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カズオ・イシグロ『日の名残り』小説&映画の徹底解説!

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ノーベル文学賞を受賞した日系英国人作家カズオ・イシグロの代表作『日の名残り』を、小説版と映画版の違いの理由などを交えて徹底解説しています。世界一のネタバレ記事となっていますので、…
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#日記

「遠く離れた君へ... 五島列島より愛を込めて」 ~カズオ・イシグロ『日の名残り』徹底解剖・第40話

~~~ 三日目・午後 五島列島・中通島 ~~~ ねえねえ、この地図見て! なんやねん? ここ中通島の形って、十字架に似てるよね! ホンマやな。 しかも「逆さ十字」や。 「逆さ十字」と言えば、使徒ペトロの象徴だぞ。 カラヴァッジォ『聖ペトロの逆さ磔』 使徒ペトロって、おかえもんが、さっき話してたやつじゃんか! これは偶然なのか…? それとも、全てあいつのシナリオ通り… あのオッサンがそんな綿密な計画を立てとるわけないやろ。 常に行き当たりばったりの男や。

「執事スティーブンス」~カズオ・イシグロ『日の名残り』徹底解剖・第42話

~~~ 三日目・夕方 五島・福江島 ~~~ ついに到着、福江島~! しかし、すっかり日暮れ時になってしまったな… 見てみい、あの夕日。 ワイの丹頂に負けへんくらいの鮮やかさやで。 消えゆくものが最後に放つ一瞬の美しさ。 まさに「日の名残り」だな。 年がら年中あるお前の丹頂とは「ありがたみ」が違う。 じゃかあしいわボケ。 ねえねえ、見て見て! 桟橋に子供たちが集まってるよ! しかもみんな手にプレゼントを持ってる。 何だろう? スターであるこのワイを

困ったな…

カズオ・イシグロの『日の名残り』解説シリーズを書き始めて、はや3ヵ月… ようやく終わりが見えてきたと思ったのに、ラジオ番組がきっかけで、ついつい別のイシグロ作品を読んでしまった… そして今僕は、ちょっとしたパニックになっている… なぜなら、この短編集『夜想曲集』は、これまでの僕の推察の正しさを裏付ける決定的な証拠だったんだ… 『夜想曲集』には、カズオ・イシグロの「ジュディ・ガーランド好き」「ボブ・ディラン好き」「下ネタ好き」「新旧聖書好き」が、すべて凝縮されていたんだ

「夜想曲」~カズオ・イシグロ『日の名残り』徹底解剖・第43話

~~~ 三日目・夜 五島・福江島 ~~~ ふぅ~ どうだった? 「セント・スティーブンス・デイ」のお祝いは、楽しんでもらえたかしら? は、はい… でもまさかシスター・ノラにこんな特技があるなんて知りませんでした… ウーピー・ゴールドバーグも顔負けのパフォーマンスやったで! あら、どうもありがとう。 ウーピーを引き合いに出されるなんて光栄だわ。 でも私はゴールドって言うよりジュリアナだけど。 ? ところで皆さんはカヅオさんのお友達? え、ええ… なぜあ

カズオ・イシグロ『夜想曲集』より「第1話 Crooner /老歌手」~『日の名残り』徹底解剖・第44話

~~~ 三日目・夜 五島・福江島 ~~~ ガードナーはちゃんとした男だったと思う。 カムバックを果たそうと果たすまいと、私にはいつまでも偉大なる歌手のひとりだ。 ・・・・・ ん?どうしたの? それでおしまい? ナンテコッタ… どうした?おかえもん… 西側では忘れられとる老いぼれ歌手を、いまだにスターやと勘違いしとる旧共産圏の田舎モンのハナシか? ありきたりやで。 往年のスタアの名前が仰山出てくるのはオモロかったけどな… ヴァカメ… まんまと騙されやがっ

