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2021年11月25日の乾杯

2021年11月25日の乾杯、コロナ感染も比較的収まった状態を続けていて、とりあえず以前の日々も少しずつ戻ってきて。
そんな中、ふたりが別々の回に観た日本のラジオ『カナリヤ』のことを中心に、おじさんが観た第27班『どうしよう 孤独だ 困ったな』やTOKYO PLAYERS COLLECTION『IN HER THIRTIES 2021』などについて語り合います。

👨演劇のおじさんと
👩おねえさんです。よろしくお願いします。今日もちょっと遅めですね。
👨前回も深夜だったからね。
👩おねえさんがなかなか帰れなくてね。
👨いろいろとお忙しそうで。
👩そうなんですよ。さて、皆様、今回は二人が観た舞台の感想を述べ合う回でございます。
👨はい。こまばアゴラ劇場で先日まで上演されていた日本のラジオ『カナリヤ』ですね。
👩前にこの乾杯の中でも観たいという話をしてたのですけれど、それぞれで観てきました。
👨私の場合、あの舞台がとても面白くて一度ならず二回も観ましたけれどね。
👩素晴らしい。
👨元々このお芝居って初演も観ているのですよ、実は。
👩そうか!私知識がちゃんとなくてあれなのだけれど、これ再演なんですね。
👨初演は新宿眼科画廊でやったんですよ。
👩これを新宿眼科画廊でやるのってなかなかだね。重ーーくなりそう。
👨うん、思い出すとね、観る側にとっては今ひとつ上手く抜けていかないお芝居ではあったよね。じわっと重くて終演後はみんな頭を垂れて帰って行くみたいな。
👩うんうん。
👨今回はその時よりずっと、いろんなことがぐちゃっとならないで明確になっていた気がする、初演と比べると。
👩空間も広かっただろうしね。で、感想なんだけど、大きなところでの再演でもありおじさんはおもしろかったと。
👨おもしろかったですね。
👩私もおもしろかった。特別なことが起こらないというのは語弊があるんだけれどさ、もう想像を…そのー、なんていうの?状況としてなにも起こっていないわけではない。でもいろんなことが場面上にはでてこないのだけれど察せられるし起こっているんだよね。物語の中で。
👨むしろ、場面上にそれほどなにも起こらないことの恐ろしさだよね、あれは。
👩そうですね。人間は想像力の生き物だからさ。
👨年代にもよると思うんだけれど、私にとってあの事件は、とてもリアルなんで、ある意味。勤めていた会社でも実際に、亡くなることはなかったけれど被害に遭ってそのあと暫く休職した人はいたし。
👩それはほんとに身近だね。
👨で、まあ言ってしまうと・・・、これは言ってもいいよね。
👩いいよ、大丈夫だと思うよ。
👨下敷きになっているのはきっとオ〇ム真理教の話なんですよね。もちろん、フィクションになっているのだけど。たとえば、教祖様の性別が逆転していたり、いろいろ違うところがある。
👩そうだね。
👨前回話した歌舞伎のように大石内蔵助が大星由良之助になっているみたいなね。
👩そうそう、昔からね、そういうのが演劇ではあるし。
👨うん。
👩でも考えちゃったよね。私もあの事件はリアルタイムでテレビで観ていた。小さかったけれど、観ていたから。…よくはわからないわけ、子供だから。でも、やっぱり、とんでもないことが起こっているということはわかるのね。
👨私は実際に丸ノ内線で銀座まで通勤していたのね。
👩ああ、丸ノ内線もそうでしたっけ。
👨丸ノ内線でも撒かれた。一つの路線だけではなかったのだけれど、丸ノ内線も絡んでいて。で、前回のおじおねでも話したけれど、私、当時は銀座のオフィス勤務だったんですよ。
👩うんうん。
👨で、その日銀座駅を降りたら、駅の周辺の雰囲気が全然違うの。
改札を出て、なんかお天気もよさそうだから、上にでて歩いていこって階段を上がったら、人があんまりいないの、まず。
👩うん。
