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カズオ・イシグロ『日の名残り』小説&映画の徹底解説!

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ノーベル文学賞を受賞した日系英国人作家カズオ・イシグロの代表作『日の名残り』を、小説版と映画版の違いの理由などを交えて徹底解説しています。世界一のネタバレ記事となっていますので、…
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#夜想曲集

困ったな…

カズオ・イシグロの『日の名残り』解説シリーズを書き始めて、はや3ヵ月… ようやく終わりが見えてきたと思ったのに、ラジオ番組がきっかけで、ついつい別のイシグロ作品を読んでしまった… そして今僕は、ちょっとしたパニックになっている… なぜなら、この短編集『夜想曲集』は、これまでの僕の推察の正しさを裏付ける決定的な証拠だったんだ… 『夜想曲集』には、カズオ・イシグロの「ジュディ・ガーランド好き」「ボブ・ディラン好き」「下ネタ好き」「新旧聖書好き」が、すべて凝縮されていたんだ

カズオ・イシグロ『夜想曲集』より「第1話 Crooner /老歌手」~『日の名残り』徹底解剖・第44話

~~~ 三日目・夜 五島・福江島 ~~~ ガードナーはちゃんとした男だったと思う。 カムバックを果たそうと果たすまいと、私にはいつまでも偉大なる歌手のひとりだ。 ・・・・・ ん?どうしたの? それでおしまい? ナンテコッタ… どうした?おかえもん… 西側では忘れられとる老いぼれ歌手を、いまだにスターやと勘違いしとる旧共産圏の田舎モンのハナシか? ありきたりやで。 往年のスタアの名前が仰山出てくるのはオモロかったけどな… ヴァカメ… まんまと騙されやがっ

カズオ・イシグロ『夜想曲集』の第1話「 Crooner /老歌手」とは、いったい何なのか?~『日の名残り』徹底解剖・第45話

~~~ 三日目・夜 五島・福江島 ~~~ うわ~!ドキドキする~! カズオ・イシグロの短編集『夜想曲集』第1話「Crooner/老歌手」に隠された秘密を全部しゃべっちゃうなんて~! 完全ネタバレだけど、作品の発表からもうすぐ10年だから、もう時効だよね! ちなみに「Crooner」というタイトルに隠された秘密はコチラ~! なんやねん、この出だし。前フリもクソもないな。 手抜きもいいとこや。 お前は黙って寝てろ。 毎回「前フリが長い」といった意見もあるんだ。

カズオ・イシグロ『夜想曲集』#1「 Crooner /老歌手」がどれだけ暗号だらけなのか僕が解説するとしよう!~『日の名残り』徹底解剖・第46話

~~~ 三日目・夜 五島・福江島 ~~~ 忘れてる人もいるかと思いますが、オイラたちは今、長崎県五島市の福江島にいます。 そしてようやくカヅオさんの妹さんがいる修道院まで辿り着いたんだけど、肝心の妹さんは、そこにはいませんでした。 なんでも素行不良で問題となり、無人島の「サザエ島」に「お清め」のために三日間籠っているそうです。 明日の朝、妹さんを迎えに「サザエ島」へ行くことになっているんだけど、ちょっと興奮して眠れないから、おかえもんの読み聞かせ&解説を聞くことになり

衝撃!カズオ・イシグロ『夜想曲集』#1「 Crooner /老歌手」で歌われる『恋はフェニックス』に隠された秘密のメッセージとは!?~『日の名残り』徹底解剖・第47話

~~~ 三日目・夜 五島・福江島 ~~~ さて、老歌手トニー・ガードナーは、主人公のギター弾きヤネクに対し、ある計画を持ち掛けた。 妻リンディのために、運河のゴンドラの上からセレナーデを歌いたいので、その伴奏をしてほしいと… ちなみに前回を未読の方はコチラをどうぞ! いよいよ例の3曲だな。 ベタな歌ばかりやったけどな。 ベタな歌だからこそいいのだ、ボケ。 あんなところで「ややこしい歌」を歌ってみろ。一気にムードぶち壊しだぞ。 長い歴史の中で、多くの音楽家や画家

《惚れっぽい私》は、いったい誰に惚れたのさ?~『夜想曲集』#1「 Crooner /老歌手」~カズオ・イシグロ徹底解剖・第49話

~~~ 三日目:夜 五島・福江島 ~~~ 『恋フェニ』の衝撃の余韻がまだ収まらんわ… ねえねえ、オイラ気付いたんだけどさ… トニー・ガードナーがヤネクに「キーをEフラットまで上げてくれ」って言ったのって… ジミー・ウェッブのことをほのめかしていたんじゃない? なんでや? だってホラ… 「Eフラット」は「E♭」って書くでしょ? 「Jimmy Webb」の中には「eb」が入ってる… ああ! 「Vincente(ヴィンセント)」の中に「Venice(ヴェニス)」

~『夜想曲集』#2「 Come Rain or Come Shine /降っても晴れても」~カズオ・イシグロ徹底解剖・第51話

