【仮題】人生のリスクとリターン──とある匿名個人投資家との雑談集 (聞き手 おかふじりんたろう)

第?章

平準化による見えないコスト


小さな上り下りを繰り返す山道の方が、同じ長さの平坦な道よりも、運動効果が大きいですよね。

──物理学でも、力学的エネルギー保存則の実験で、似たようなものがありますね。
https://youtu.be/ctZcyuz4Dlw?si=qEawA_maVGraa8dc

はい。同じ長さの道のりでも、細かいアップダウンがある方が鉄球の速度が早くなります。同じように、キツイ斜面や休憩がランダムにある方が、体にとって運動になります。

──ええ。

しかしこれは、逆に言えば、ボラティリティ(坂道)を無理やり平準化すると、元々あったエネルギーの差分だけ、どこかに歪みが発生することになります。
たとえば、山道をアスファルトで舗装すると、それまでとは比べ物にならないメンテナンスコストが定期的に発生します。

──重機とか使いますもんね。

また、アスファルトは経年劣化による地盤の不安定化を生み出し、土砂崩れにつながることがありますし、一度土砂崩れが起こると、アスファルトの分だけ木が減っているので、大きな土砂崩れになりやすいです。

──木だと根っこが斜面の地固めをしてくれていますが、アスファルトは平にした地面の上っ面に乗っかっているだけですからね。

もちろん、山道を舗装することで得られる利益もありますし、それらを一概に良いとか悪いとか言いたいわけではありません。ただ単に、平準化することで歪みが発生し、その歪みが、見えないコストとして積み重さなってしまう事例があるということです。
他の領域、たとえばビジネスでも似たような事例があります。業務量を平準化したいがために、無理やり社員を雇う。しかし閑散期は社員が手持ち無沙汰になってしまうので、無理やりブルシットジョブを生み出して社員にやらせる、というような本末転倒なことになっている会社は、たくさんあるでしょう。

──そうですね。正社員には閑散期でも給料を払わなければいけませんから、経営者や上司は、ついついその社員になにかやらせようとしますよね。で、利益に繋がっているか微妙な、結局なんだかよくわからない仕事が生まれていく。よくある話です。

余談ですが、多くの飲食・観光業者は、季節や時間帯による業務量のボラティリティが大きいので、他の業界に比べて労働者の中でアルバイトの占める割合が大きいのですが、それは正社員を雇うことによるコストの方が、中長期で見ると大きくなるからです。

──知り合いに、夏は南のリゾートホテルで、冬はスキー場でアルバイトをすることで何年も生きている人がいるのですが、彼は逆にそのボラティリティを上手く利用して生きているわけですよね。彼は年間を通してみれば、正社員よりも少ない労働時間で、特に不自由なく暮らしています。
雇う側からしても「せっかく儲けどころの忙しい時期に、需要に応えられない」という機会損失は避けたいので、少々割高でも彼のような人材は雇いたいわけで、お互いにウィンウィンな関係性です。

機会損失を繰り返していると「あそこは、いつも満席だから予約するのをやめよう」という噂が立ちかねませんからね。

──ただし、アルバイト的な働き方の人材を定期的に再雇用し続ける場合の問題点は、採用コストや教育コストが毎回かかるということです。しかし、彼はいつも同じホテルとスキー場で働いているそらしく、既に雇い主との関係性やノウハウがあるので、いつもスーパー助っ人として、ありがたられているようです。

それは良いですね。

──もちろん、結構彼はレアケースというか、たまたま雇用先と相性が良かったのだと思います。リゾートバイトは人間関係や労働環境など、当たり外れがあると聞きますから。すみません、話をボラティリティに戻しましょう(笑)。

そうですね(笑)。まあ、要するに元々ボラティリティがあったところを、無理やり平準化すると見えにくいコストが発生するわけです。ですから、私の基本的な考え方としては、ボラティリティを平準化するのではなく、ボラティリティを前提として、戦略を作ります。

──ナシーム・ニコラス・タレブで言えば、「頑健さ」と「反脆弱性」を戦略に取り入れるということですね。

ええ。

Coming soon……

いいなと思ったら応援しよう!