👨で、数寄屋橋にしても銀座四丁目の交差点にしても角々にパトカーや消防車なんかも停まっていて。それはそうだよね、銀座から東銀座のあたりはいろんなものがシャットダウンされていたわけだから。それで、駅の階段のところに駅員の人がいたからなにがあったのですかって訊いたのね。別に、日比谷線に乗り換えるわけでもなかったのだけれど。
👩うん。
👨そうしたら、なにかガスが漏れているみたいでみたいな説明はうけたのだけれど、その時に。
👩まだ訳がわかってなかったんだね、その時には。
👨そうそう。何が起きたか誰もわかっていなかった。
👩そんなことが起こるわけがないみたいなさ、正常バイアスだっけ?大丈夫だろうというか…。そんな悪意がどんっっと襲ってくるって現実味がないからね。
👨ほんと駅員さんもなんか狐につままれて居るみたいな感じだったね。でもさ、本当に想像ができないことが起こった時って、たとえば大地震が起こった時とかでもそうだったのだけれど、情報って伝わらないんですよ。というか、これは大変なことが起きていますっていうときにはまだ情報網がちゃんと機能しているわけで、本当に想像もできないことが起こったときって、それがまず停まってしまうんだよね、きっと。
👩うん。
👨そんな雰囲気を覚えていて、その上での観劇だったのだけれどね。
👩うんうん。
👨観終わって一瞬私の中にそういうことを思い起こさせるような静かさというか、そういう感じの中でオフィスに向かったことも思い出した。
👩私もやっぱりその時のことは浮かんだ。まずね、そもそも私、小劇場の作品を暫く観にいくことがすごく難しかったんですよね。
👨おっしゃっていましたよね。
👩自分が、お芝居自体と関わりをなくしたわけではないけれど、私、舞台というものには暫く立たないだろうし立てないだろうと思うのね。いろんな事情や状況がありまして。で、そうなったときに小劇場の舞台を観にいくってやっぱり凄く苦しいことなの。あのー、なんだろうね、どんな気持ちなんだろう…。その、演劇がコロナでね?出来なくなったりとか、延期になったりとか、中止になったりとかしているのは本当に辛かったし、その、うーん、がんばろう!がんばってくれっ!!て思っていたし、再開されれば嬉しいのだけれど……あのね、なんだろうね、言葉にするのはちょっと怖いけれど。実際に始まるとやっぱり悔しいんだろうね、きっとね。
👨お姉さんの場合は、駄目な役者ではなかったじゃない。駄目な俳優ではなかった。
👩あはは、ありがとうございます。いや、そういって頂けると。
👨私、俳優の人たちを観ていてすごく思うのは、やっぱりなにかのものを作るとき、そのピースにならなければいけないじゃない、俳優の人っていうのは。
👩そうですね。
👨その能力のあるないっていうなかで、作り手のひとは、俳優ごとに、許される限り最大限良いピースを取ろうとするし、そういう意味で正直に言ってしまうと、必ずしもおねえさんが持っているピースはなんでもはまるようなマルチな俳優さんではないとはおもっているのだけれどね。
👩あのね、なんていえばいいんだろう。そうね…個性が強い?個性が強いというか、あはは。
👨そう、個性が強いというか。でもね、なんていうの、おねえさんの持つどのピースには決め球になるなにかがちゃんとあるのですよ。
👩そうですね、ちょっと恥ずかしいですけれどっっ。
👨これを投げたら三振が取れるみたいなね。そういう俳優さんだったから、またそういうマウンドが用意されればまた投げてもおかしくはないじゃない。
👩うんうん。
👨ただ、それをグラブに収めたままなのが,ここでは言わないけれどいろんな事情があってというようなことだったら、それはやっぱり投げたいのだろうなぁということは普通に思うよね。
👩うん。
👨で、観たいなぁとも思うし。
👩うれしいですね、とっても。いやぁ、悔しいんだ、そう。
👨ということも踏まえて、で、実際にその小劇場を観てどうでした?
