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カズオ・イシグロ『日の名残り』小説&映画の徹底解説!

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ノーベル文学賞を受賞した日系英国人作家カズオ・イシグロの代表作『日の名残り』を、小説版と映画版の違いの理由などを交えて徹底解説しています。世界一のネタバレ記事となっていますので、…
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#ミュージカル

「Born in a Trunk」(ボーン・イン・ア・トランク)②~カズオ・イシグロ『日の名残り』徹底解剖・第33話

~~~ 三日目・午前 大村PA ~~~ よかったね、パーキングエリアがすぐあって… なんだろう、この煙は… 車の調子は特に変わってないし… ナンボク、ちょっとトランクを開けてみてよ。 なんでワイやねん! 動物虐待で訴えたるわ! たぶん俺のアタッシュケースじゃないか? アタッシュケース? 俺たちスパイのアタッシュケースは、48時間一度も開けることがないと、自動的に消滅するようになっているのだ。 機密情報漏洩防止のためにな。 ああ!そうだった! 俺のもマズ

「葛藤」~カズオ・イシグロ『日の名残り』徹底解剖・第36話

~~~ 三日目・午前 長崎 ~~~ さあ、壁に書かれた文字「BEMN」の謎は解けたかな? なぜエスターは「あの四文字」を見て、もう一度ステージに立つ決心をしたのだろうか? 「BEMN」」がノーマンからエスターへのメッセージやと? どうゆうこっちゃ? ビビるな…エスター… もいちど…ニッコリ… おい、カヅオ… お前ホンマに諜報員か? ふざけるのもたいがいにせえ!こいつめ! 痛てててて… 頼むから耳をつねるのだけはやめてくれよ… お前らのアホさ加減はマジげ

カズオ・イシグロ『夜想曲集』#1「 Crooner /老歌手」がどれだけ暗号だらけなのか僕が解説するとしよう!~『日の名残り』徹底解剖・第46話

~~~ 三日目・夜 五島・福江島 ~~~ 忘れてる人もいるかと思いますが、オイラたちは今、長崎県五島市の福江島にいます。 そしてようやくカヅオさんの妹さんがいる修道院まで辿り着いたんだけど、肝心の妹さんは、そこにはいませんでした。 なんでも素行不良で問題となり、無人島の「サザエ島」に「お清め」のために三日間籠っているそうです。 明日の朝、妹さんを迎えに「サザエ島」へ行くことになっているんだけど、ちょっと興奮して眠れないから、おかえもんの読み聞かせ&解説を聞くことになり

「コール・ポーターは凄いってことを明けない夜に考えてみた」~『夜想曲集』#2「 Come Rain or Come Shine /降っても晴れても」~カズオ・イシグロ徹底解剖・第55話

いやしかし『なぜ人はパリの春を愛するのか』には驚いたね。 まさかあんな秘密の暗号が隠されていたなんて… ワイは「クリ(栗)・フォード(フランクフルト)・ブラウン(茶色)」のことが気になって眠れへん。 さあ、コール・ポーターの危険な魅力について語ろうぜ。 では始めます… Cole Porter (1891 – 1964) コール・ポーターは、1891年にインディアナ州のペルーという町に生まれた。 ペルー? そういえばイシグロは小説の中でなぜか「ペルー」という

「なぜ人は《雨が降る=悲しい》と決めつけるのか?(Here's That Rainy Day)」~『夜想曲集』#2~カズオ・イシグロ徹底解剖・第56話

まさか小説の三行目までの解説で、こんなに回を重ねるとは思ってもみなかったね… ホンマやな。 出だしの3行で、もう6回も書いとる。 しかし、よくもまあ毎回毎回、驚愕の新事実が飛び出してくるよな… 前回もホントに驚かされた… 仕方ないですよ… カズオ・イシグロが「ややこしい」伏線を張り巡らすから… 第3の曲『ヒアズ・ザット・レイニー・デイ』も、これまでの曲に負けないくらいの「ややこしさ」だぜ。 いや、ひょっとしたら、最も「ややこしい歌」かもしれないな… マジ

「ロレンツ・ハートの子守唄」~『夜想曲集』#2~カズオ・イシグロ徹底解剖・第58話

さて、『It Never Entered My Mind』と作者ロレンツ・ハートに関して、ちょっと紹介しようか… 歌の解説はコチラ! この歌は、1940年のブロードウェイミュージカル『Higher and Higher』のために作られた。 『サヨナラ』『南太平洋』で有名なジョシュア・ローガンが脚本・演出で、ロレンツ・ハートとリチャード・ロジャースの名コンビが曲を書きおろしたんだ。 『Higher and Higher』っちゅうたら、フランク・シナトラの映画デビュー

「シヴァとリンガとハイファイセット」~『夜想曲集』#2「降っても晴れても」~カズオ・イシグロ徹底解剖・第67話

し、シヴァ!? そう。多くのヒンドゥー教徒に最高神として崇められているシヴァだよ。 イシグロ&土屋政雄氏ふうに言えば「ヒンズーのシバ」だね。 第2話のタイトル『Come Rain or Come Shine』っていうのは、主人公レイモンド(愛称レイ)が「シヴァ」であることのジョークでもあるんだよね。 『Come Ray or Come Shiva』なんだよ。 前回を未読の人は、こっちを先に読んどいたほうがいい。 ど、どゆこと? 小説の最初のほうで、レイモンド

「決して聴こえない主題の謎」~『夜想曲集』#3「モールバンヒルズ」~カズオ・イシグロ徹底解剖・第69話

そして、歌のことを考えろ、と自分に命じた。まだしっくりこないパッセージのことを… おしまい。 え?それでおしまい? なんか妙なハナシやったな… 第1話や第2話に比べると、ちょっと空気感が違う気がする… あれだけたくさん登場した歌のタイトルがひとつも出てこなかったし… 主人公の名前も出て来なかったね! ずっと「ぼく」のままだった。 第1話は「ヤネク(ヤン)」で第2話は「レイモンド(レイ)」って名前があったのに。 あと、ミュージカル映画の話題も出て来なかった