オカデミー賞2020
コロナ禍で映画界に激震が走った2020年もあっという間に年末です。
もうすっかりディズニーの公開延期と配信送りのやり方にも慣れましたね。
というわけで、年末恒例のオカデミー賞を今年も開催します。
どうぞお付き合いください。
○オカデミー賞とは
映画大好きな私がその年の面白かった映画を紹介するだけの記事です。
厳選した10本の映画をランキング形式で発表します。
これまではTwitterでやってましたが、今年は文字数制約の無いnoteで思う存分やらせていただきます。
対象作品は、2020年1月1日〜2020年12月31日の期間に日本国内で劇場公開およびネット配信された新作映画です。
評価基準はとにかく「おもしろさ」。さまざまな要素を総合的に評価させていただきます。
それでは早速参りましょう。
第10位 『イップ・マン 完結』
『イップ・マン』シリーズの完結作。
中国の誇りのために戦ってきたイップマンが最後の最後でサンフランシスコに渡り、高速で殴りまくる!なんで最後にアメリカ?と思ったら、予想外にも現在のアメリカ社会に鋭いメスを入れていて驚いた。
1960年代の米国で華人が白人から受けてきた差別をまざまざと見せつけられ、「Black Lives Matter」が活発になる今の社会と重なる。日本に住んでいると理解しづらい人種差別の根深さを知ることができる。
そして、イップマンは武術を通して人種間の壁をぶち壊してくれるから爽快だ。
もちろんカンフーのキレも抜群で、本筋と関係ないところでブルース・リーがヌンチャクを振り回してくれるので大興奮した。
第9位 『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』
フランス映画の『9人の翻訳家』が偶然の9位に。
世界的なベストセラー小説の新作が完成し、世界同時発売するために集められた9人の翻訳家。ネタバレ回避のため厳戒態勢で進められる翻訳作業だったが、何者かが小説の内容を入手して脅迫をしてくる。果たして、どうやって情報は漏れたのか?って映画。超ミステリー。
精巧に練られた脚本は非の打ち所がない。ミステリーで言うと今年は『ナイブズアウト』もあったが、アレは「ん?これはどういうロジック?……まぁライアンジョンソン映画楽しいよね!」って感じなので完成度ならコッチだった。
地味なテーマに見えるが、悪役がとにかく悪い奴なのでぶっ倒すのが気持ちいい。文学への愛を感じる。文学版半沢直樹。
世界の9大市場に日本って入らないんだなぁ〜って見てたら「世界最速のコピー機」として日本が登場するのも笑った。
第8位 『TENET テネット』
クリストファー・ノーランの時間遊び癖が爆発した『TENET』。
(どうせ映像を巻き戻ししてるだけでしょ。)くらいに思ってたら度肝を抜かれた。なんで通常の時間軸と逆行してる時間軸を同時に映せるの?
めちゃくちゃ難しいことをしているので1回の鑑賞で全てを理解するのは不可能。それ故に中途半端な気持ちで理解しようと試みる人はこの映画を楽しめないだろう。
私は早々に理解することを諦めた。あややが「分かんないことが分かんないくらい好きみたいです♪」って歌ってたけど、あれTENNETの話だったんだ。ノーランを信頼して身を委ねた者勝ち。
そして助演のロバート・パティンソンがめちゃくちゃかっこいい。今年はNetflixの『悪魔はいつもそこに』のクソ神父役も秀逸だった。
第7位 『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』
ヴィランの女性主人公を迎えたDCシネマティックユニバースの意欲作。
「重く暗いのがDCコミック」と揶揄されてきたが、近年は『アクアマン』、『シャザム!』と雰囲気を変えてきた。その流れがようやく実を結んだのがこの映画だと感じた。
マーゴット・ロビーのハーレイクインは愛嬌と魅力たっぷりで主演に相応しいキャラクターだし、カラフルな美術、ワクワクするアクションとシンプルに楽しめる映画だった。クロスボウ・キラーが笑える。
また、特有の説教染みた感じを出さずにジェンダーレスを訴えているのも上手い。
突然始まるミュージカルのシーンだけは意味が分からないしダサかった…。
第6位 『薬の神じゃない!』
中国映画の『薬の神じゃない!』が第6位に。千鳥ノブに読み上げて欲しい邦題だ。
主人公は上海でインド製のバイアグラを売る薬局の店主。ある日、白血病患者の男が彼の元を訪れ、白血病の治療薬をインドから密輸してほしいと依頼される。中国では同じ成分の薬が高い価格で売られており、貧困層は薬を買うことができずに社会問題化していた…。
この映画の冒頭に『中国共産党認定作品』みたいな許可が映し出されるので、(あーあ、国家に忖度して生ぬるい内容になってるんだろうな。だから中国映画はヒットしないんだ。)とか思ってたら、何故かこの映画だけは超ハードロック!容赦ない社会批判がなされていてよく許可降りたなぁと驚く。
この映画の面白さはコメディタッチな前半と、シリアスな後半のコントラスト。まさに中国版『パラサイト』と言った感じの良作だ。
ずっとメシ食ってるかタバコ吸ってるのが良い。
第5位 『ジョジョ・ラビット』
昨年のアカデミー賞脚色賞受賞作『ジョジョ・ラビット』。オカデミー賞は公開日ベースで区切るからこういう事象が起きるけどご勘弁を。
MCUのソーシリーズを良い意味でぶち壊したタイカ・ワイティティの監督作であり、主人公の心の中に住むアドルフ・ヒトラー役もワイティティが演じる狂気の映画。
子役中心の話だが、母親役のスカーレット・ヨハンソンと軍人役のサム・ロックウェルの演技がめちゃくちゃ良くて熱くなる。スカヨハの靴のシーンは映画館で声出ちゃった。(近くにいた人ごめんなさい。)
