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親子丼と百日草

子どもの頃食べるのが遅く、完食するまで家に入れて貰えなかった。今更どうこう言っても仕方ないが、しつけと呼ぶならば結構嫌なわりに効果を疑うものだったと思う。

確かメニューは親子丼だった。ひたひた汁がしみて来たどんぶりの下のご飯を持て余し、チンタラ飯を食ってた自分は長屋の庭に放り出された。黒い柵越しに通行人と道路を見ながら、何とか食い切った。と思う。覚えてない。覚えてるのは白っぽいアスファルトと、庭に植えられた馬鹿でかいジニア(百日草)だけ。ジニアは今も好きではない。花が古くなると茶色くなりグロテスクだ。葉もうどん粉病で白くなると汚らしい。そして件のどんぶり椀は今も食器棚に居座っている。

思えば食べ飽きる事が多く、食べるスキル自体が低かった。食べる時に著しく手が汚れたりするのが苦手で、それは今も変わらない。茹でたトウモロコシを飲み込めず、小一時間口に入れっ放しで親に怒られた。他にも巨峰の実を吸う様に食べる、焼き魚を歯でしごく、小骨を口内で選り分けて食べる…。どれも苦手だ。今トウモロコシは食べられるし、ぶどうは皮ごと食べられる様な物が出てきたが、魚は今も苦手である。

大人になり多少自分で食べたい物を選べる様になってから、家庭内で一人味覚がズレている気がして来た。納豆を苦いと言ったら「舌がおかしい」と家族に返された。今でも苦いと思う。

一人暮らしした時は存分に雑穀を食べた。アーユルヴェーダのレシピ本に載ってたカレーを作りまくった。ジャスミンライスやクスクスも良く食べた。ドイツパンを主食にしてた時期もあった。

湿気や冷たい飲食物に弱い体質もあるのか、もちもちした主食が苦手だ。パサパササクサクした方が良いのでクラコットなんか大好きだ。すっかり存在を忘れてたが嗚呼クラコット食べたい。最近インスタントラーメン(袋)の麺をそのままバリバリ食べるのを覚えた。後で喉が乾くのが難点だが、満足感が上がるのが良い。

池袋のレディースバーに通ってた頃、ラベルがカッコいいと言う理由だけでイエガーマイスターを飲み、何だこりゃ二度と飲まねえと思ったがパインジュース割で何度か飲んだ。家で無性に飲みたくなりドンキホーテで買ったのをストレートでチビチビ飲んだ。

その後河岸を変え、新宿二丁目の妙な品揃えのバーで色々ハーブ系リキュールを飲んだ。フェルネットブランカやメンタは口に美味かった。人に話すとカッコつけてるんでしょとか言われるが、単に苦味や変わった味の酒が好きなだけだ。酒に強い訳でもない。

新宿のバーで飲んでたある日。ドイツのリキュールとつまみか菓子か何かを美味しいと言ったらマスターから「味覚がドイツ人」の言葉を頂いた。謎の評価は、家庭内味覚ぼっち疑いの自分に居場所を与えた。ズレを感じても「あー味覚ドイツ人だからなー」と思えば気が楽になるのだ。マジカルワード、俺の味覚はドイツ人。因みに当方、ドイツには縁もゆかりもない。単に珍しい物を食べたくなる人ってだけかも知れない。

今では自分を含めた家族の構成員は歳を取り、どんぶり飯の頻度も米の消費も減って来た。せんべいなど、食べられなくなった物が増えつつある。







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