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Universe 25 Experiments

仕事柄色々な文献を読むのだが、この前非常に興味深い論文を見つけたので共有する。

「universe 25 experiments」というマウスを用いた動物実験であり、米国の動物行動学者John B.C. が実施した個体群研究である。以下、実験の概要・デザインを記述する


野生生物において、飢餓・疫病・捕食者など生存に対する脅威がありふれている。それらの脅威が全て排除された時、動物はどのような集団行動を取り、どのような社会形成を行うのだろうか。

【本研究の目的】本研究の目的は「楽園の観察」である。脅威が一切存在しない環境、すなわち「生存に最適化された環境」をマウスに与え、どのような社会が形成されるのか、また野生環境との差異が発生するかを観察した。

【マウスの生育環境】John B.C.は自身の論文中に、5つの生存の脅威を挙げている。①住処からの追放 ②飢餓 ③悪天候 ④伝染病 ⑤捕食者 である。具体的には、256の居住エリアと16の巣穴からなる広大な生育環境(最大3000匹まで収容可能)に無制限に餌と水分を与えた。更に、病気は予防され最適な温度に保たれ、人工的な環境ゆえに天敵はいない。

マウスの居住スペース

この実験で使用されたマウスの寿命は800日、すなわち人間に換算すると10日で1年である。この社会モデルでは、観察中に4つのフェーズに分割された。

マウスの増加とフェーズ分類


【フェーズ1: 適応期】1968年7月9日、実験が開始され、初期マウスとしてオス4匹、メス4匹のマウスが投入された。当初、この8匹のマウスは広大な生育環境や互いのマウスに慣れず困惑した様子を見せていたが、徐々に順応していった。
 実験開始から104日後、実験初のマウスの子どもが誕生した。この0〜104日を「フェーズ1: 適応期」と称した。


【フェーズ2: 社会形成期】その後、個体数は激増した。最初のマウス誕生から55日で倍増し、20-40-80-160-320-620匹と指数関数的に増加した。ここまでで実験開始から315日が経過した。この人口爆発が起きたフェーズを「フェーズ2: 社会形成期」とした。
 この時期に、楽園に社会が形成された。興味深いことに、充分な居住空間があるにも関わらず、マウスはある一定のエリアに集中し、同じ食料源から餌を食べていた。食事という共同作業により、グルーピング、すなわち「群れ」が形成されたのである。天敵がいるわけでもなく、自然発生的に生まれた群れが、社会形成の発端となった。

 この群れの形成を契機として、ある一つの概念が生まれた。「格差」である。無制限の食料、充分な居住空間にも関わらず格差が発生した原因として、各エリアの居住人数にバラつきが発生したことがあげられる。(人口密度の差異による1匹あたりの確保スペースが群によって異なる)実際、13匹から構成される群れもあれば、100匹以上のマウスが窮屈に生活する群れも存在した。このような事情から、集団内での権力争い、集団間での縄張り争いが生じ、格差社会が発生した。


【マウスの格差階層】
オスのマウスには、5つの階層が観察された。ABの支配階級、CDEの被支配階級である。

A: ボスマウス
地位は盤石であり、このマウス自体は好戦的でなく守りに徹するような保守的な行動様式であった。

B: ノーマルマウス
Aに比べ地位は不安定であり、自ら縄張り争いに参加する好戦的な性格であった。

この2つのタイプは現実の野生環境においても観察されていたタイプであり、集団行動をする動物において通常の群れ形態である。以下のCDEタイプのマウスは戦いからドロップアウトしたマウスである。


C: 浮気者マウス
このマウスは闘争には参加しないが、オスメス、子供関係なく求愛行動を呈した。ただし性格は穏やかであり、ABマウスに攻撃を受けても闘争に参加することはなかった。

D: ストーカーマウス
Cと同様に誰彼構わず求愛行動を仕掛けたが、Cよりも執拗に追いかけ回した。

E: 引きこもりマウス
性格が極めて非社会的であり、孤立していた。巣から出てこず他のマウスに関心を示さず、他のマウスが睡眠を取っている時間に餌を食べていた。


CDEタイプのマウス、いわば社会的役割を見つけられなかったマウスは自然界では巣を追われ、別の住処に移住する。そこでABマウスとして活動する。ABになれなかったマウスはまた群れを追い出され、飢餓や捕食により脱落する。
 しかし、この実験では住処が充分に存在し餌も尽きることがない。従って社会からドロップアウトしたものの集落にとどまり続ける。
 ABマウスは巣穴という個室をもち、CDEマウスは実験施設中央の広場に集合しスラムを形成した。

 一方、メスのマウスにもオスマウスのカーストに伴い格差が生まれた。ボスマウスに選ばれ囲われる「家持ち」マウス、選ばれなかった「スラム」マウスである。


【フェーズ3: 停滞期】
 フェーズ2では倍増の期間が55日に対し、ある程度個体数が増えると、倍増の期間が144日と増加スピードが鈍化していた。この鈍化には雌の格差が関連している。
 注目すべきは「家持ちのメス」と「スラムのメス」の子育てである。家持ちのメスは子育てがうまく、出産後にも新生マウスのケアをすることで乳児死亡率は50%程度までに留まった。問題はスラムのメス(CDマウスの子供を産むメス)の乳児死亡率は90%を超えていた。CDマウスは非好戦的であるため、子供のためにも戦わない。すると子供を守るためにはメスのマウスが戦わざるを得なくなり、子育ての時間がとれなくなった。また、スラムのメスは家持ちのメスと比べて徐々に好戦的になった。
 しかしながらこの高い攻撃性は自分の子マウスにも及び、母マウスの元から逃げた子マウスはEタイプになるか、最悪の場合他のマウスに殺されていた。

かくして、混乱のフェーズ3が終了する。実験開始から560日、出生数と死亡率が並び、個体増加率は頭打となった。この時の個体数は2200匹である。餌の量、収容容量からみてもゆとりがあるにもかかわらず、人口増加が停止した。

【フェーズ4: 終末期】
実験開始から600日、とうとう乳児死亡率が100%となった。実験開始から920日以降にはメスの妊娠も確認されなくなった。
実験開始から1330日、楽園生存者の平均年齢は776日、超高齢化社会になる。
実験開始から1440日、楽園生存者はオス22匹、メス100匹となった。
 自然界では個体数が減少すると餌の確保や居住空間が確保できるようになるため、個体数は回復することが多い。しかしこの楽園では個体数が回復することはなかった。フェーズ3から4において、オスのマウスの生存者の殆どが異性に関心のない「Eタイプ: 引きこもりマウス」であったためであり、社会に生殖能力がなくなってしまったのだ。

かくして実験開始から1780日後、最後のオスが死亡し、楽園は崩壊に至った。食料無限、天敵がいない環境で生物が絶滅したのである。


長文になったが、ここまで見ていただいた読者にもう一度実験名を思い出してほしい。


【universe 25 experiments】

この実験は、通算25回の実験である。この実験は、25回目のuniverseであった。

諸条件を変えた24回の実験でも、全て同様の結果となった。例外なく、全ての楽園が滅んだ。


地球という楽園は、崩壊に向かっているのだろうか。人類が動物や天災、疫病と戦い続け獲得した現代文明という楽園。自由とは楽園のようであり崩落の始まりではないかと思うような研究内容でした。

生物とは本来非社交的なもので、生き残るために社交的な性質を獲得しているだけなのかもしれません。人類も例に漏れず。

面白い研究がありましたら共有していただけると嬉しいです。
ではまた。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1644264/pdf/procrsmed00338-0007.pdf

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