👩観た作品が良かったと思いました。
👨ああ、なるほど。

カナリヤ 看板 UP


👩「日本のラジオ」。そのさ、今言ったように、演劇を観に行こうと思うのがまずものすごくハードルが高いんですよ。勝手なことなのだけれどね、凄くハードルが高いから、あんまり目に入らないというか、目に留めないようにしていたのかもしれない。それがね、「日本のラジオ」出演者さんのTwitterであらすじが流れてきて、ものすごく気になったんですよ。ひっかかったの、良い意味で。久しぶりに観たいと思えたんですよ。だから観に行くことができた。当日パンフレットに書いてあったのだけれど。現実の憂鬱な出来事とか憂鬱な状態とか、そういうものを吹き飛ばすようなものではないけれど、こういう作品が、演劇が、なにかになればみたいな。そういう雰囲気のことが書いてあったの。それが刺さった。実際その作品を観てもそう思った。考えること、実際におこった大変なことの中に普通の人がいたり、普通の人の地続きに。あ、そりゃとんでもない人はいますよ、許しちゃいけないことをしてきた人はいる、いろんな歴史のなかでね。その、昔の事件だったりもそうだしね。それで命を奪われている人もいるわけだから。
👨うん。
👩ただ、なんだろうね、そこにさ普通の人たちがいるのよな。外から見ていると十把一絡で、というか全部そういう風に…みんなおかしいように。自分たちと違うっていう風に見えてくるけれど…
👨うんうん。
👩でもそこには普通に、普通……ちょっとねじれたり、人に害を為してしまうことが普通になってしまっている人だったりがいるかもしれないけれど…でもその周りの人はけっこう普通だったりして。
👨舞台の外側は知らないけどね、
👩うんうん、もちろんね。
👨だけど、その舞台の内側で起こってることは、別にそこで殺し合い起きているわけでもないし、淡々とした時間がこう静謐に流れているわけで。
👩そうそうそう、とんでもないことはその外側というか。私たちは知っているからね。事件が起こるということもわかるし、事件を起こす実行犯の後藤さん、後藤リュウタさん、あの横手慎太郎さんがやっていらっしゃったけれど。
👨はい。
👩あのさ。ちょっと話がずれるかもしれないけれど、めっちゃ良くなかったですか、後藤リュウタさん、というか横手さん。
👨うん。多分彼は本質的にはああいう俳優なのだろうなというのを昔から思っていて。シンクロ少女なんかで観ると、もうちょっとアクの強いというか、デフォルメされたお芝居というのもできる人なのだけれど、でも本来あの人は性格俳優ですよ、絶対に。
👩一方で、いい意味で、あの俳優さんって狂気を感じませんか。明るい役をやっていてもちょっと怖さが滲むというか。
👨「シンクロ少女」の俳優さんたちは3人ともそうね。
👩ああ、そうですね。しかも方向性の違う狂気をみんなもっているから。
👨主宰の方もどこか突き抜けていらっしゃるところがあるし。
👩あの、褒めているのだけれど、怖いよね。あははは。
👨演劇人としては稀なる才能の集団ですよ、シンクロ少女は。
👩そうね、そうね。シンクロ少女さんも観たいなぁ。昔観たんだけれどなぁ。その時にはちょっと嵌まらなくてね。その時から観ていないんだけれど、でも観たいなぁとは思っている。
👨名嘉さんのお芝居っていうのは私大好きだけれどね。
👩おもしろそうだなって思う。でも、演劇って力が強いから一度『つらい』って思うとなかなか観に行けない…。「シンクロ少女」さんの作品自体はよかったんだよ。私に変に刺さりすぎてしまっただけで。
👨うん。
👩そうそう、あとそういえば「日本のラジオ」さんとか「肋骨蜜柑同好会」さんとか「AURYN」さんとか、あの辺がやっているお芝居がクトゥルフ神話の架空の市をつくっているんですよね。
👨うん、田瓶市ね。
👩田瓶市(たがめし)!「肋骨蜜柑同好会」さんがつくったのだよね?あれさ、出てきたのはちょっとわくわくしましたね。もっと広がって欲しいなぁ、田瓶市。
👨だけどね、田瓶市ってみんなそうやって使うものだから、冷静に考えると、今なんか大変な場所になっているよ。
👩大変なことが起こりすぎる街!でもさ、それがどんどん…実はね、この間久しぶりに気になって、ホームページを見に行ったのね、田瓶市の。今、田瓶市のホームページがあるので観に行ってください(田瓶市Wikiに飛びます)。見て。これさ、凄いのよ。クオリティが。マメだなぁと思って。
👨マメだからこそ、なんていうの、作劇の時にみんな頼れるんだと思うのね。薄っぺらくならないから、そこに実存感があるからね。
👩うんうん。
👨だけど、その田瓶市というのを、田瓶市の出来事として使わないで、田瓶市を外に置いているというのが多分ミソで、このお芝居の。
👩うん、うんうん。
