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カズオ・イシグロ『日の名残り』小説&映画の徹底解説!

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ノーベル文学賞を受賞した日系英国人作家カズオ・イシグロの代表作『日の名残り』を、小説版と映画版の違いの理由などを交えて徹底解説しています。世界一のネタバレ記事となっていますので、…
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#おかえもん超訳

「MOON あなたは知ってるの?MOON あなたは何もかも…」~カズオ・イシグロ『日の名残り』徹底解説・第7話

お~お~~~~お~~~ お~お~~~~お~~~ お~お~~~~お~~~~お~~~ うっうっう… グスン… やるやんけ、カツオ… 鳥肌モンの声や… す、素晴らしい… 伝説とされるリンキンパーク「LIVE at テルアビブ」での、ボブ・マーリー『NO WOMAN NO CRY』から『The Messenger』へのメドレーですね… この鉄板メドレーで堕ちなかった女はいない… あのライブでは、『The Messenger』のイントロ最中にギターのブラッド・デ

「レベッカ」~カズオ・イシグロ『日の名残り』徹底解説・第8話

あのお方は、どこにいたって全てお見通しだ… 全てを知っているんだ… そう、何もかも… あのお方…? いったい誰のことなんでしょうか? あのお方とは… M… М!? な、なんやてェ!? あのМか!? 誰…? いつも一緒にいたくて、隣で笑ってたかった人? どアホ! そっちのMとちゃう! いや、あながち間違ってはいない… あのお方は、まるでいつもそばにいるかのようなのだ… すべてを見、すべてを聞き、何もかも御存じなのだよ… そして常にお顔に笑みを浮か

「受胎告知と映画版ラストの謎」~カズオ・イシグロ『日の名残り』徹底解剖・第22話

~~~ 二日目・朝 沼津 ~~~ じゃあ僕は管理人さんの小屋に行ってチェックアウトしてくるから、ちょっと車内で待っててくれ。 ぶ~ラジャ~! しかし朝も早くから大勢の人が集まっている… こんな辺鄙なキャンプ場に… みんな本当に音楽が好きなんだな… 見て見て、あの人たち! 管理人小屋の前で、なにか演奏を始めたよ! BOB DYLAN『The Man in Me』 演奏:Sideshow Stringband ボーリングしたくなってきたな。 途中でラウンドワン

「Born in a Trunk」(ボーン・イン・ア・トランク)②~カズオ・イシグロ『日の名残り』徹底解剖・第33話

~~~ 三日目・午前 大村PA ~~~ よかったね、パーキングエリアがすぐあって… なんだろう、この煙は… 車の調子は特に変わってないし… ナンボク、ちょっとトランクを開けてみてよ。 なんでワイやねん! 動物虐待で訴えたるわ! たぶん俺のアタッシュケースじゃないか? アタッシュケース? 俺たちスパイのアタッシュケースは、48時間一度も開けることがないと、自動的に消滅するようになっているのだ。 機密情報漏洩防止のためにな。 ああ!そうだった! 俺のもマズ

「葛藤」~カズオ・イシグロ『日の名残り』徹底解剖・第36話

~~~ 三日目・午前 長崎 ~~~ さあ、壁に書かれた文字「BEMN」の謎は解けたかな? なぜエスターは「あの四文字」を見て、もう一度ステージに立つ決心をしたのだろうか? 「BEMN」」がノーマンからエスターへのメッセージやと? どうゆうこっちゃ? ビビるな…エスター… もいちど…ニッコリ… おい、カヅオ… お前ホンマに諜報員か? ふざけるのもたいがいにせえ!こいつめ! 痛てててて… 頼むから耳をつねるのだけはやめてくれよ… お前らのアホさ加減はマジげ

《惚れっぽい私》は、いったい誰に惚れたのさ?~『夜想曲集』#1「 Crooner /老歌手」~カズオ・イシグロ徹底解剖・第49話

~~~ 三日目:夜 五島・福江島 ~~~ 『恋フェニ』の衝撃の余韻がまだ収まらんわ… ねえねえ、オイラ気付いたんだけどさ… トニー・ガードナーがヤネクに「キーをEフラットまで上げてくれ」って言ったのって… ジミー・ウェッブのことをほのめかしていたんじゃない? なんでや? だってホラ… 「Eフラット」は「E♭」って書くでしょ? 「Jimmy Webb」の中には「eb」が入ってる… ああ! 「Vincente(ヴィンセント)」の中に「Venice(ヴェニス)」