カズオ・イシグロ『夜想曲集』の第1話「 Crooner /老歌手」とは、いったい何なのか?~『日の名残り』徹底解剖・第45話

~~~ 三日目・夜 五島・福江島 ~~~ うわ~!ドキドキする~! カズオ・イシグロの短編集『夜想曲集』第1話「Crooner/老歌手」に隠された秘密を全部しゃべっちゃうなんて~! 完全ネタバレだけど、作品の発表からもうすぐ10年だから、もう時効だよね! ちなみに「Crooner」というタイトルに隠された秘密はコチラ~! なんやねん、この出だし。前フリもクソもないな。 手抜きもいいとこや。 お前は黙って寝てろ。 毎回「前フリが長い」といった意見もあるんだ。

カズオ・イシグロ『夜想曲集』#1「 Crooner /老歌手」がどれだけ暗号だらけなのか僕が解説するとしよう!~『日の名残り』徹底解剖・第46話

~~~ 三日目・夜 五島・福江島 ~~~ 忘れてる人もいるかと思いますが、オイラたちは今、長崎県五島市の福江島にいます。 そしてようやくカヅオさんの妹さんがいる修道院まで辿り着いたんだけど、肝心の妹さんは、そこにはいませんでした。 なんでも素行不良で問題となり、無人島の「サザエ島」に「お清め」のために三日間籠っているそうです。 明日の朝、妹さんを迎えに「サザエ島」へ行くことになっているんだけど、ちょっと興奮して眠れないから、おかえもんの読み聞かせ&解説を聞くことになり

衝撃!カズオ・イシグロ『夜想曲集』#1「 Crooner /老歌手」で歌われる『恋はフェニックス』に隠された秘密のメッセージとは!?~『日の名残り』徹底解剖・第47話

~~~ 三日目・夜 五島・福江島 ~~~ さて、老歌手トニー・ガードナーは、主人公のギター弾きヤネクに対し、ある計画を持ち掛けた。 妻リンディのために、運河のゴンドラの上からセレナーデを歌いたいので、その伴奏をしてほしいと… ちなみに前回を未読の方はコチラをどうぞ! いよいよ例の3曲だな。 ベタな歌ばかりやったけどな。 ベタな歌だからこそいいのだ、ボケ。 あんなところで「ややこしい歌」を歌ってみろ。一気にムードぶち壊しだぞ。 長い歴史の中で、多くの音楽家や画家

《惚れっぽい私》は、いったい誰に惚れたのさ?~『夜想曲集』#1「 Crooner /老歌手」~カズオ・イシグロ徹底解剖・第49話

~~~ 三日目:夜 五島・福江島 ~~~ 『恋フェニ』の衝撃の余韻がまだ収まらんわ… ねえねえ、オイラ気付いたんだけどさ… トニー・ガードナーがヤネクに「キーをEフラットまで上げてくれ」って言ったのって… ジミー・ウェッブのことをほのめかしていたんじゃない? なんでや? だってホラ… 「Eフラット」は「E♭」って書くでしょ? 「Jimmy Webb」の中には「eb」が入ってる… ああ! 「Vincente(ヴィンセント)」の中に「Venice(ヴェニス)」

「サラ・ボーンのLOVER MANとパリの四月」~『夜想曲集』#2~カズオ・イシグロ徹底解剖・第66話

四つん這いで「犬」になりきり、「雑誌」に嚙みついていたレイモンド… 会議を切り上げ帰宅して、その姿を見てしまい、戸口で立ちつくすエミリ… 前回を未読の人はコチラ! さあ、ここからが小説も解説も正念場だ。 お手並み拝見といこうか。 へ? 実を言うと、ここから「3つ」の物語が同時進行するんだよ。 み、3つ!? 「表向き」と「裏」のストーリーだけじゃなくて!? そう… まず「表向きのストーリー」は、こんな感じだよね。 レイモンドの「偽装工作」を目撃したエミ

「マロニエの花、咲き乱れる頃」~『夜想曲集』#2「降っても晴れても」~カズオ・イシグロ徹底解剖・第68話

さて、主人公レイモンドと人妻エミリの二人による「交合ストーリー」における『ラバーマン』の意味を解説しよう。 前回を未読の人はコチラへ! レイモンドは、サラ・ボーンの『ラバーマン』を聴きながら、目を閉じて昔のことを思い出す。 およそ三十年前の大学時代のこと、エミリの部屋で「レコードプレーヤ」を囲み、この曲を二人で聴いていた。 Sarah Vaughan《LOVERMAN》 エミリがこの曲を選んだことには、非常に深い意味があるよな。 深い意味!? エミリがこの歌