👨だから、田瓶市の中では大変なことが起きているのだけれど、舞台上というか東京というか、その修行をしているところではなんか粛々といろんなことが進んでいって。で、多分オ○ムの時もそうだったのだけれど、一般の信者はなにも知らないままにそれが進んでいるという状況、
👩うん。
👨で、横手さんがやったあの役というのも、なんだろ、その彼の揺らぎとか苦悩がその状況にしっかりと寄り添っていて。あと、たとえばコーヒーというのは何を意味するのかとかね、あの沈ゆうこさんがやっていたアンが出していたやつ。更にはそれを飲むのがどういうことかとか。彼女というのもちょっと特殊な存在で、両方が見えているわけだし、多分。
👩うんうん。
👨彼女は、粛々と修行がされている状況も見ているけれど、そこにもどっぷりとは入らないし、で、一方もうひとつのとんでもないことが起きているところ、最後は後藤さんが傘をもって出て行ったから、あの事件が起きる寸前なのだろうけれど、そこの事実も彼女はわかっていたよね、全部。 
👩そうですね。沈ゆうこさんが演じられた後藤アンという人物は支部長の後藤さんの妹なんですね。で、団体のその施設に住んでいるのだけれど、信じているわけではなくて。アンさんは昔お母さんに毒を盛ってその様子を観察日記に記していた…そんな事件を起こしていて、鑑別所から出てきたら居場所を作って欲しいと兄が教団と交渉したということで。ちょっと異質なんですよね。
👨そうそう、立場がね。それと、彼女がお兄さんに報告するハム太郎が死んでいくっていうのも、ハムスターはだいたい1-2年くらいの寿命だから、そのことが教団の変遷のスタンプのような感じもしたしね。                                                                                                                                                                                                                                                                                                 
👩そうですね。
👨教団が進んでいくうちに最後はハム太郎が「まだ死なない」でそのまま事件に突入してしまったような気もしたし。だからいろんな意味で彼女がきちんと物語の進捗のキーを持っていて、彼女によって空間や物語の歩みに惹かれ続けていたようにも感じたし。
👩うん。
👨あと、田中渚さんが演じていた広報担当も、実際にああいえば上佑って方がいらっしゃったから、
👩うん。
👨そういう教団から離されていた部分というのを、田中さんが俳優としてきちんと描き出していたから。こうして考えてみると、それをどこまで作品に落とし込むかは別にして、作品として現実をとても丁寧にデッサンはしていたとは思うのね。舞台としては。
👩うん、そうだね。モチーフになっている事件って、ニュースのレベルでしか知らない。本当のところはわからないじゃないですか。
👨わからないねぇ。
👩凄く報道されていたけれど、だからこそ、本当のところはわからない。むしろみえなくなってしまうんだ。だから、本当のことはわからないけれど。うーん難しいなぁ、現実のね、現実に信じる信仰の話になってくるとめちゃくちゃ難しいしね、わからないから、おいそれとは言えないなとも思うけれど。
👨私もね、教団のなかのこととかは当然にわからないし、そこで起こった現実というものと対峙しようとしたときに、新聞でのこういうことがありました、ああいうことがおこりました、という事実以上のものはなにもないわけですよ。だけど、あの演劇の空間には、そこのところとちゃんと矛盾なく繋がるような感覚というのがあるじゃない。
👩そうだね。なんかさ、なんていうの、具体的なことをやらないからだろうね、起きたことが外に置かれているからそう見えるんだろうね。
👨でも、そこのところで、最後に、あの横手さんがやっていた後藤さんという人がビニール傘を持って出ていくというその必然をああいう風にして描いてくれると、彼の、そういうなんていうの、演劇というのはその空間の中に彼の思いというのをちゃんと編み込んでいるから、そこから訪れる推測のドミノの倒れ方とか顛末とかが、それが本当かどうかは別だよ、現実に起こったことと一緒かどうかということにはなんの裏付けも保証もないのだけれど、でもその風景を理解はできるんだよね。
👩そうですね。なんか考えるべきというか想いを馳せる場所がちょっとずらされているから、ずらされているからこそより強烈に感じることができるし、あと考えることができる。その、やっぱり、抵抗感があるよね、直接そのことを考えようとするとね。
