お花に悪いことをした

幼稚園の頃、クラスメイトの女の子のお誕生日会に呼ばれた。

その子は裕福な家庭に育ち、身体が大きく、クラスではボス的な存在だった。その彼女から誘われたのだから、正直とても驚いた。クラスの子みんなを誘ったのだろうと思った。

当日、私は誕生日プレゼントを買わないといけないことを母に伝えた。すると母は、財布から幾らかのお金を取り出し「これでお花を買って、持たせてあげなさい」と言って、姉に渡した。

本当は、ハローキティやキキララなどキャラものの文房具なんかをプレゼントしたかった。しかし言い出せなかった。戦後の食糧難を経験した母は「欲しがりません、勝つまでは」的な価値観を持っており、子どもがあれこれ欲しいと駄々をこねたり、自分の欲求を通すことは恥ずべきことであると躾けていた。要するに厳しくて怖い母だったのだ。それを「一番言いたいことは言ってはいけない」というふうに当時の私は理解していた。

姉は母からお金を受け取り、私を連れて花屋へ行った。こともあろうに、お友だちの家の正面にある花屋だった。そこで買った花束は幼稚園児が抱えるには大き過ぎたが、無事にお友だちの玄関までたどり着くことができ、そこで姉は帰っていた。

インターホンを押すと、お友だちとそのお母さんが出迎えてくれた。お友だちはムスッとしていた。花束がプレゼントだと勘付いたせいか、あるいは、私は来ても嬉しくない人物だったからか。

なかなか花束を受け取ろうとしない様子にお母さんが気づいたのか「まぁキレイなお花!ありがとう!」と少々大げさに喜んで見せて「花瓶にいけて持っていくわね」と花束を持って家の奥へ消えた。

私は赤いカーペットが敷かれた階段をのぼり、二階へ案内された。そこにはやはりクラスメイトが全員いた。一様にカラフルな袋や箱を持って。

きっと美味しい料理やケーキ、お菓子を食べたにちがいない。しかし、まったく記憶に残っていない。

プレゼント隠しの時に出番のない私はモジモジしまくっていたことは覚えている。

プチ鬼ごっこのような遊びが始まった時、ある女の子が「あっ!」と言って、ひーんと泣き出した。私の指が彼女の目に当たってしまったのだ。目を押さえて泣いている彼女を皆はなぐさめ、「だめじゃない!」「目は大事だよ!」と私を口々に責めた。

「わざとじゃないよ、ごめんね」
と謝ったかどうか記憶にない。

追い出されたのか、それとも耐えられなくなって自ら飛び出したのか、

一人、赤いカーペットが敷かれた階段を降り、玄関口へ向かっていた。視界は歪んでいた。

たくさん並んでいる靴の中から、自分のものをすぐに見つけられず、イラついた。

お花に悪いことをしてしまったと今では思っている。


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