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うらわ美術館「雰囲気のかたち―見えないもの、形のないもの、そしてここにあるもの」感想

うらわ美術館で開催されている
「雰囲気のかたち―見えないもの、形のないもの、そしてここにあるもの」を観に行きました。

展覧会の概要と訪問状況は下記の通りです。

春のうららかさや早朝の清々しさ。あるいはくつろいだ空間や何かが起こりそうな気配…。私たちのまわりには、姿形はなくてもその場や空間を色づけ、感情や行動に大きく作用する雰囲気と言えるものがあります。それらは時に、空気や佇まい、生気やオーラ、ムードなどと呼ばれることもあるでしょう。そうした、曖昧でうつろい、時に存在さえ示せないものを、美術家たちはどのように描き、写し、形づくっているのでしょうか。

本展では、はっきりと見えないもの、刻々と変わる不定形なものなどを表現した作品を、国内の近現代の絵画や彫刻、ドローイング、映像、写真などで紹介します。美術家たちは感覚を研ぎ澄ませ、流れる大気、周辺の空間や時間、その関係やあり方をとらえようとします。その場を満たす光や粒子、輪郭、あるいは筆致や素材の吟味によって、さらには言葉へつながることによって、物質を超えた存在に形を与えています。

私たちは昨今、ウイルスや情報など、時代をも動かす目には見えないものをより意識するようになりました。そのような中で改めて、私たちのまわりにあって空間を染め、ある力や豊かさが存在する場を、つかみ、作ろうとする美術家たちの表現に触れてみたいと思います。

展覧会公式ホームページより

【概要】  
  会期:2022年11月15日(火曜日)~2023年1月15日(日)
 休館日: 月曜日(ただし1月9日は開館)、
     年末年始(12月27日~1月4日)、2023年1月10日(火曜日)
開館時間:10時~17時
     金・土曜日のみ20時(入場は閉館30分前まで)
  料金:一般830円(高校生以上)、大高生520円、中小生200円
     障害者手帳をお持ちの方および付き添いの方1名は半額
     リピーター割引:観覧済の有料観覧券の提示により、
             団体料金でご覧いただけます
             (観覧日から1年以内、1名、1回限り有効)

展覧会公式ホームページより

【訪問状況】    
   日時:日曜日午前
 滞在時間:11:30~12:30
 混雑状況:空いていてゆったり見ることができました。
      展示の間隔も十分でした。
感染症対策:入口で検温、手指の消毒
 写真撮影:一番気に入った一作のみ撮影可

展示構成は下記の通りでした。

横山大観、菱田春草 -空気を描く方法
中谷芙二子 -風と大地と動く・霧の彫刻
武内鶴之助 -雲と大気を見つめる
大正から昭和初期の写真家たち -気配・印象を写し撮る
伊庭靖子 -光と空間の質を描く
牛島憲之 -写生を超えた熟成の形
小川芋銭 -自然の生気と精霊を見つめる
瑛九 -微細な点と光で描く
河口龍夫 -見えるものと見えないもの・漂う関係
若林奮 -距離、振動、雰囲気を形にする
福田尚代 -浮遊する粒子

出品リストより

いつもの如くNHKEテレの「アートシーン」で紹介されているのを見て興味を持ちました。近所なので思い立ったらすぐ行けます(笑)。

漫画家のヤマザキマリさんが長谷川等伯の「松林図屏風」を評して「松を描きながら空気を描いている」とコメントされていましたが、確かに優れた作品は独特の空気感を持っているように思います。今回の展示は一言で「雰囲気」といっても、形のないものをいかに絵画に表すかという技術的な観点から始め、肉眼でとらえられないものが写りこむ写真、作品の対象との距離感、時間、意味など哲学的なテーマをどう表現するか追求した作品など、バラエティに富んでいました。一人の作家(あるいはジャンル)の作品をまとめて展示することによって作家(分野)がどのように自分のテーマに取り組んできたかも伝わり、なかなか考えさせられる展示でした。

特に気になった作品は下記の通りです。

◆横山大観「菜の花歌意」1900年(明治33年) 個人蔵
朧げな菜の花と水面の描写が春の潤いのある空気を感じさせます。一方で左上の冴え冴えとした三日月と右下に描かれた蝶の対角線が画面を引き締めているように感じました。大観が日本美術院の音曲に基づいて制作するという課題で描いた作品とのことですが、まさに印象を形にするというお題で展覧会のテーマにぴったりだと思いました。

◆菱田春草「松に月」1906年(明治39年) 東京国立近代美術館
今回の展覧会で一番気に入った作品です(なので写真を撮ってきました!)。前景に重なる松の葉が月明かりを強調していて、眩しさを感じるほどでした。ぼかすだけでなく、くっきりした描写とかすんだ描写を対比させることで光を表現しているところが見事だと思いました。キャプションで紹介されていた”大観、春草が推し進めた「朦朧体」は輪郭線を重視する日本では批判を浴びたが印象派の土壌がある海外では評価され自信を深めた”というエピソードも興味深かったです。

菱田春草「松に月」1906年(明治39年) 東京国立近代美術館

◆武内鶴之助「黎明」制作年不明 うらわ美術館
キャプションによると、武内鶴之助は一瞬の光景をいかにとらえるかという西洋の印象派のようなテーマで描いていたようですが、アプローチの違いを感じました。小さな画面に色を塗りこめて光のきらめきを表現しており、パステル画ならではの効果なのかなと思いました。

◆牛島憲之「昼の月」1940年(昭和15年) 府中市美術館
牛島憲之の今回展示されていた作品はこの絵に限らず遠い美しい記憶のような、白昼夢のような、儚げなような永遠に揺蕩っているような、不思議な感触を残すものでした。戦時中にどんな思いでこのような絵を描いたんだろうと気になりました。気になる作家です。

◆若林奮「自分自身が目前の空間を測る為の模型Ⅲ」1979/1998(昭和4/平成10年) 神奈川県立近代美術館(河合コレクション)
立体を表現するためでなく対象と自分の距離を表現しているような作品でインパクトがありました。自分のテーマに対する探究心というか、執念を感じました。

◆福田尚代「塵の妖精」2014-2019年 作家蔵
一見シールアートのようなのですが、少女漫画の目の部分をコラージュして作った作品だと知るとトキメキの名残というか、それまでなかった情感が感じられるような不思議な作品でした。思えば鑑賞者が作品に対して抱く感想も形のないものですが、それすら作品の一部のような気もします。

後の予定が詰まっていたため少々駆け足になってしまったのですが、もっとじっくりと見たいと思われせる内容でした。リピーター割引があるようなので、気になる方は何回か足を運ばれることをおススメします!

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