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「Report note」

 notesってサイトを初めて見た時は、特になんとも思わなかったんだ。有料のフェイスブックみたいだなって。だからリュウがこれを使おうって言った時は驚いたんだ。リュウは頭の回転が早くって、その上顔もかっこいいだろ。しかもあいつの持ってるモンスターすげえレアだから、みんなあいつを頼りにしてた。俺もそうだった。だからあいつといると俺はいっつも惨めだったんだ。

 「これからの時代、カツアゲもネットでやらねぇとな」これからの時代、なんて中学生の言う言葉じゃないと思ったけど、その通りだと思った。学校のセンコーだって体罰禁止だなんだって言われてるんだ。俺らもこういうことは隠して見えないところでやらないとって。だから俺が鍵斗と会ったのはnotesのアカウントを作らせた時ぐらいだったんだ。鍵斗は俺と違うクラスで誰だか知らなかったけど、リュウが目をつけたんだ。最初はノートを作っても買わなかったけど、何回かリュウが鍵斗と会ってからはもうずっと。それからはリュウもほとんど会うことはなかったらしい。そうすれば誰も俺らが鍵斗をいじめたり、ましてや金をとってるなんて思わねぇよって。その通りだった。だってネットでノートを作っただけで金が入ってくるんだ。オンラインゲームみたいだと思ってた。ノートで金もらって、その金でモンスターパチンコでガチャひいて。はじめの頃こそ適当に文字書いたり画像はったノートを作ってたけど、すぐに「会費」って名目になった。他の人のノートも、オフ会の前金だったりメシ代くれとかあったから、それで大丈夫だったんだ。買わせたらノートはすぐ消したし。俺は全部リュウの言うとおりにしてたんだ。怪しまれることなんてなかった。


 でもそれもだんだん飽きてきて。しかも隣のクラスのハルがゼウス引き当ててからリュウが頼られなくなってさ。リュウはずっとイライラしてた。モンパチもやらなくなって、金ももうそんなに必要なくなったんだ。本当は俺も、もういいだろうって思ってたんだ。本当に。そしたらリュウが、金とるだけじゃなくて「指令」を出してやろうって。ノートに指令を書いてそれを鍵斗にやらせたんだ。もしやらなかったらどうなるかわかってるんだろうなって。あいつ、鍵斗と会ってた時何してたんだろうな。

 職員室の窓に石投げろとか、校長室の鍵穴埋めろとかさ。あの頃からリュウが鍵斗にやらせてたんだ。鍵斗が屋上で裸になったのもそう。あの時はノートの無料部分に「昼になったら屋上にいけ」って書いて、指令が書いてある有料部分はその時になったら開けって書いてたんだ。鍵斗が屋上に行ったら「屋上に鍵斗がいるぞ!」って俺が言って。リュウが、あれはみんなが見ないと意味が無いって俺に言わせたんだ。俺らがやらせたってバレるんじゃないか怖くてドキドキしたけど、すぐ大騒ぎになった。後はみんなも知ってる通りだった。本当に鍵斗が裸になって。しかもせんせーが屋上に行く前に、鍵斗のズボンが中庭に落ちちゃって。みんなは知らないかもしれないけど、あの後ズボン持っていったのリュウなんだ。俺からズボンを受け取る時の鍵斗の顔は最高だったって言ってた。あいつが本当のグズなんだ。悪いのはリュウなんだ。


 あれで鍵斗があまりにも目立ってしまったから、もう鍵斗に大きいことはさせられなくなったんだ。だから鍵斗が指令をこなしてるとこを直接見れなくなった。そしたら今度は、鍵斗に指令の報告ノートを書かせるようにしたんだ。それがこのレポートノートなんだ。鍵斗に俺らのノートから指令を出して、その指令をこなした報告をこのノートにあげさせた。動画に撮らせてムービーにアップさせたり、どうなったかをテキストに事細かく書かせて。そしたらだんだん鍵斗のレポートがうまくなって。自分のことなのに、うまいレポート出すんだよ。もしかしたら鍵斗も楽しんでたんじゃないかって、今は思うよ。まさかこんなことになるなんて。


 何回かノートを書かせてたら、いつのまにかこのレポートノートがうちの生徒に広まってた。何でバレたんだと思ってたけど、本当は鍵斗が自分でバラしてたんじゃないのか。俺らの指令ノートまでバレるんじゃないかと不安だったけど、大丈夫だった。鍵斗のノートは知らないうちにビューが増えてって、見るだけならログインしなくても出来るのに、スキも日に日に増えて。そしたら鍵斗は有料のノートも出すようになったんだ。それでも結構読まれてるらしくて。もう鍵斗のフォロワーはかなりの数になってた。でも鍵斗が買うのは俺たちのノートだけだ。だから多分、俺たちのノートを買う分以上に鍵斗のノートが売れるようになったのは、結構すぐだったんじゃないかな。

 自分のノートが売れるようになってから、鍵斗のレポートは少しずつ大げさになっていった。いや、もしかしたらもっと前からそうだったのかもしれない。俺らも、鍵斗が本当に指令をこなしてるのか見なくなってたんだから。だんだんと指令ノート以上のことが報告されるようになって、現実離れしたことまで書かれるようになっていって。それでも鍵斗のフォロワーはノートを楽しんでた。これが実際にやったことのレポートかどうかなんて問題じゃなかったんだ。俺たちだって、ゲームみたいだと思ってたんだから。


 でもいくらゲームみたいだとしても、実際にお金は動いてたんだ。ある日鍵斗がメッセージを送ってきた。そこにはあいつのライブラリの画像があった。俺たちは買わせるばっかだから知らなかったんだけど、消しても買ったノートは全部見られるようになってたんだ。メッセージにはそのライブラリの画像と一緒に、こう書かれてた。


「俺のライブラリには、今までお前らが俺に売らせたノートの詳細が残っている。つまり俺にやらせてきたこと、奪った金額の証拠があるんだ。これを先生に見せたらどうなるか、ゲーム脳のお前らにもわかるだろう。なんなら警察に行ったっていいんだ。

 ただし、もしこれから言うことをクリアできたら許してやるよ。

 今までのお前たちが俺にやってきたことの経緯全てを、レポートとして書け。しっかり書けよ。それを俺のノートに載せてやる。設定は100円、無料部分でそのレポート全てを公開する。投げ銭ってやつだ。もしこれが100人に売れたら、許してやる。これが俺からの指令だ。」


 だから頼むよみんな。お願いだから。俺は全部リュウにやらされたことなんだ。俺は悪くないんだ。俺だけでも許してくれ鍵斗。




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