「なぜ人はパリの春を愛するのか?」~『夜想曲集』#2「 Come Rain or Come Shine /降っても晴れても」~カズオ・イシグロ徹底解剖・第54話

だけど、ホントなのかなあ… あの有名な歌『ビギン・ザ・ビギン』が「パレスチナ問題」の歌だったなんて… 間違いないよ。彼のほとんどの作品には「もうひとつの物語」が隠されている。 というか、これまで僕が紹介してきた歌は、ほとんど全部がそうだったよね? せやったな。 そのせいでこのシリーズがここまで長くなっとるわけや。 ボブ・ディランに至っては、2枚のアルバムの曲を丸々解説してきたしな。 コール・ポーターには他にも数多くの「暗号ソング」があるから、それらを解説しな

「こんなことになるとは思いもしなかった…(It Never Entered My Mind)」~『夜想曲集』#2~カズオ・イシグロ徹底解剖・第57話

それにしても、あのジャズのスタンダードナンバー『Here's That Rainy Day』の「出自」には驚いたな。 ホンマややこしい歌やった。 いよいよ、イシグロの短編集『夜想曲集』の第2話『Come Rain or Come Shine/降っても晴れても』の「冒頭で提示される4曲」の最後の1曲『It Never Entered My Mind』の解説だね… 曲名やタイトルが混在するとややこしいな。 現時点までをまとめると、こういうことだ。 おお!わかりやすい

「ロレンツ・ハートの子守唄」~『夜想曲集』#2~カズオ・イシグロ徹底解剖・第58話

さて、『It Never Entered My Mind』と作者ロレンツ・ハートに関して、ちょっと紹介しようか… 歌の解説はコチラ! この歌は、1940年のブロードウェイミュージカル『Higher and Higher』のために作られた。 『サヨナラ』『南太平洋』で有名なジョシュア・ローガンが脚本・演出で、ロレンツ・ハートとリチャード・ロジャースの名コンビが曲を書きおろしたんだ。 『Higher and Higher』っちゅうたら、フランク・シナトラの映画デビュー

「エミリー・エミリー&メリイ・クリスマス前篇」~『夜想曲集』#2~カズオ・イシグロ徹底解剖・第59話

やっと冒頭4曲の紹介が終わったね… 小説では、まだたったの5行目までなんだけど、実に濃厚で長かった… 「冒頭4曲」っちゅうのはコレのことやで。 驚きの連続だったな… 前回のロレンツ・ハートしかり… そういえば肝心の「登場人物の解説」が、まだだったじゃねえか。 こいつらにサクッと説明してやれよ、おかえもん。 いったい「エミリー」「ぼく」「チャーリー」が誰なのか… 誰? 第1話の『Crooner/老歌手』同様に、第2話『Come Rain or Come S

「サラ・ボーンのLOVER MANとパリの四月」~『夜想曲集』#2~カズオ・イシグロ徹底解剖・第66話

四つん這いで「犬」になりきり、「雑誌」に嚙みついていたレイモンド… 会議を切り上げ帰宅して、その姿を見てしまい、戸口で立ちつくすエミリ… 前回を未読の人はコチラ! さあ、ここからが小説も解説も正念場だ。 お手並み拝見といこうか。 へ? 実を言うと、ここから「3つ」の物語が同時進行するんだよ。 み、3つ!? 「表向き」と「裏」のストーリーだけじゃなくて!? そう… まず「表向きのストーリー」は、こんな感じだよね。 レイモンドの「偽装工作」を目撃したエミ

「マロニエの花、咲き乱れる頃」~『夜想曲集』#2「降っても晴れても」~カズオ・イシグロ徹底解剖・第68話

さて、主人公レイモンドと人妻エミリの二人による「交合ストーリー」における『ラバーマン』の意味を解説しよう。 前回を未読の人はコチラへ! レイモンドは、サラ・ボーンの『ラバーマン』を聴きながら、目を閉じて昔のことを思い出す。 およそ三十年前の大学時代のこと、エミリの部屋で「レコードプレーヤ」を囲み、この曲を二人で聴いていた。 Sarah Vaughan《LOVERMAN》 エミリがこの曲を選んだことには、非常に深い意味があるよな。 深い意味!? エミリがこの歌