👨直接その話がきっちり出てきてしまうと、そこは新聞の記事になってしまう。
👩うん、そうそう。それがよかったよね。すごく観やすかった。
👨まあこれ、本当にそう意図してやっているかどうかは知らないけれど、例えば教団のそういう位置っていうのも、なんであそこにというか、客席の中に実は柱が一本立っていてね、客席から観る世界と教団から観る世界があそこで一カ所交わっているんですよ。そうすると、そういう風な位置づけにあるところで、そこにいる人たちがどういう必然とともにあそこにいて、またどういう気持ちでそこにいたかということが、現実からはなれて、あくまでも演劇の空間での理解というふうになったから、むしろ現実のしがらみなくすごく納得できるような部分があったのね、私には。
👩うんうん、そうね。
👨あれは、すごく、演劇の力だと思った。
👩演劇の力はめちゃめちゃ感じた。
👨俳優さん達も、その中で時間と共に歩んでいく。その中でどういう風に歩んだかという実存感があったしね、それぞれの時間に。
👩うんうん。
👨そういう意味ではとても良いお芝居、良いお芝居っていう風に括ってしまうのは良くないけれど。たとえば安東さんがやったジャーナリストのちょっとミーハー的に教団と関わった部分も含めてね、うまくちゃんと距離をとって現実をこちらの心の中に描き込んでくれたなというお芝居だったですよね。
👩綺麗だったな。小説を読んでいるみたいだったな。
👨うん。
👩なんだろうね、あのさ、すごくいろんなことが起こっているのね、心のなかには。観ていても。だけど、なんかね、とても静かに観ることができた。もっとぐりぐりされるかと思っていたの。なんか、旨い言い方がなくて、擬音で、感覚で申し訳ないんだけれど、もっと心をぐりぐりされて、なんなら痛いかもしれんなぁと思って観にいったの。そしたらそんなこと全然なくてさ、起こっていることは考えることがむちゃむちゃあったし、観ていて楽な舞台ではなかったけど、でもとても優しく作ってあった。観る側にっていうか…すくなくとも私には。こんな風に、心が傷つくことなく、しっかりと守られた状態でいろんなものを貰うことが出来るめちゃめちゃいい舞台だなぁって。あと、出てくる俳優さん達が、上手でーーーっ。
👨俳優達はみんなとても上手かったよね、ひとりひとりが。
👩ねえ、めちゃめちゃ上手だったよ。誰好きですか?どの俳優が一番心に残っているかいいましょうよ。
👨私は、沈さんがやったあのお芝居が俳優としては一番魅力があったよね。で、あと、さっきも言ったけれど横手さんもいい俳優だと思ったし、というかみんないいのよ。
👩私ね、永田佑衣さんがやったさ、ツキコさん、けっこう好き。
👨だから、たとえば
👩一人!決めましょうよ、ひとりだけ決めましょ!!
👨ひとり・・・・、ひとりは難しいね
👩完全に自分の好みでね!!
👨・・・。
👩…難しいねぇ。
👨難しいよ。ひとりっていうのはものすごく。だってみんながそれぞれにパートを受け持ってあの芝居は成り立っているわけじゃない。
👩でもさ、好みはあるじゃん、自分の。それはよかったとかじゃないから。あの、心に残ってるっていうことだからさ。みんな残ってるのはそうとして、その中で、一番心に残った率が高いなあって人を。そういうのはあるじゃないですか。。
👨そういう意味では、紡いだキャラクターとして一番残ったのは横手さんかなぁ。
👩あら!!…あのね、私もそう。
👨主人公というところもあるし。
👩もちろんね!!あと…言葉少なじゃん。妹のアンちゃんがいろんな人にコーヒーを飲ませようとする、絶対に何か入っているコーヒーを飲ませようとするのだけれど、絶対なにかよくない薬的なものがはいってるものを飲ませようとするのだけれど、お兄さんがコーヒーを飲みたいなというと絶対駄目っていうわけですね。
👨うん。
👩なんかそういう一瞬にだけ漏れ出る感情が見えないんだよなぁ。もうすごい静か。静かな湖面みたいなというか。
👨うん、静かな湖面なのだけれどさ、最後にはやっぱりそれを選ぶわけじゃない。そういう風に教団に帰依することを。で、その時にさ、それまでは絶対しなかったのに、最後だけ教団のご挨拶じゃないけれど、手をかざすじゃない、沈さんが。
👩帰ってきた人に決まりでね、頭の上に手をかざしてもらうというのがあるんですよ。
👨それまでは沈さんのやっている妹のほうはお兄さんがやっている教団でやっていることを行わなかったりしていたんだよね。居場所はもらっているけれど、みたいな。
👩そうだね。
👨でも最後にはお兄さんがそっちを選んだということで、教団の流儀で挨拶をしたという。
👩いままではやってはくれなかったことをやるんだよね、お兄さんに対してね。
👨彼女には結局そちらを選んだということがわかっているのだと思うのね。
👩ほう?
