ツルでもガキでもわかる!『GENERATION KILL(ジェネレーション・キル)』の見どころはここだ!
まいど!ワイは鶴や!ツルヤナンボクや!
ええじゃろうだよ!
やあ皆さん、おかえもんです。
今回はHBO製作の戦争ドラマ『ジェネレーション・キル』を紹介するよ。
ほう。また戦争もんか。
こんどは、どことどこが戦うんや?
2003年のイラク侵攻作戦を描いたドラマだ。
だから、アメリカ vs イラクだね。
めっちゃ最近じゃんか!
そうだね。まだ記憶にも新しい戦争の話だ。
2008年の夏にHBOで放送された全7話、トータルにして470分のドラマシリーズなんだけど、これ超必見だよ。(huluはこちら)
まあとりあえずは予告編を観て頂戴な。
ほう。いかにも「That's アメリカ!」って感じやな。
予告編はBGMが付けられてノリノリになってるけど、本編ではBGMは一切流れないんだ。
なんでや?
このドラマはロードムービーというかドキュメンタリー風になっていてね。戦争の善悪とか正否とかを超えたリアルさを追求するために、余計なBGMを使わなかったんだ。
だって実際のその時は、バックで音楽なんて流れていないからね。BGMって良くも悪くもイメージを植えつけちゃうものだ。
流れる音楽といえば、移動中に海兵隊員たちが口ずさむ歌くらいなんだよ。
へえ、いまどきBGMや挿入歌なしって珍しいな。
しかし何で2008年のドラマを今頃ツルガキで取り上げるんや?
それはね、ついに日本でもDVD化されるからなんだ。
8月9日にワーナーから発売される。
しかしなんで今までソフト化されへんかったんや?
エミー賞まで受賞してる大ヒットドラマやんけ。
ちょっとリアル過ぎたんだろうね、海兵隊の描写が。
あかんのか?リアルだと
だって2011年以降、彼ら海兵隊は僕らの”トモダチ”になったんだ。
その”トモダチ”がドラマ内でアジア人全般に、もちろん日本人に対しても最大級の蔑視発言を連発してるんだからね…
政治的にちょっと難しい部分もあったんだろう。
へ~!
なんだかよくわからないけど、観てみたくなっちゃった!
でもどうしてこのタイミングでのリリースなんだろうね?
ふふふ。知りたいかい?
なにもったいぶってんねん!
さっさと言わんか、ボケ!
ははは。まあ落ち着き給え。
では教えてあげようか。
その理由とは…
その理由とは…?
その理由とは…
その理由とは!?
狂犬と猿人だ!
狂人と犬猿!?
”狂犬”と”猿人”だよ
なんだ、狂犬と猿人か…
…つーか意味わかんねェよ!
ははは。そうだね。
まあ順を追って説明しようか。
このドラマは、ローリングストーン誌の特派員記者エヴァン・ライトの従軍リポートがもとになっている。
彼は2003年のイラク侵攻作戦でアメリカ海兵隊・第一師団・第一偵察大隊・第二中隊(通称ブラボー・カンパニー)の車両に同乗し、砂漠を駆け抜け、戦火をくぐり抜け、バグダッド陥落とフセイン政権崩壊を目の当たりにした。
ローリングストーン誌?
ロックや若者カルチャーを扱うリベラル系雑誌やんけ。
よう海兵隊に同行できたな。
そうだね。
実は米軍内にいろいろ事情があったんだ。
9・11で愛国ムードが最高潮に高まったんだけど、その後の”テロとの戦い”で米兵やアフガニスタンの一般市民に死傷者が続出すると、”戦争熱”が急速に冷めてきたんだね。
それに焦ったのかどうかは定かでないが、ブッシュ大統領はイラクに対して「お前らは大量破壊兵器を隠してる!戦争するぞ!」と”言いがかり”をつけた。
これにはさすがのアメリカ人も半信半疑だった。国連でも、ロシア・中国だけでなく、ドイツやフランスなどの主要国も軒並み反対の姿勢を示したんだ。
だから国連で軍事制裁を否決される前に、アメリカは戦争を仕掛ける必要に迫られた。
アメリカはイギリスを巻き込むことに成功し、開戦の準備を始めたんだ。
すると世界各地で…、なんと身内であるアメリカ国内でも大規模な反戦運動が起きてしまった。
ベトナムの時みたいにね。
困った米軍は、さまざまなメディアに従軍を許可することにした。
自分たちが”自由と平和の使者”であることをアピールするためにね。
特に海兵隊は熱心だった。
なんで?
