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老残日誌(三十)

顔真卿の書法世界

顔真卿展に行く。会場の東京国立博物館で十時前には並んだのに、チケット販売窓口はすでに長蛇の列で、入館にもまた二十分ほどの時間を要した。係員の誘導に従い、比較的に空いていた第二展示室から鑑賞した。入室してすぐ右手に「祭姪文稿」が展示してあり、びっくりする。いきなり、濃密な顔真卿世界である。中共の魔手から逃れて台湾に落戸したこの作品は本家の中国では公開されたことがないので、「文稿」の前は大陸中国人が団子になり、列が硬直して進まない。

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近代以前の中国において、書法史には二つの大きなうねりがあった。ひとつは魏晋南北朝期における東晋の時代で、蘭亭序などで有名な王羲之がその頂点に君臨する。もうひとつのうねりは盛唐のころ、その時代の書法世界に濃い墨血を注いだ今回の展示の主人公である顔真卿だろう。顔真卿は王羲之と並び称せられる。展示会の文案(キャッチ・コピー)も「王羲之を超えた名筆」とは、まことに挑戦的ではないか。

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好みの問題だと思うが、わたくしは圧倒的に顔真卿が好きだ。その筆はあるときは雄渾・磊落であり、また、精緻で端正なことも度々である。展示作品のなかで好きなものを思いつくままに列挙してゆくと、「王琳墓誌」、「千福寺多宝塔碑」、「祭姪文稿」、「郭氏家廟碑」、「逍遥楼三大字」、「麻姑仙壇記」、「顔氏家廟碑」などと尽きることなく、とても記しきれない。

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最後に第1展示室で、同時代の玄宗皇帝が書いた天井までもとどく巨大な「紀泰山銘」に完全圧倒された。今回の展示では、この作品だけが写真撮影を許されたのである。

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