嫁と『花束みたいな恋をした』を観て軽い喧嘩になった話

2021年1月30日(土)、嫁と『花束みたいな恋をした』を観た。

本当は『ヤクザと家族』が観たかったのだが、「なんか怖そう」という理由で断られ、菅田将暉と有村架純ファンである彼女の意向で『花束〜』を観ることに決まった。私にとっても、昨年『罪の声』がとてつもなく面白かった土井裕泰監督作ということもあり、どんな映画なのか気になっていたので満更でもなかった。

この映画は、私のことを描いていた。上映終了後、むせび泣く私を見て嫁は引いていたと思う。観客をそう錯覚させるために2015年〜2020年の固有名詞を多用する技法なのは分かるが、どうしたって主人公の2人は自分にしか見えなかった。

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私は2021年現在27歳だ。つまり、この映画の主人公の1つ年上ということになる。4年生大学に通わせてもらって就職して同棲を経験したのも同じ。違うのは私は昨年結婚したということ。

大学生時代にはライブハウスに通い詰めた。映画もそのころから沢山見ていた。自分の趣味嗜好を完全に理解している人は地元の友人とSNSにしかいなくて、大学では常にどこか寂しさを感じていた部分もあった。

モテなかったが、恋人も出来た。彼女はサカナクションとメジャーになる前から米津玄師が好きな人だった。一緒にフェスに行ったり映画を見たりして過ごした。

その人とは半年くらいで別れた。別れた理由は自分が頑固すぎたから。譲ることが苦手で意地を張ってしまう。私の場合は別れ方が下手だったので『花束』というより『掃き溜めみたいな恋』だった。

就職してすぐ彼女が出来た。それが今の嫁だ。可愛くて、活発で、女性アイドルが好きな人だ。彼女と付き合って、私だけなら絶対行かなかった場所にたくさん行った。飛行機が苦手だと思っていたけど、沖縄に行ったら楽しすぎて克服した。

私の好きなことにも付き合ってくれた。『ブレードランナー2049』を見て「ハリソン・フォードの動きがジジイすぎるね」って笑った。サッカー観戦でユニフォームを着た彼女が綺麗すぎた。学生時代の自分に「お前は幸せになれるぞ」とよく報告してた。

付き合って3年目に同棲を始めた。結婚する気だった。でも、同棲したら悪いことばかり目につくようになった。逆も然り。彼女は映画館に着いて来てくれなくなった。テレビを見ないくせにお笑い芸人の闇営業問題に言及してきて「何も知らないくせに」と苛立った。結婚していいのかすごく迷った。

自分と彼女は違う人間だ。彼女と過ごした時間は人生最良であることは間違いないが、私たちは根本的に理解し合えない。

でも、私たちにも『携帯解約ページを探す困難さ』は存在した。結局、私たちは結婚した。

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映画が終わった帰りの車中、放心状態で運転する私に嫁は喋りかける。

「あの2人は努力が足りないよね。」

努力?なんの?

「歩み寄る努力だよ。何かお互いに不満があっても一度も話し合わなかったでしょ。」

そうかもね。でも、ああなるしか無かったんだよ。

「そうなのかなぁ。」

改善策を見つけても意味ないよ。この映画はあるがままを受け止めるのが楽しみ方だと思う。

「ふ〜ん。あとさぁ、有村架純が自己紹介のときに『好きな言葉は替え玉無料です』って言ってたよね。あれ、『やってんな〜』って感じがしたよね。」

そう?

「男には分からないか。あれは女が『私変わってますよ〜』アピールをしてるの。女ならみんな分かってる。」

違う。これは“男”と“女”の話じゃなくて、“自分”と“自分じゃない人”の話なの。あのシーンは“自分”と同じ人に出会えて高揚してるだけだよ。

「……。あんた自分は“人と違う”って意識があるんでしょ。ワンピース好きな人のことを馬鹿にしてるもんね。最近また読み始めたくせに。」

……返す言葉もなかった。

彼女の言うことは真っ当だ(そこまで言わなくてもいいのにって気もするが)。私は“人と違う”という意識によってアイデンティティを保っている。私みたいな人はみんなそうだと思う。でも、それが悪いかどうかって話は別だ。『花束みたいな恋をした』ではそんな登場人物を正義とも悪ともしていない。私たちは、ただのそういう人なのだ。それ以上でも以下でも無い。

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翌日、この映画の脚本家である坂元裕二さんのインタビューがキネマ旬報に載っていたので読んだ。そこには昨日の議論の答えが書いてあった。

「これは“男”と“女”の話じゃないんです。主人公2人の性別を逆にしてもこの話は成立します。(※記憶なので意訳ですいません)」

それ見たことか!と心の中で叫んだ。坂元裕二さんの意図を正確に受け止めていたのは私だ。嫁よ、お前は何も分かっていない。

嫁はこの映画を見ながら私のことを想ってくれていたらしい。私はこの映画を見ながら嫁と元カノのことを考えていた。でも結論はお互いに一致した。「結婚して良かった」。

ひとりで『ヤクザと家族』を観た。これからも君が観たく無い映画はひとりで観るよ。

ーおわりー

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