見出し画像

スナック、という異世界。

蔓延防止等重点措置、通称「まんぼう」の規制が緩くなりました。
外で少し食事を楽しめる時間が増えたような気がする。僕は21時までは研究室に篭っているので、
基本ラストオーダーに間に合わない。そこまで恩恵を受けている気はしないのです。悔しい。

大学からは月4万円弱しか貰っていないが、ありがたいことに「薬剤師」という国家資格を持っているので、好きなことをしながら飲みに行けるくらいの給料はもらえている。


たまたま今日はいつもより早く帰れたので、どこかで飲んでから帰りたいな、と思い「食べログ」で飲めるお店を探しました。
食べログは皆さんご存知かも知れませんが、基本的には辛口評価です。平均3.0を超えていれば特に文句なし、3.5を超えていれば優良点といっても差し支えないのです。


そんな中で、最寄りの駅の近くで探していると、評価 "1.6" という一際異彩を放つお店を見つけました。レビューを見てみると、

「二度と行かない。」
「なぜ潰れないのか分からない。店員の態度も悪いし値段も高い。おすすめはしません。」
※原文ママ


普段はこんな店絶対に選ばないが、今日の僕は何故か興味が湧いてしまった。
食べログには分類はBARと記載があったが、スナックのような店らしい。気がかりな点は多数あれど、とにかく行ってみることにしました。


路地裏にあるその店は、一見さんお断り、的な雰囲気を醸し出していて非常に入りにくい。無造作に置かれた焼酎の瓶と吸い殻がハリネズミのように放置された灰皿は、税関を通るときのような緊張感を盛り上げている。


意を決して入った僕を、中年女性の店員と常連と思しき男性が品定めする様にジロジロと眺めてきました。


店員「……どうぞー。」


正直、この時点で危険な香りがしました。
このような態度の店員に期待が持てるわけありません。
しかし、食べログに記載のあった「夜 2000円〜」というある程度の値段推定もあったので、その程度なら問題なかろうと判断したのもあり、席につきました。


「ビールでいいですか?」
こちらから注文をする間も無く、一杯目が自動的に決められてしまいました。
完全にその場の空気に飲まれていた僕は、断ることができずにビールを飲むことに。
ちなみに運ばれてきたものは、確実にビールではなく発泡酒でした。

こんなキレイな色はしていなかった気がします…

 メニューを見てみると、
「Moët & chandon  ¥48,000」
震える値段設定でした。

特に話すことも出来ずにいた僕は、ひたすら雑味豊かな発泡酒を、お通しのピーナッツ(後に判明しましたが、800円もしました。)を食べながら飲んでいました。


横の常連をみると、楽しそうに中年女性店員に話しかけていました。白髪混じりの丸メガネをかけた、お世辞にも成功者とは言えないおじさんです。
大声で喚いているので、耳をすまさなくても聴こえてきました。


「俺はな、いい酒をいつも飲んでんだ!こんな酒飲んでたら舌が腐っちまう!ひひひ。」

常連のおじさんは、お酒のマウントをとっているようでした。そのおじさんがビールだと思って飲んでいるそのお酒も、多分発泡酒だと思います。


「そうだねー。」
中年女性の店員は、おじさんが奢ったのだろうMoët & Chandonをグビグビ飲みながら、軽く流していました。おじさんが(恐らく)なけなしのお金で奢っているだろう高級酒を、喉をグビグビ鳴らして飲む姿。

おじさんが大枚を叩いて買った高級シャンパン、命のメタファーのような酒が無慈悲にも胃に流し込まれていく。
「疑似恋愛」搾取の風刺画を見ているようでした。


多分もう二度とスナックに行くことはないけれど、大切なことを学んだ気がする。冒険心を出してみてよかった。


この後発泡酒で酔ったのか、転んで擦りむいてしまった。多分、無意識に動揺しているのだろう。

15年ぶりに膝を擦りむいた気がする。


これ以外にも大人の社交場に顔を出し、痛い目を見ているが、またの機会にする。
ではまた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?