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DNAR/緩和ケア/ACP/人生会議/etc・・・2020

急変関連では色々な用語が飛び交っていますので整理しました。

適宜、修正加筆しています(最終更新2020/11/01)


DNAR

DNARとはdo not attempt resuscitationの略語です。蘇生治療に成功することがそう多くない中で蘇生のための処置を試みない用語として使用されています。


蘇生治療とは、心臓マッサージを含めた一連の行為になります。心臓マッサージはするが気管挿管は希望しない、といった蘇生治療の一部を実施するPartial DNARもあるようですが、これは推奨されていません。



似たような用語にNO-CPRがあります。その他、DNAや最近ではANDという言葉もあります。

歴史的に色々と試行錯誤されて今のDNARという言葉に落ち着いています。表現的にも解釈的にも誤解されないように、という試行錯誤の結果ですのでNO-CPRもDNARも根本は同じです。これらは、あくまで心停止時に蘇生治療はしないという決め事だけです。


蘇生治療に成功しそうな方であればDNARの指示があってもしっかりと治療するべきかを議論する必要があります。通常の医療・看護・ケアに影響を与えない、ということを認識しましょう。



医療者の認識が混乱しやすいことから日本集中治療医学会による勧告がなされました。以下が参考資料となります。


他にも以下のような内容で詳細PDFがダウンロードできます!

◎DNAR (Do Not Resuscitation Attempt)の考え方

◎生命維持治療に関する医師による指示書(Physician Orders for Life-sustaining Treatment, POLST)とDo Not Attempt Resuscitation(DNAR)指示



急性期医療で「DNAR」となっている方が在宅に戻ったとき、蘇生治療はしないということはわかりますが、その他の急変症状の対応はどうなるでしょうか?



BSC

BSCとはbest  supportive careの略語です。支持療法といった感じで訳されます。もともとは海外の文献で「抗がん剤の臨床試験における副作用・合併症の症状緩和を行うこと」のみを指すものですが、和製英語や直訳日本語の影響により曲解されて、今では「積極的な治療を行わずに症状緩和の治療のみを行うこと」のような解釈をされることが多いようです。

なので以下のブログではBSCは用いないで!としてます。



2018年にがん対策推進協議会の計画にはこう書かれています。

「”支持療法”は、がん治療に伴う副作用・合併症・後遺症等を治療することにより、療養生活の質を向上させ、さらに患者が無理なく仕事と治療を両立できるようにする治療」

なのでBSCという言葉は使われていません。


「BSC」を改めて「支持療法」とし、がん治療の一環であると明確にしたわけです。ちなみに支持療法と緩和ケアは同義ではありません。


在宅生活においては、支持療法という言葉よりは緩和ケアと使っておけばどの疾患でも対応になりますので意思統一しやすいと思います。


緩和ケア

2002年にWHO(世界保健機構)は緩和ケアを次のように定義しています。

「緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、疾患の早期より痛み、身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題に関してきちんとした評価をおこない、それが障害とならないように予防したり対処したりすることで、クオリティー・オブ・ライフを改善するためのアプローチである。」

日本ホスピス緩和ケア協会も色々と書いてあります。


しかし、緩和ケアという言葉だけで具体的に何も決まっていません。そこで必要になるのがプランニング(ACP)です。


ACP

ACPとはadvance care planningの略語です。事前医療・ケア計画,事前ケア計画,ケア計画事前策定プロセス等と訳することができます。

このサイトにもわかりやすく記載がありますので参考にしてください。


ACPやDNARは病気に関する治療が開始されてからの話になります。病気にもなっていないのに色々と想定して仮計画を立てるリビングウィル(遺言)を作成する人はあまりいません。



厚生労働省は「終末期」を改めて「人生の最終段階」と表現しています。DNARなどを考えるにはこの最終段階において自分がどうなっているかを想像する必要があります。



今の時代、様々な情報が手に入りますが「情報リテラシー」という課題によって混乱する場面も多々あるかもしれません。生老病死を考える風土・教育・家族関係構築等を考える場(学校教育とか)も沢山あったら良いと思います。



その場の一つには、厚生労働省が提案した「人生会議」があります。ACPの名称では世間的には使いにくいので、愛称として考えたようです。

以下に「人生会議」について詳細がありますので参考にしてください。



今すぐ人生会議をして計画を立案しなければならない!というわけではありません。まずは、その過程を踏まえることが大事であると言われています。また、その時々の置かれた状況によって意思は変化する可能性があります。少しでも疑問に思ったら何度でも相談しましょう。



人生会議の騒動では沢山の意見が飛び交いました。色々とディスカッションされましたが、最終的に良いまとめ方をしているサイトがありましたので参考にしてください。



医療施設における急変

蘇生治療に成功することがそう多くない中で蘇生のための処置を試みないとした場合のDNARの内容を整理します。その都度、相談できる環境にあるので、事前に決めておいた内容を後から変更することも十分にありえます。



心停止時→心臓マッサージ?

