柴矢裕美「おさかな天国」感想

概要

名曲「おさかな天国」についてライマー目線で語る。

明快な韻

まずは何といっても、頭に残るキャッチーなサビだ。

サカナ サカナ サカナ
サカナを食べると
アタマ アタマ アタマ
アタマが良くなる
サカナ サカナ サカナ
サカナを食べると
カラダ カラダ カラダ
カラダにいいのさ

太字のフォントで強調する必要もないほどの一目瞭然なライミング。
いうまでもなく、「サカナ」「アタマ」「カラダ」の母音ライム(母音リズムライム)である。
歌詞カードにおいて「頭」「体」をカタカナ表記にしたことも、韻部分を明示する趣向として効果的。

また、繋ぎ部分「を食べると」「が良くなる」「にいいのさ」について。
ここでは助詞の位置を合わせたり、5音に統一するという“音数合わせ”が行われ、2小節を1ブロックとする反復構造を補強している。

ダブルミーニングの妙

技巧的なのはサビだけではない。

好きだとイワシてサヨリちゃん
タイしたもんだよスズキくん
イカした君たちみならって
ぼくもカレイに変身するよ

1番の冒頭から、このようなダブルミーニングが仕掛けられる。
日本語の同音異義語の多さを活かした楽しい演出である。
文章の破綻もない。

これを「ぼくも華麗に」のように表記して、リスナーに自力で気付かせる面白さを狙ったのが“地雷ライム”である。
しかし不発に終わるケースも多いことを考えれば、やはり本作のようにカタカナ表記でわかりやすく見せるのが正解と思われる。

また「キス」などを安易に用いない、丁寧な語り口もよい。
クラナッハ、マグリットの絵画のよう。
まさに職人を思わせる完成度である。

音数合わせ

その後は、名称の羅列がつづく。
この趣向は「RAPPCATS」などに通じるところがある。

サンマ ホタテ ニシン
キス エビ タコ
マグロ イクラ アナゴ シマアジ

ここでは3音、2音、3音、4音をうまく配置することでリズムを絶妙にコントロールしている。
どこまでもスキルフル。

そして、2番でも冒頭のダブルミーニング、続く名称羅列コーナーが踏襲される。
これにより1番と2番の反復性が強化され、流れるように美しく回遊する構成ができあがっている。

まとめ

表記上や発音上の仕掛けを贅沢に駆使しつつ、表面はポップで明快な楽曲であることを妥協しない。
そしてサビで示された、リスナーの認識率が高い韻こそ正義――というメッセージ。
突き詰めたエンターテインメント精神に畏怖すら抱かせるこの作品が、日本の音楽シーンに与えた影響は大きい。

「イワシ、タイの差」と歌うNOTABLE MC「DOUMO」や、「頭に体にいいぜ」と歌うKICK THE CAN CREW「3MC+1DJ」も本作へのオマージュなのかもしれない。

(文/SIX)

from 韻韻
ゴールデンボンバー「おさかな地獄」というアンサーソングもあるよ。

変更履歴

2020.12.29 メールマガジン用に清書
2021.10.22 note用に改稿

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