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おならくさいエレベーター


君は生徒会長、僕は副生徒会長。

君は全国模試一位で、僕は二位。


放送部の全国大会の前日、
見上げるビル群、花の都大東京にやや声が上擦る僕。
そんな僕より、もう1オクターブ高く上擦る君。

「この駅ビルなんかでいいんじゃない?適当なところで夜ご飯でも食べますか」

プライドがオリンポス山くらい高い君は、平静を装って提案した。

ふたりで、駅ビルに入る。
11階にあるレストラン街に行くために、僕たちはエレベーターに乗った。
エレベーターに先客はいなかった。
しかし、先客の跡が残っていた。

そのエレベーターは、ほんのりおなら臭かった。
高校化学を誰より勉強していた僕たちには、その匂いがおならによるものであることなど容易に解った。

不快に思いながらも11階のボタンを押す。
会話はなく、ふたりとも増える数字を見ていた。

4階で、エレベーターはゆっくりとまった。
「チン」とドアが開く音がして、大学生くらいの男女3人組が乗り込んでくる。
ふと、隣に立っている君の顔を見ると、顔が赤らんでいることに気づいた。

(どうしたんだろう。なにか恥ずかしいことでも、、、はっ!)

僕より思考スピードが少し速い君は、すでにそのことに気づいていた。

今エレベーターに乗り込んだ人たちにとって、おなら臭いエレベーターに先客は僕たちだけ。
弁明の余地もなく、僕たちは公共の密室空間でおならをしたものと見なされる。

隣で俯く君。

僕の胸、いや胸よりもっと深いところが熱く鼓動するのを感じた。

「…お、お、お、お腹痛えぇ。さっきトイレに行っておけばよかったぁぁ」

脊髄が僕の喉を震わした。

なぜ君を庇ったのか、現代文偏差値76の僕にもわからない。
わからないけど、間違えていない。
僕の中の何かが確信していた。

静まり返るエレベーター内。
全員の視線が僕に集まる。

と、いきなり君は回れ右をし、おしりを振り上げた。

そして、気張って、屁をこいた。

小さな小さなおならの音がゆっくりと消え入った。

「あ、おなら出ちゃったぁ」

燃えるような頬と零れそうな涙。
君は震える声で言った。

大学生らしき3人組がどんな表情をしていたかはわからない。
なぜなら僕は、君の瞳から目を離すことができなかったから(Q.E.D)。

君はおしりをしまい、スカートをパタパタと叩いた。

大学生らしき3人組は、何も言わず、8階で降りた。

ドアが閉まり、また数字が増える。

8、9、10、、、

10階で、君の手を握り、

11階で、君と接吻した。


『おなら臭いエレベーター』
作:OKEMO

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