ちょっと大袈裟に言うと、彼らの存続が懸かっていたんだよね。
知っての通り、91年の湾岸戦争の時から、戦争がテレビ中継されるようになった。そしてアフガニスタンでは、ミサイルに付けられたカメラで、ピンポイント爆撃の瞬間が世界に映し出された。
するとアメリカ国民の間で、こんな声が出始めたんだ。
「カネ喰い虫の海兵隊に使う予算を海軍や空軍のミサイルに回せ!ミサイルをガンガン撃ち込めば戦争なんか楽勝だ!」
確かにテレビであればっかり見せられたら、そう思うよね…
というわけで、イラク侵攻作戦は、海兵隊と陸軍のスタンドプレーの場となった。
イラク軍に勝てることは最初から分かり切ってる。
彼らにとっての問題は、少ない見せ場で”どれだけ華々しく勝つか”だったんだな。
どちらもアメリカの納税者にアピールしなければならないからね。
「予算削減なんて言わないでください。うちらはこんなに役に立ってますから」と。
へえ。いろいろ大変やな。
海兵隊ってのは特殊な軍隊だから、隊員をひとり育成するために1億円以上のコストがかかるそうだ。
しかも偵察部隊みたいに特殊能力が必要とされる部隊なら、もっと税金が投入されている。
まあ、そういうわけでエヴァン・ライト記者が偵察大隊に加わった。
でも末端の海兵隊員たちは面白くないよね。彼らが最も嫌うラブ&ピースのリベラル系雑誌の記者が一緒だなんて。
当然風当りは強かった。
でもエヴァン・ライトは機転を利かせたんだ。
機転?
彼は海兵隊員たちが大好きなエロ本のライターをやっていたことを話すんだ。
読者の投稿写真コーナーを担当してた、ってね。
彼にとっては隠しておきたい黒歴史だ。
でもこれで一気に一目置かれた(笑)
中二か、海兵隊員は!
いや、笑いごとじゃないんだよ。
戦場、特に中東みたいな場所では、エロ&性欲は非常に重要な問題なんだ。
18歳から20代前半の元気盛りの若者が、数か月も女性との接触を断たれるわけだからね。だからドラマの中でも海兵隊員の”性欲処理”問題はくり返し描かれる。
というか、排せつ&自慰シーンは戦闘シーンよりも多い(笑)
このドラマは、戦場での海兵隊員のリアルさを追求したドラマだからね。
しかも彼らにとって”女性の写真”は軍隊内通貨みたいなものなんだ。
武器のメンテ用オイルとか暗視カメラ用の電池とか、そういう大切な軍需品を”オカズ”になる”写真”1枚と交換したりしてるんだよね(笑)
それぐらい切実な問題なんだよ。
海兵隊と性欲処理といえば、橋下さんの専門や。
ははは。あったね、そんなことも。
てか、やっぱりエロ本ちゅうのは大事やな。
ビッグになった作家や漫画家も、食えない時代はエロ本の仕事してたって、よう言うし。
オッサンもやったほうがええんちゃう?
どんどん脱線しそうだから、話を進めよう。
エヴァン・ライト記者のリポートは大きな反響を呼んだ。そこに描かれていた、ありのままの海兵隊の姿が強烈だったんだね。
そして、これをドラマ化したいと申し出る人が現れた。
それが『ジェネレーション・キル』の脚本家、デヴィッド・サイモンとエド・バーンズだ。
名作の呼び声高い『THE WIRE』のコンビだね。
そう。ボルティモアの人種間問題や薬物問題、そして警察や司法の汚染などを超リアルな描写とセリフで描いた問題作だ。
テーマがテーマだけに、日本ではあまり話題にならなかったけどね。
なるほど。『ジェネキル』も『THE WIRE』同様、まさにアメリカ人のリアル描写がウリっちゅうわけやな。
そう。だからこのドラマでは、登場人物も実名なんだ。
実際にイラク侵攻作戦に参加した海兵隊の将校や隊員たちの当時の姿が、すべて実名で描かれているんだね。
実名で登場し、放送禁止用語や差別発言を連発し、ウンコして、自慰にふけり、イラク人を殺す。
すごいね…
まだついこないだの生々しい記憶なのに…
なんで放送禁止用語と差別発言を連発するんや?