蘇生できない可能性が高い場合は、それだけではなく胸骨圧迫は骨折(痛み)や血胸/気胸のリスクも増えますし、蘇生できたとしても一時的な場合もありえます。苦痛についてはぜひとも考えておきたいところです。



呼吸状態の悪化→人工呼吸?

人工呼吸をする場合には、その後に人工呼吸を永続的に使用する可能性や気管切開に至るリスクも考えておく必要があります。発声や摂食嚥下にも影響が生じるでしょう。確かに気道確保と人工呼吸というサポートがあれば呼吸はできるようになるかもしれません。ADLやQOLの状況と照らし合わせながら、よく考える必要があります。



急を要する重篤な症状の場合

昇圧剤や抗生剤などは見た目はあまり侵襲的ではありませんので、そこまでは治療を希望する、という方が多いかもしれません。また、今の時代はECMOやRRTといった選択肢もあります。しかし、最大限の治療が奏功せずに苦痛を与え続ける可能性もあります。前述の2つよりも、更にわかりやすい説明が求められると思います。



軽微な症状の場合

医療施設ですのでいつでも看護師・医師・その他スタッフに声をかけることができます。どうしよう~と迷った時には遠慮なく声をかけると思いますが、在宅ではどうしたら良いでしょうか?



在宅における急変

在宅ではDNARという言葉は使いそうにありません。なので、別のわかりやすい言葉を使う方が良いでしょう。人生会議でも、ACPでも何でも構わないと思います。


蘇生治療に成功することがそう多くない中で蘇生のための処置を試みないとした場合、先ほどのように想定される場面に沿って一つ一つ考えておく必要があります。

最初に間違ってはいけないことは「心停止の場合は心臓マッサージはしないことになっているから、心臓マッサージをする責任がある救急車は呼ぶ必要がない」ということです。



そもそも心停止かどうかをすぐに判断できる人がいなかった場合はどうしましょう?急な状態の変化に直面したときに、心臓マッサージはしないが、あまり侵襲的でない治療(昇圧剤や抗生剤等)までならやって欲しいかもしれません。


判断に迷った場合に救急隊員に「心停止なら心臓マッサージは希望しません。ただそうでないなら可能な治療は希望します。病院へ搬送してください」ということは、十分にありえるDNARの内容だと思います。



心停止以外の急変の場合

高熱が出ている、血圧計で測定できない又はかなり低い、呼吸状態がかなり悪そう、気分不良や痛みの訴えが強く動ける状態ではない・・・etc

心臓マッサージはしないと決めておいたものの、ありえそうな症状で困ったときにはどうすれば良いのでしょうか?

できれば相談窓口を決めておくことをお勧めします。頼れる家族や知人以外にも訪問看護師、かかりつけ医(または看護師)、ケアマネージャーと気軽に相談できることが望ましいと思います。



在宅での看取り

在宅で看取るということは必ずしも在宅でお亡くなりになることではないと思います。


可能な限り在宅で生活を継続し、体調が悪くなったので救急車?で医療施設へ移動し、しばらく治療して医療施設でお亡くなりになったとしたら、それも「在宅での看取り」ではないでしょうか?



余談(急変時の選択)

医療に詳しくない方々に、説明後の選択を完全に委ねるべきでしょうか?ECMOもRRTも希望すれば実施されるべきでしょうか?


「ガラパゴスの狂気」のブログに興味深い内容が書かれています。「なぜあの人がムンテラするといつもFull CPRになるのか」というテーマです。以下はその抜粋です。

医師が患者さんやその家族に病状説明と実施可能な治療選択肢の提示を行い、「それで、どうしますか?」と投げかけ、「ぜひやってください」という言葉が返ってきた経験は誰しもあるでしょう。もし説明したあなたが、侵襲的で高度な治療を行うことがその患者さんには最適ではないと感じていながら上のような返答があったとしたら、残念ながらあなたの考えは相手には伝わっていません。



余談(withhold/withdraw)

おまけです。集中治療領域においては終末期と考えられる状況で、治療の差し控え(withhold)や治療の中止(withdraw)が検討されます。


2014年に日本救急医学会、日本集中治療医学会、日本循環器学会による3学会からの提言が発信されていますのでご参照ください。



最後まで読んでいただきありがとうございました。用語の整理→医療介護の急変をテーマに2020年の情報としてまとめてみましたが、急変といっても様々な状況がありえます。支援するスタッフとしては情報を整理し、適切な支援ができるようにしていきたいと考えています。

これまで学んできたこと、これから学んでいくことをnoteを活用して表現したいと考えています。地域視点からの集中治療領域のOTをよろしくお願いします(^-^;