~~~ 三日目:夜 福江島(長崎五島) ~~~ だから、二人は星空の下で踊りつづけた… お終い… え? それでおしまいなの? タイトルの『降っても晴れても』は、最初のほうでチョコッと名前が出てきただけやんけ。 しかも小説では雨も降らん。 どないなっとんねん? そこはあとでゆっくり考えていくとして… 何か気付いた点は? 引っかかったこととか。 主人公のレイモンドって「レイモンド・カーヴァー」のことじゃないのか? 随所にカーヴァ―の短編小説のタイトルや小ネ

「なぜ人はパリの春を愛するのか?」~『夜想曲集』#2「 Come Rain or Come Shine /降っても晴れても」~カズオ・イシグロ徹底解剖・第54話

だけど、ホントなのかなあ… あの有名な歌『ビギン・ザ・ビギン』が「パレスチナ問題」の歌だったなんて… 間違いないよ。彼のほとんどの作品には「もうひとつの物語」が隠されている。 というか、これまで僕が紹介してきた歌は、ほとんど全部がそうだったよね? せやったな。 そのせいでこのシリーズがここまで長くなっとるわけや。 ボブ・ディランに至っては、2枚のアルバムの曲を丸々解説してきたしな。 コール・ポーターには他にも数多くの「暗号ソング」があるから、それらを解説しな

「ロレンツ・ハートの子守唄」~『夜想曲集』#2~カズオ・イシグロ徹底解剖・第58話

さて、『It Never Entered My Mind』と作者ロレンツ・ハートに関して、ちょっと紹介しようか… 歌の解説はコチラ! この歌は、1940年のブロードウェイミュージカル『Higher and Higher』のために作られた。 『サヨナラ』『南太平洋』で有名なジョシュア・ローガンが脚本・演出で、ロレンツ・ハートとリチャード・ロジャースの名コンビが曲を書きおろしたんだ。 『Higher and Higher』っちゅうたら、フランク・シナトラの映画デビュー

「エミリー・エミリー&メリイ・クリスマス前篇」~『夜想曲集』#2~カズオ・イシグロ徹底解剖・第59話

やっと冒頭4曲の紹介が終わったね… 小説では、まだたったの5行目までなんだけど、実に濃厚で長かった… 「冒頭4曲」っちゅうのはコレのことやで。 驚きの連続だったな… 前回のロレンツ・ハートしかり… そういえば肝心の「登場人物の解説」が、まだだったじゃねえか。 こいつらにサクッと説明してやれよ、おかえもん。 いったい「エミリー」「ぼく」「チャーリー」が誰なのか… 誰? 第1話の『Crooner/老歌手』同様に、第2話『Come Rain or Come S

「エミリー・エミリー&メリイ・クリスマス後篇」~『夜想曲集』#2~カズオ・イシグロ徹底解剖・第60話

め、メリイ・クリスマス? そう… カズオ・イシグロの短編『Come Rain or Come Shine/降っても晴れても』は、太宰治の『メリイ・クリスマス』という短編を元ネタとして書かれているんだ… 前回を読んでない人にはチンプンカンプンだな。 まずはこれを読んで、衝撃の展開に備えたほうがいいぞ。 ほ、本当なのか? 間違いないですね。 だって「ブーツ」が重要なアイテムとして出て来るでしょ? 「ブーツ」といえば「太宰治」だ。 太宰治って当時の日本人として

「ロンドンって、どこ?」~『夜想曲集』#2~カズオ・イシグロ徹底解剖・第61話

じゃあ第2話『Come Rain or Come Shine/降っても晴れても』の解説を始めよう。 登場人物は、この三人。こんな役割になっていた。 前回を未読の人はコチラからどうぞ! しかし衝撃的だったな… せやな… まだサブイボ立っとるわ。 冒頭に提示された4曲の「出だしのフレーズ」によって、この小説が「新旧聖書」を元ネタにしたものであることが暗示されたということは話したね。 続けて語り部の「ぼく(イシグロ)」は「今どきの若者」と「自分たち世代」の「音楽へ

「イシグロの暗号」~『夜想曲集』#2~カズオ・イシグロ徹底解剖・第62話

さて、どんどん進めるよ。 前回を未読の人は、こちらをどうぞ~ 主人公の「ぼく」ことレイモンドとチャーリーがフラットに戻ると、エミリが「フィナンシャルタイムズ」を読んでいた。 エミリを見て「ぼく」は驚く。以前よりかなり太ってて、口元がブルドッグみたいだったからだ。 ひでえな(笑) なぜ「フィナンシャルタイムズ」なのか、わかるか? なぜ? たまたま読んでただけじゃないの? 『日の名残り』の「訳者あとがき」でも土屋政雄氏は「ニューズウィーク」を使っていたよな。

「ぼくたちの失敗」~『夜想曲集』#2~カズオ・イシグロ徹底解剖・第63話

さて、居間を物色したレイモンドは、キッチンへ向かった。 それにしても居間で発見した3枚のCDの秘密には驚いたね! まさかあんな暗号になっていたとは! 特に「フレッド・アステア」は、サブイボMAXやったで。 有り得ないよな… 何度も言ってるだろう。 イシグロ文学においては「有り得る」ことなのだ。 太宰のように。 さて、レイモンドはキッチンテーブルの上に置かれていた「紫のノート」を目にする。 もちろんエミリのものだ。 もうパターンは読めたで! 「紫のノー