👨で、そこから振り返って、横手さんが紡いできたお兄さんが抱いていた心の動きも解けていくから、脚本としてもほんとうに良く出来ているし、それをきちんと表現しきっている横手さんはすごいなぁとおもったのね。
👩うん。
👨ちゃんとそれまでの蓄積があって、そのひとつのシーンが出来ているからね。
👩静かな一瞬のシーンがちゃんと積み重なっているからこそ意味を持つのね。
👨そうそう、そうなんだよ。
👩なんにも言葉で言わないけれどさ、めちゃめちゃこう…こちらも勝手に受け取ってしまうじゃない。
👨うん。
👩久しぶりの小劇場体験だった。そして、最近比較的大きい舞台ばかり観ていたけれど、また違うなって。やっぱりまた別の魅力があると思いました。いいな、舞台っていいなーーって、すごい小学生みたいな感想を抱いてしまいました。
👨正直あれはやっぱり屋代さんじゃないと作り得ないお芝居だとおもったけれどね。
👩そうだねぇ。屋代さん凄いよ、やっぱり。うん、よかった。前の時にすこし話したけれどさ、やっぱりすごく理性ある狂人だなぁという印象。
👨うふふ、理性ある狂人。
👩褒めてます!褒めているっ!!
👨というか、まっとうな感覚でまっとうに生きているとあのお芝居は多分作れないと思う。変な意味ではなくて、すごく良い意味で。アーティストとしてやっぱりどこか踏み出していないと作れないお芝居だという風にも思ったけれどね。
👩そうだね、そうだね。うん、良い言い方だね。何かを作る人として、物を作る、舞台を作る人として、一歩踏み出している。その普通では踏み出せない一歩をしっかりと踏み出して、しかもそのことをすごく考えているのだろうから。だから強烈に興味を惹かれる。
👨そう、で、やっぱり人間の中にそういうふうにあるものに対してちゃんと興味を持っておもしろいと思える才能があるんだよね、あの人。きっと。
👩人間にすごく興味があるのは感じるね。
👨うん。
👩勝手に言っているだけかも知れないけれどね。
👨うんうん。うふふ
👩興味があるのはさ・・。屋代さんが人間に対しての興味をどういう風に持っているのかがめちゃくちゃ気になる。そのさ、興味の持ち方も人それぞれいろいろじゃないですか。一体どういう風に見ているのだろう、他人のこととかをっていうふうに思います。
👨彼の作品って私はけっこう観ているのだけどね。
👩うん。
👨なにかがあったりとか、なにかをみつけたときに、それを切り出す力というか刃物の形が違うんだろうね。
👩ああ、うん。
👨たとえば一つの事件が起こったときに、普通の人だったらあの人は悪い人だとかそういうことを考えるんだけれど、彼そこからはもう一歩というかさらにもう半歩くらい奥でどういう風にそこのところの気持ちが出来ているのかとか、そういうところまでを直感的に見ることができるのだろうなと思うのね。
👩そうだね。
👨劇作家としてとても大切な才能を彼は持っているのだと思う。
👩しかも考えることも好きなんだろうなぁと思う。好きなのかなぁ、考えることが好きというよりいろんなことを常に考えていそうですよね。考えていること、頭の中を見せてくださいって思う人のなかでも上位に喰い込む。
👨なんか前もね、だれかに言われていたよ、屋代さん。
👩ああ、そうなんだ。どういう風に?感覚がわからないって?
