僕の宿毛高校物語エピソード3【たったひとりのキャプテン】
2年間、1度も勝つことができなかった初代宿毛高校男子バレー部は2年生5人、1年生1人で始まりました。今回はそのたった1人の1年生ツヨシのお話です。本人に後から聞いた話ですが、ツヨシは上級生と一緒に戦った最後の試合で引退をするつもりだったそうです。彼は続けて言います。練習が楽で、練習中に遊べると先輩に言われて楽しそうと思って入ったバレー部なのに、小島先生のせいで全然遊べなくなりました(笑)と。
そんなツヨシが引退を選ばなかったのは下級生のためです。中学校に男子バレー部のないこの地区では新入部員の数がよめません。ゆえに、まさかチームが存続できるとは僕ですら思っていませんでした。
しかしながら、この頃になると宿毛高校バレー部の名前は少しずつ世間で知られるようになってきており、宿毛高校でバレー部に入ると安心だという噂が保護者間であったんだそうです。(※素直にうれしい)
結果、新入生が5人入ってきます。当然素人ではあるのですが、剣道の県チャンピョンだったり、柔道の県チャンピョンだったり、駅伝で全国大会出場者だったり、タレント揃いの1年生でした。
チームが存続する以上、ツヨシは辞める訳にはいきません。彼はたったひとりのキャプテンとして、バレー部に残る事を決意します。
素人からバレーを始めた1年生はメキメキと力をつけていきます。ツヨシも、エースとして力をつけて、チームを支えます。
練習試合でも徐々に結果が現れはじめました。
公式戦での勝利にはなかなか結び付きませんでしたが、いよいよ迎えた最後の県体(インターハイ予選)。もう初勝利は目の前というところまできていました。
初日の予選は4チームで行われ、1勝すれば決勝トーナメントに進むことができます。
宿毛高校バレー部は、念願の初勝利をおさめて決勝トーナメントに進出するはずでした。
ところがなんと大会当日、同じ予選グループの1チームが棄権することになりました。その結果、この時点で決勝トーナメントへの出場が決まってしまいました。ルール上、予選を行う必要はありません。宿毛高校初の決勝トーナメント進出は、こうしてあっけなく決まりました。
勝って2日目に進みたかったので、なんだか気持ちは複雑です。
と、そのときです。大会運営側からよびだされます。せっかくなので残ったチームで試合をしないかという打診でした。負けても決勝トーナメント進出は変わらないとのこと。願ったりかなったりです。勝って決勝トーナメント進出するために、二つ返事でこの打診を受けました。
生徒たちも試合ができると大喜び。さあ、初勝利に向けて試合開始です。
ところが、試合中に事件が起きます。
裏エースが相手チームの足を踏んでしまい捻挫をしてしまったのです。大誤算です。痛がる彼をコートの外にだしました。ギリギリのメンバーで戦っていた宿毛高校バレー部ですが、新入生がいたおかげで棄権だけは免れました。が、しかし、完全素人の新1年生には裏エースの代役は当然つとまるはずもありません。
初勝利はすり抜けるように手からこぼれ落ちていきました。
その日の夜、翌日の試合を控えて宿泊していたホテルのロビーで、みんなで裏エースの帰りを待ちました。
裏エースはギプスをして帰ってきました。
彼は泣きじゃくりながら僕に言います。
「先生!大丈夫です!明日出ます!」
出せる訳ありません。
翌日、宿毛高校初の決勝トーナメント1回戦は、敗戦で終わりました。
最後の集合で
「決勝トーナメントまで進めたから」
「去年より一歩前に進めたから」
とは言えませんでした。
泣きじゃくりながら僕の話を聞く部員の中で、3年間1度も勝てなかったたった1人のキャプテンは笑っていました。
「大丈夫。お前らのせいじゃない。」
一緒に戦った後輩たちに、最後の試合のコートに立つことすらできなかった裏エースに、そう言っているようでした。
でも、僕は知っています。帰り道の休憩中、後輩たちが全員降りた車の中で、たった1人のキャプテンは泣いていました。
最後の最後まで弱いところを見せなかったツヨシとの3年間はこうして終わっていきました。
と、言いたいところなのですが、この話にはもう少しだけ続きがあります。
続きはまた次回。
次回「最高の1勝」
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