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借金発覚 第25話「とりあえず年内は待つしかない」


0〜24話までのあらすじ

五十二歳で大手生保を早期退職した父は、退職金を元手に怪しい投資ビジネスを開始するが、一年も経たないうちに退職金は蒸発。一家は貧乏暮らしに転落。それから十八年後のある日、父の隠していた借金が発覚し、兄弟たちで大騒ぎになるが、「もうすぐ大金が入るから」と父は自己破産を拒否。そんな中、十四年間失踪していた三男が見つかり、三男は母との再会を果たす。その折、次男は実家で父の怪しい投資ビジネスの書類を押収し、詐欺色の強い書類の山に呆れ返る。そして2回目の父との話し合いを持つが、話は平行線に終わる。

主な登場人物

父・・・大手生保の営業マンだったが、五十二歳で早期退職。
母・・・農家出身で看護師。メンタルが弱い。
長男・・・五人兄弟の長子。既婚。地方都市に住む。
次男・・・五人兄弟の二番目。既婚。本書の主人公。
長女・・・五人兄弟の三番目。既婚。
三男・・・五人兄弟の四番目。独身の一人暮らし。
次女・・・五人兄弟の五番目。独身。父母と唯一同居。

とりあえず年内は待つしかない

けんちん汁をそそくさと食べて、僕らは次女の車で駅に送ってもらうことにした。父もアパートの外に出て僕らを見送りに来た。僕は父と目を合わすのも嫌で、早々に車に乗り込もうとしたが、その前に父が最後に全員に声をかけた。
今後なんだけど、長男を窓口に連絡を入れるから
まあ、当然の流れだろう。突っ込みまくっていた僕や三男と連絡を取りたい訳がない。
僕らは実家を離れた。

***

駅に到着したのでお礼を言って車降りようとすると次女が提案した。
「ちょっと話そうよ」
確かに次に五人全員で集まることは相当難しいだろう。
「じゃあ、まず今日の振り返りだけど」
結局、攻め切れなかったね
残念そうに僕が言うと、次女が全く反対の評価を口にした。
え!? 今日は本当にすごい進展があったと思うけど。今までに、こんなにお父さんが色々と自分で話したことはないよ
「でも、お父さんの説明めちゃくちゃだったね
と長女。
「それでこれからどうするかの確認したいんだけど」
僕が尋ねると長男が答えた。
とりあえず年内は待つしかないだろう。そういう約束なんだから。それで、年が明けてお前が既に調べた偽物の免許証とかの情報を父ちゃんが出してくれれば、誰も住んでない証拠とかを見せられるだろう
しかし、それだけでは弱いように思う。僕は提案した。
やっと取引内容の詳細が分かったから、R社とかにも問い合わせて裏を取った方がいいね
「まあ、そこは次男に任せるわ」
引き続き、僕が証拠集めを行うことになった。

***

母への説明をどうするのか

「ねえ、これから時間ある?」
車を運転している次女が僕を見て言った。
「なんで?」
「ほら、お母さん今お姉ちゃんの子供たち見てくれてるでしょ。今からお姉ちゃんを送りに行ってそのままお母さんを乗せて実家に帰るんだけど、もし時間があるなら一緒に来てお母さんに今日の話し合いのことを説明してくれないかな
長男が反対した。
いや、母ちゃんは今日の話し合いの内容は知らなくていいだろう
えっ、でも説明しないのもおかしくない? あと、こっちから説明しないと、またお父さんが都合のいいことだけお母さんに話すと思うよ。こっちの意見も聞いておいてもらった方がいいと思うけど
「まあそうだけど、こっちから説明してメンタルがおかしくなるよりましだろう」
「うーん、確かにそういうリスクもあるんだけど・・」
「母ちゃんには、全部が解決した後に、報告すればそれでいいと思う」
結局、長男の提案通りにすることにすることになった。聞かれたらその時は答えればいいが、恐らく話し合いの内容について母からこちら側には聞いてこないだろう。現実を直視するのが怖いからだ。


「いずれにせよ、この問題は解決に時間がかかると思う」
「そうだね。長男が同居できれば、もっと時間をかけて話しができるようになるかもね」
長男の言葉に僕が返すと、妹たちがギョッと長男を見た。
「同居ってどういうこと!?」
「いや実はな・・」
長男は事務所の閉鎖と東京への転職の可能性を説明した。
「まあ、東京への転職はあくまで可能性だけどな。もし東京に転職できるなら、しばらくは単身赴任になるから、実家に住もうと思ってな」
「家族は連れて行かないの?」
「ほら、俺さ今まで転職や転勤で過去何度も家族に引っ越しを強要してきただろ。その度に、子供たちの人間関係を引き裂いてきたと思ってる。だから、末の娘が高校に進学するまではそのまま今の所に住まわせてあげたいんだよな。でも、正直めちゃくちゃ大変だよ」

こうして兄弟五人はそれぞれの帰路についた。

(26話につづく)

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