👨どういう構造になっているのか、いっぺんかち割って見てみたいな、頭をって。
👩あはは、かち割ってって、物騒な。
👨いやだから、かち割ったから見えるというものでもないのだけれどさ、でもなんだろ、何かがあったときに、それが何色に映っているかとかね、彼にとっては。
👩うんうん。
👨普通だったら形で見る物が。たとえばもしかしたら、彼にとっては匂いとかそういういうものでも伝わってくるのかもしれないし・・・。みたいなことは考えてしまいますよね。
👩うん。観ることができてよかったなぁって、作って下さってありがとうございますって思える舞台だった、私には。
👨うん。世にはいろんな舞台があるじゃないですか。でも、なかなかほかに類がないっていうか。
👩うん、そうだね。ああいう舞台、もっと観たいなって思っちゃった。
👨そうそう、ああいう個性がある舞台っていうのは、もっと見続けたいなっていう風におもうよね。
👩伝わりづらいのかもしれないけれどね。凄く静かだから、大きな事件が舞台上に起こるわけではないから。観る側もやっぱり観れるようになっていないと、誰が観てもという舞台ではないかもだけれど、でも。
👨まあ、彼はいろんなタイプの舞台を作ってますからね。
👩そうね。
👨ああいう静かな物も作るし、もっととんでもないものも作るし、まあ色々やっては頂いているわけだからあれだけれど。だけど、ほかの人が持っていない物をそうやって表現し続けるっていうことは、彼の間違いのない強みだから。
👩うんうん。
👨で、多分、彼が弟子を取ったとしても、彼の流儀を学んでいくとかいうこととはちょっと違うような気がするから、そういう意味では観客は彼を追いかけていくしかないのかなぁという気はするよね。
👩そうですね。あとね、久しぶりに観たからね、観劇が下手くそになっているなぁとは思いました。小劇場には小劇場の観方がある。
👨うん、それは間違いなくそうですよね。
👩小劇場観劇筋みたいなものが衰えているなぁって。
👨でもそれって自転車に乗るのといっしょで、少しでも蘇るとそこからはどんどん蘇ってくるから大丈夫だよ、多分
👩なるほど。でもさっ、でもさっ…、でもね、じゃあいっぺん観たから次は何を観ようってなれないのが辛いところなんですよ。
👨うーん。
👩なれないのよ、気持ちが。
👨でも、それはなんというか、急に出来ない事っていうのは世の中にはあると思うよ。
👩うん…。そんなにすぐには観られない、やっぱり。今回は「日本のラジオ」の作品がすごく面白そうだったから。凄く心を惹かれたから。でもわからないですよ、直感でこれはおもしろそうだな、観たいなって思えたから行けただけで。
👨おねえさんはそんなにちゃらちゃらした人間では決してないので。
👩うふふふ。
👨むしろ、なんだろ、良い意味で頑固な部分ていうのは持っている人だからね。
👩ああ、そうですねぇ。
👨前回お話しした水を飲まないお馬さんのたとえじゃないけれど。
👩うんうん。
👨しっかりした意思を持っている部分ってあるので、それをやっぱりふっと荷物を降ろしたようにすることは、普通には出来ない人だとは思っているので。
👩んふふふ。そうですね。あのね。譲れないところっていうのが明確にありすぎるんですよね。
👨なるほど。
👩これは譲れないっていうところがあって。そこは頑固になっちゃう。でも、だからといって、ずっと変化しないよといっていることではないし、話は聴きませんということではまったくないんですよ。まったくないんだけれど、ちょっと時間がかかるんだな、呑み込むまでに。そのかわり、そうでないところは緩やかだと思いますよ。
👨今ほんとにいろんなお芝居が元に戻ってきたからね。この間、第27班っていう団体の舞台を観にいきましたけれど。
👩ああ、はいはい。
👨『どうしよう 孤独だ 困ったな』という舞台を観たけれど、これはコロナ前というか2018年2月に初演したものの再演なんですよ。
👩はい。

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👨でね、コロナ前ってどんな感じのお芝居をやっていたかっていうのを思い出してそれもおもしろかった。
👩ほうほう
👨これも凄く良く出来た戯曲で、最終的にはみんなが違う形で行き詰まり閉塞していく話なのだけれど、特にコロナ後に編まれたお芝居と比べると、人物のひとりひとりがものすごくパワフルに閉塞していくのね。
👩へぇ、それは面白いね。
👨みんな行き場をなくすんですよ。登場人物がすべからく行き場をなくして、しかも、登場人物がそれぞれに他の登場人物と関係性があり関わっていてループのようになっていて、ドミノを倒すようにつながっていくの。それは主宰というか作・演出の深谷晃成さんの緻密な剛腕のなせる技でもあるのだけれど、団体として人物を削ぎ出せるとてもしっかりした俳優を抱えているし。Mrs.fictionsの岡野さんが客演で入っていたりもしているからね。
👩うんうん。