ワイティティ節全開でふざけてるんだけど、ナチスや戦争に中指立て続ける姿勢はクールだった。
第4位 『フォードvsフェラーリ』
またしても昨年のオスカー映画ですいません…。
ル・マン24時間耐久レースの絶対王者フェラーリを倒すべく、アメリカの家族向け自動車色の強いフォード社のエンジニアやドライバーのドラマを描いた映画。
私は車への興味や知識が無かったので見るか迷ったが、何も知らなくても大丈夫。たぶん好きな人はもっと楽しめるだろう。
ワイスピとかが車で散々ふざけ倒した映画界において、リアルなレースを題材にここまでエンターテインメントとして仕上げたのは見事。
クリスチャン・ベイルも良いが、助演のマット・デイモンが最高だった。ガムをくちゃくちゃ噛みながら黒板持って指示を出しに行くシーンが好きすぎる。オチも秀逸。
第3位 『罪の声』
ここまで洋画ばかり挙げたが、今年は邦画に良作が多かった印象。中でも『罪の声』はミステリー映画として『9人の翻訳家』よりも面白かった。グリコ・森永事件が題材なのも未解決事件好きとしては堪らない。
京都でテーラーとして働く星野源は家の押し入れから亡くなった父の持ち物を見つける。そこにあったカセットテープを再生すると、事件で使われた子供の声の脅迫音声が収録されており、しかもそれは幼い頃の自分の声だった。自分が事件に関わっていたのではないかと調査を始めると…というあらすじ。
星野源と新聞記者の小栗旬の目線から事件の聴き取り調査を見ていくのだが、とにかくその情報量が多い。普通はこんなことやるととっ散らかるものだが、編集が上手くて見ていられる。
未解決事件を解き明かしていくゾクゾク感を味わえるし、事件によって人生を狂わされた人のドラマに泣ける。
生島聡一郎という役を演じた宇野祥平って役者さんが良すぎて調べたら、『事故物件』や『星の子』といった今年見た他の映画にも出てたみたいで(いたっけ…?)って気持ちになった。
最初、芸人のみなみかわ(旧アイヒマンスタンダード)かと思った。名バイプレイヤー。覚えておこう。
第2位 『ミッドナイトスワン』
出演2人の演技の格が違う。こんな心を揺さぶられた映画はそうそうない。
凪沙(草彅剛)は、東京のショーパブで働くトランスジェンダー。凪沙の故郷東広島市でネグレクトされ、身寄りがなくなった一果(服部樹咲)を引き取ることに。初めは反発し合う2人だったが、孤独な2人の絆は段々と深まっていくが…。というストーリー。
とにかく草彅剛と服部樹咲さんの演技力に圧倒される。草彅剛はマイノリティが抱える精神的・肉体的な苦痛を体現している。服部樹咲さんはこの映画の肝となるバレエが見事だし、心を閉ざす時、開く時の表現が上手すぎて感動する。
LGBTをテーマにした映画はいくつかあるが、どこか自分とは関係のない話だと思ってしまいがちだ。『ムーンライト』がオスカー獲ったときも「これがオスカーなの?」と思っていた。この映画はマイノリティの生きる姿をありのまま見ている気になって、すっと入ってくる内容だった。
オムツのシーン、「バケモノ!」のシーン、海のシーン、全てが強烈で一度見ただけなのに忘れられない。
なにより1番印象に残ったことは東広島市は日本のゴッサムシティだということだ。
第1位 『パラサイト 半地下の家族』
第1位は『パラサイト』でしたー!また昨年のアカデミー賞じゃーん!という感じだが、年始に見た『パラサイト』はあまりにも面白すぎて年末まで追い抜かれることは無かった。
この映画については改めて紹介する必要は無いと思うが、評価した理由を述べておく。
まず、パラサイトには全てのエンタメが詰まっている。サスペンス、コメディ、ホラー、そして社会風刺。これら全ての要素が超一級品なのだから恐ろしい。
ポン・ジュノ監督はDJのようにこれらを繋ぎ合わせて1本の映画にしてしまった。この繋ぐ作業で力を発揮したのは父親役のソン・ガンホだ。
ソン・ガンホは初め寄生しようとする異常者のように描かれる。ところが、机の下に隠れたあたりから一気にただの庶民の顔になる。大雨の中、地下深くに潜っていく彼らはあまりにも惨めで同情してしまう。
エンターテインメントとしての面白さと格差社会へのメッセージ性を併せ持つことに成功した『パラサイト』こそ、2020年のベスト映画に相応しいと思う。おめでとう!ポン・ジュノ!
○総括
コロナ禍の映画業界は、楽しみにしていた作品が公開延期されてガッカリすることも多かった。その一方で、上映できる作品が限られた映画館は比較的マイナーな映画を上映してくれる時期があった。今回ベスト10に入った『9人の翻訳家』や『薬の神じゃない!』は、まさに地元の大型映画館で上映されたことで出会えた作品だ。
また、ディズニー配給を中心とした劇場公開延期により、日本を含めたアジア映画の存在感が大きかった1年でもある。オカデミー賞には5本ものアジア映画がランクインした。
映画館の感染予防対策のおかげで安全な娯楽として需要の高まる映画はこれからも盛り上がっていくだろう。皆さまも Go to Cinemaで、来年も映画を楽しみましょう!良いお年を!
第1位 『パラサイト 半地下の家族』
第2位 『ミッドナイトスワン』
第3位 『罪の声』
第4位 『フォードvsフェラーリ』
第5位 『ジョジョ・ラビット』
第6位 『薬の神じゃない!』
第7位 『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』
第8位 『TENNET テネット』
第9位 『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』
第10位 『イップ・マン 完結』
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