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【往来堂・笈入のオススメ】『金は払う、冒険は愉快だ』

 関西某所で古道具屋を営む男。口を衝いて出るのは「俺はやる気も金もないクソみたいな道具屋だ」という悪態。

 一人称の語り口はハードボイルド、それが極端に振れて滑稽さが滲み出てくる文体は読んでいて心地よい。(ハードボイルドと滑稽さというと『かっこいいスキヤキ』を思い出しますが、もうちょっとドラマは起きます。)

 買取を依頼してくるのは、無頼を自認する道具屋よりもさらにぶっ飛んだ客たち。しかもナチュラル。普通の道具屋だったら逃げ出しているはずだが、「俺」はやる気がないと言いながら断らない。話を聞いて、目の前のガラクタから値段がつくものを探し、足元を見ることもなく、相応の金を払う。悪態の後ろに「俺」のどうしようもない優しさが見える。そんな男になった経緯も語られる。

 短めのエピソードがいくつか入っているが(何しろこの本には目次も見出しもない)、どれも映像化したら軽快で楽しく、人情噺の要素も少しあるという面白いシリーズになりそう。ただし道具屋やお屋敷、ゴミ屋敷の場面はお金をかけて作らないと感じは出ないだろう。沖縄ロケも必要か。ネットフリックスなどで作ったら面白そうだし韓国に舞台を移してもいい感じになりそうだけど、劇的になりすぎては別物になってしまう。

 しかしすごい書き手を掘り出しますね。素粒社さんには注目です。

川井俊夫『金は払う、冒険は愉快だ』素粒社、¥1,980


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