海兵隊の文化なんだよ。
ほら、映画とかでブートキャンプのシーンを見たことあるでしょ?
鬼教官がありとあらゆる暴言を新人に大声で浴びせ掛け、戦闘マシーンとして洗脳していくやつ。何を言われても絶対服従する精神を叩き込むんだ。
おお!『フルメタルジャケット』みたいなやつやな。
人格を完全否定して、個の尊厳をズタズタにするやつや。
彼らは特殊な集団だ。本土防衛が基本任務の陸海空軍と違って、敵地に殴り込みをかけて人を殺すのが仕事なんだ。
常に死と隣り合わせだから、精神構造もちょっと変わってる。
だから仲間内でもああいうことを言い合うんだね。実社会では絶対に言ってはいけないようなことを。でもそれが信頼関係を強くすると本気で考えている。
まあでも、あんな状況下にいたら普通でいろってほうが無理なハナシだ。
いくら兵士とは言え、無言の殺人マシーンになれるほうがオカシイもんな。
ああやって精神バランスを取っているんだろうね。
せやな。
基地からの出発時に鬼軍曹の音頭で
「1、2、3、ぶっ殺せ~!」
なんて全員で雄叫びをあげるような集団やさかいな。黙々と仕事しとったら気が狂うかもしれん。
そのへんはエヴァン・ライトも悩んだらしい。このまま書いていいもんだろうかと。
でも見たままの海兵隊を描くことにしたんだね。
『ジェネキル』として映像化する時も、それを通した。脚本家コンビがそれを強く推したからってのもあるけど。
でも結果としてそれが『ジェネキル』の成功に繋がったんだ。
偵察大隊が所属する海兵隊第一師団のベースキャンプ内で上映会を行った際、鑑賞した数百人の海兵隊員たちは大いに喜んだらしい。
「これぞ俺たちのドラマだ!」ってね。
このエヴァン・ライトのインタビュー動画でも、そのへんのことをいろいろ語ってるよ。
書くほうも書かれるほうも、勇気いるで。
あれだけ世間的に非難されたイラク戦争の話やさかいな。
しかも社会的にはかなり問題な発言や、自分の排便・自慰シーンまで映像化されとるし(笑)
そうだね。
日本人の感覚からすると、ちょっと想像できない世界だ(笑)
自衛隊のPKOをあんな風には絶対に描けないだろう。
てか、描いても、あんまり面白そうじゃないよね
確かにそうだ。
このドラマでは、当時のリアルな姿を再現するにあたり、エヴァン・ライトと行動を共にした第一偵察大隊の隊員たちが全面的に協力してくれたんだよ。
企画から脚本制作段階、さらには撮影現場で当の本人たちが事細かにアドバイスするんだから、そりゃリアルだよね。
中には本人役で出演してる海兵隊員もいるくらいだ。しかもチョイ役じゃなくてメインキャストで。
ほ、本人が!?
なんちゅう世界や…
エヴァン・ライト記者がイラクで”同じ釜の飯を食った”第二中隊の面々との座談会の映像もあるよ。
さすがに幹部将校たちは座談会に出てくれなかったみたいだけどね。
まあ将校連中はまだ現役の軍人だから仕方ないか。
和やかなムードやな。
とてもやないけど、アフガンやイラクで人をガンガン撃ち殺してきた連中とは思えん。
でもやっぱり最後はあっちの話で盛り上がるんか(笑)
なんだか不思議な感じになるよね。あんなにリラックスした雰囲気で当時のことを語られると。
そうそう、military.comという軍関係のサイトに、イラク侵攻作戦当時の彼らの映像があったよ。さすがに戦闘シーンや排便シーンは無いけどね。
ほう。
しかしいつになったら”狂犬と猿人”の話になるんや?
まだ記者と脚本家の話だけで、登場人物の紹介もしてへん。
よし、それは後編でゆっくり話そう。
やっぱりそうきたか!
『GENERATION KILL』(2008年:HBO)
原作:エヴァン・ライト
監督:スザンナ・ホワイト、サイモン・セラン・ジョーンズ
脚本:デヴィッド・サイモン、エド・バーンズ、エヴァン・ライト
出演:アレクサンダー・スカースガード、ジェームズ・ランソン、チャンス・ケリー、他
DVDリリースは8月9日(amazonはこちら)
後編へGO!
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