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ウサギとカメ(Tip Text)

 昔々のこと、恐ろしく足の早いウサギと、それに比べて恐ろしく足の遅いカメがいました。ウサギはカメに10メートルのハンデを与えての競争を提案しました。カメは40メートル、ウサギは50メートルの競争です。カメはこれを受け入れました。なんせカメは昔、ウサギのおじいさんとハンデ無しで対決して勝ったことがあるからです。タヌキの合図により二人は同時にスタート。足の早いウサギはハンデの10メートルをもろともせず、カメを追い抜きトップスピードのままゴールインしました。どうやらこのウサギはサボることがどれだけ愚劣なことか知っているようです。

 カメは泣いて悔しがりました。そしてある作戦をたて、ウサギに再戦を申し込みました。ウサギは言いました。
「私は先祖の過ちから学んでいます。故に君の足の遅さに油断することも、自分の足の速さにおごることもありません。いくらカメさんが頑張ろうとも、種族の力の差は埋まらないですよ」
 カメは言いました。
「それが油断でありおごりだということを貴様にわからせてやる」

 カメはウサギにある質問をしました。
「再戦をする前にひとつ、この疑問に答えてくれないか。なに、簡単な話だ。だが私にはどうしてもわからないんだよ。
 私と君がもう一度勝負をするとしよう。私が君の10メートル先に立っている。同時にスタートする。君の足は速い。あっという間に私のスタート地点まで来る。だが私も私なりに精一杯走っている。当然、私のスタート地点よりかは少しばかり先へ進んでいるだろう。もちろんこの時の私と君との距離は10メートルもないが、それでもまだ決して追いつかれてはいない。
 では。君は私のスタート地点にいる。君は足を休めない。少しばかり先にいる私のところへ向かってくる。だがどうだろう。君が私がいた場所につく頃には、やはり私はそこより少し先にいる。
 君が私のいた場所につく頃には、私は少し先にいる。これが無限に繰り返されるのだ。私と君の距離は少しずつ縮まるだろうが、いくら縮まったとしても私は少し先へ進み、追いつかれることも、追い抜かれることもない。
 実際にはそんなことはないだろう。だがいくら考えても、私が君に追い抜かれるはずがないんだ。勤勉なウサギよ、勤労なウサギよ。私に教えてくれ。どうして君は、私を追い抜くことが出来るのだ」

 ウサギは考えた。しかしいくら考えても、なぜそんなことになるのかわからなかった。この問題のいったいどこが問題なのかもよくわからなかった。
「私には難しい問題のようです」
「そうか。では答えがわかったら教えてくれ。君が考えている間に、私は先にいかせてもらうよ」
「その手にはのりませんよ」
「ちっ」
 ウサギはカメに勝った。しかしなぜ自分が勝つことが出来たのか、ウサギにはわからなかった。

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