなかった

けれど自分みたいな存在が
藤吉先輩に思いを告げても迷惑だろうと思って
この気持ちは蓋をするつもりだったのに
我ながら何とも間抜けな事ををしたんだと思う

でも、必死だったのかもしれない
''死にたい''と助けを求めている藤吉先輩は
''死にたい''と思っていた俺を救ってくれたから

変わっているという自分にとって
ただ苦痛でしかなかった言葉を''面白いね''と
前向きに捉えてくれたのは
生まれて始めてだった

そんな彼女の傍に少しでも長く居られたら
それだけで十分だと
自分に言い聞かせていたのに

藤吉先輩……
なかった事にしてくれないかな
そう思うけれど……


夏鈴
「ジーッ……」


○○
「……」


夏鈴
「ジーッ……」


○○
「先輩とりあえず一旦無かったこ___」


夏鈴
「夏鈴」


○○
「へっ?」


夏鈴
「夏鈴って呼んでくれないとずっとこのままだよ?」


○○
「っ!////」


この人はなんてずるい人だ……
藤吉先輩……夏鈴先輩はさっきの言葉通り
自分がもう一度
気持ちを告げるまで粘るだろう

だから
俺が自白という名の告白をさせられるのは
そう遠くない未来の話し___


夏鈴
「今答えてね?(ニヤッ」


○○
「無理ですっ!////」


耐えきれず、椅子ごと半回転し
夏鈴先輩に背を向ける
すると……


(ガタッ


(ギュッ


○○
「っっ!?!?」


心臓が飛び跳ねる
状況が掴めない
冷静に考える……無理だ
1つわかることと言えば
夏鈴先輩の匂いがする……
耳元で先輩の息遣いが聞こえる
これは…夏鈴先輩に抱きつかれている


夏鈴
「……ねぇ……私の事嫌いなの?」((ボソッ…


○○
「っっっ!?!?」


何度……何度…
この人は自分の脈拍を上げれば
気が済むのだろうか
耳元で囁かれ心臓がドクドクと脈を打つ


夏鈴
「どうなの?((ボソッ…」


○○
「は……離してくだ……さい……////」


夏鈴
「え〜やだ〜♡(ギュッ
もう一度言ってくれるまで離さない♡」


そう言って先程より強めに抱きしめられる

明らかに夏鈴先輩はこの状況を楽しんでいる
不覚にも自分はいい様に
手のひらの上で転がされている


○○
「い、言いますからっ////
離れてくださいっ!////」


夏鈴
「○○がちゃんと言ってくれたら
離れてあげてもいいよ♡((ボソッ…」


○○
「んんん////
……す……好きです……////
好きなんです!夏鈴先輩の事が!////」


夏鈴
「私も○○のこと大好きだよ♡((ボソッ…」


○○
「~~~~~っ!////(声にならない叫び)」









ーーーーーー







ひょんなことから
自分の気持ちが知られてしまったけど
これはこれで結果的に良かったのかもしれない
まぁ悩み事は解決したみたいなので良かった

口を滑らしてしまったことは
ちょっと後悔しているけれど…



想い人は今
自分の隣にいる
どこか自分と似ていた想い人
その想い人の心に
これからも寄り添えたらと思う









___fin

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