*試し読み:誘惑★オフィスLOVER2―プロローグ06―
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今日は低く見積もっても、最低最悪な運勢。
身も心も疲れ切った状態で、ひとり暮らしの部屋に帰る度胸はなくて、私の足は意識をする前から実家に向かっていた。
相沢美月「ただいま・・・」
鍵を開けて玄関に入ると、廊下の先に明かりが見える。なんだかものすごくホッとして、思わず顔がほころぶ。
リビングのドアを開けると、ソファに座って携帯を操作していた妹の陽向が、顔を上げて目を大きくする。
陽向「あれ、お姉ちゃん? 珍しい、金曜日じゃないのにこっち来るなんて」
相沢美月「うん・・・今日、出先から直帰だったの。マンション帰るより、こっちのが近かったから」
陽向「そっか、お帰り」
相沢美月「ただいま・・・お母さん、もう寝てる?」
陽向「じゃないかな? 私もさっき仕事から帰って来たばっかだから、わかんないけど」
相沢美月「そう・・・」
陽向「そんなとこ立ってないで、座れば?」
なんでもない会話が、心をほぐす。疲れた表情に弱さを紛れさせて、陽向の隣に座る。
陽向「お姉ちゃん、なんかあった?」
相沢美月「どうして?」
陽向「・・・なんとなーく。あ、ねぇ! この間話してたシャンプーのCM、まだ撮影とかしてないの?」
相沢美月(今、それ聞く・・・?)
相沢美月「どうして?」
陽向「お姉ちゃんが初めて手掛けた作品でしょ? 早く見たいと思うのは、当然!」
弾けるような笑顔の眩しさに、私はようやく、心の底から悔しさを実感する。
なるべく軽く聞こえるように、笑顔を貼りつける。
相沢美月「ダメになっちゃった」
陽向「え?」
相沢美月「担当から外れることになったの」
陽向「でも、お姉ちゃんのアイディアでしょ?」
相沢美月「コンセプトは変わらないまま、他の人が」
陽向「どうしてよ」
相沢美月「上からの命令で、そう決まったの」
陽向「そんな・・・!」