👨135分の上演時間で実はけっこう長かったのだけれど、飽きさせない展開があってまったく時間を感じなかったし、なにより、コロナがあってからはわりと静かめのお芝居が多いなかで、以前はあんなに力感のあるお芝居をやっていたのだなぁということを思い出して、別腹でそれもおもしろかった。
👩そういうのはちょっと興味沸く。エンタメの舞台って出来にくいものね。
👨エンタメの芝居というか、コロナ前に観たらその時代の閉塞感をしっかりと描き出しているお芝居なのだけれど、だけど、そこにコロナの時代の記憶が観る側に一つ重なってそれをみると、また全然違うものがあったりもするのよ。
👩うんうん。
👨ああ、あんな風だったのだって。コロナが収まってきて再びそれを観ることができたということで、何かが戻ってきたのね、私の中で。
👩うん。
👨というか観に行くことが出来にくいというのも同じようなところがあって、なにか前のものを観たときには戻ってくるようなものでもあるのかなぁと思うのよ。
👩うん。
👨もちろんそれは、無理してなにがなんでもという類いのことではないけれど、少しずつ解いていくうちに、またいろいろなものを観ることができるようになるのではないかと信じているけれどね。
👩そうですね。あんまり急がずに、今回みたいに観たいなぁと思えるものがあればちょっと観てみようかな。
👨うん。あと、最近はそうやって良きお芝居の再演というのも増えているからね。
👩うん。
👨少し前にTokyo Players Collectionの『IN HER THIRTIERS 2021』を観たけれど。大阪だけで上演されたものの再演だったらしく初演は観ていなくて、でもあれも良く出来た舞台だった。30歳から40歳になるまでの一人の女性のひととせずつを10人の女優がそれぞれの年齢を役名として担って演じるという。
👩ああ、やっていたね。
👨アマヤドリの榊菜津美さんがプロデューサ的なお仕事をして、これもコロナ後に上演した『In Her Twenties』に続いての上演だったのだけれど、ほんと良く仕掛けられたお芝居でね。女性の日々を描くことに関して、上野友之さんて、もうね、あざといくらいに上手いのよ。
👩うんうん。
👨俳優達には単にその年齢を演じるというわけではない、その年齢から他の年齢を思い出したり思ったり、あるいは他の年齢から見られる女性の過去や未来の視界の中での演じ方があったりもして。、同じ一人の女性であっても、その10年の光と影のグラデーションを観る側に渡しつつその一年を演じる力があって、そこから生まれる観終わってちゃんと10年を生きてその先に歩み出すことへの感慨もあっておもしろかった。なんだろ、中間の俳優の難しさとは違う両端の年齢を演じる俳優の難しさもあるのかなぁとも思ったり、大きな事件がある年齢と比較的穏やかに過ぎていく年齢でそれぞれに違った演じ方の熱量の作り方や呼吸の手練があるのかなぁとも感じたり。でも、どの年齢の俳優にもちゃんと観る側として委ねられてそれもよかった。
👩ふんふん。
👨多分上野さんって、また齢を重ねたら、そのうち『IN HER FORTIES』とかを作るんじゃないかなぁとかもおもったりしてね。
👩うふふ、それは追いかける価値があるじゃないですか。面白そう。
👨でも『IN HER SEVENTIES』が上演される頃までは,さすがに私も生きていないとは思うけれどね。
👩頑張ろ、青汁を飲みましょう!!!
👨はい、がんばります。
👩うん。ではでは、今日はこのくらいにしましょうか。ちょっと長くなりましたけれど、たくさんにおしゃべりができて楽しかったです。
👨そうですね。とても楽しかった。
👩はい。
👨それでは、演劇のおじさんと
👩おねえさんでした。おやすみなさい。
👨おやすみなさい。次回もお楽しみに。

(ご参考)

日本のラジオ『カナリヤ』
2021年11月18日(木)~23日(火祝)@こまばアゴラ劇場
作・演出 : 屋代秀樹
出演 :
安東信助
田中渚
沈ゆうこ
(以上、日本のラジオ)
木内コギト(\かむがふ/)
永田佑衣
宝保里実(コンプソンズ)
横手慎太郎(シンクロ少女)

第27班 『どうしよう 孤独だ 困ったな』
2021年11月18日(木)~11月23日(火祝)@花まる学習会王子小劇場
作・演出 : 深谷晃成
出演 :
鈴木 研
鈴木あかり
箸本のぞみ
大垣 友
もりみさき
(以上、第27班)
岡野康弘(Mrs.fictions)
辻 響平(かわいいコンビニ店員飯田さん)
三浦 葵(劇団いいのか・・・?)
小日向春平
成瀬志帆

TOKYO PLAYERS COLLECTION 『IN HER THIRTIES 2021』
2021年11月17日(水)~21日(日)@サンモールスタジオ
脚本・演出 : 上野友之
企画・出演 : 榊菜津美
出演 : 
野木伶那
三浦真由
梢栄
都倉有加
小嶋直子
望月めいり
工藤さや
石井舞
Q本かよ

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