ぺーた「TikTok」感想
概要
世界一の韻を操るリリシストキングによる凛々しいストーキング。
究極の韻
これは到達点。
日本語ライムを“完成”させてしまった作品。
生きている間にこのような作品を見られたことは非常にうれしい。
だがそれと同時に、多くのライマーにとっての“いつか達成したい理想形”が実作品として現出してしまったことに複雑な思いを抱いたのも事実だ。
完璧に近い前例が提示されたことで、モチベーションを削がれたライマーも少なからずいたのではないだろうか。
両立型ライマーは存在できない(はずなのに)
昔からぺーたの韻はハイレベルであった。
文脈一致率と音響一致率という二つの面を両立させることは難しい。
文脈で80点を取れば音響は50点、音響で90点を取れば文脈は40点――というトレードオフが実情だった。
そんな中、非常に高いレベルで二つを両立させたのがぺーた。
文脈と音響で同時に90点以上を出すイメージだろうか。
そのスタイル、唯一
もちろん、ぺーた以外にも文脈と音響の両立ができるライマーはいる。
しかし、特に音響一致率に関して、常に彼のような水準を維持し続けるライマーというと他に見当たらない。
音響一致率を高く維持するためには、どうしても文章が破綻したり無理のある韻を採用しがち。
文脈と音響の総合得点、それもキャリアを通してのアベレージで語るなら、ぺーたを超えるライマーは見たことがない。(ぺーた別名義を除く)
さらなる次元へ
この時点でまったく隙の無いぺーたであったが、彼はこれらの二つを損なうことなく、さらにもう一つの要素を追求した。
韻面積である。
韻面積とは筆者の造語だが、要は繋ぎと韻のバランスだ。
文章全体に対して韻が占める割合を指す。
4小節のうち韻を構成するフレーズが1小節であれば、韻面積は25パーセントとなる。
当然ながら、韻面積は高ければ高いほどライミングの難易度が高くなる。
通常、フレーズ同士の文脈的乖離を整えるために繋ぎ部分を使うが、繋ぎ部分でも韻を盛り込む場合は選択できる言葉が非常に制限される。
文脈を自然に整えるために言葉を選ぶ以上、自然なもの以外は使用できない。
新しい作品になればなるほど、ぺーたの韻面積は拡大していく。
(ここは詳細な統計結果を整理できておらず感覚的な話になってしまうが、いずれゴオウインあたりが分析してくれるだろう)
ぺーたは文脈一致と音響一致と韻面積という三つの要素を同時に高いレベルで達成した。
文脈と音響の両立でさえ追い付く者がまだいないというのに。
最大の敬意を込め、彼のことを韻の三冠王と呼びたい。
異常の楽園へようこそ
この作品はそんなぺーたの異常性が、もう一つの異常性とともにたっぷり味わえる作品だ。
是非何度も繰り返し鑑賞し、人間の辿り着ける究極の韻に揺さぶられてほしい。
ストーリーの展開上、文脈を優先した言葉選びに見えるのに、なぜこんなに響きが一致するのか?
高一致率ライムを作るため、響きで選ばれた言葉に見えるのに、なぜこんなに自然な文章になるのか?
その矛盾、その混乱、その恐怖こそが、文脈音響両立ライムだ。
そして、そのような韻を最高級の韻面積で、濃密に詰め込んだのが「TikTok」なのである。
好きな韻ベスト3
これは難しいな。
全体を通してクオリティが落ちないところも特徴なので……。
だが、一つだけマイベストを挙げるなら「ゆるふわ系男子」「許す訳だし」にしようかな。
自然な韻が並ぶ中でも、とりわけ文脈の自然さが際立っている。
他に印象的な部分として、各バース先頭の「曇天模様」「投稿途絶えた」がしっかりと心をつかんでいると思う。
普通のライマーなら、“最も自信のある韻”を先頭や末尾に配することで効果的な演出に――という小手先のテクニックが有効。
だが、この場合はどれも他ライマーの必殺ラインに相当する。
強すぎるね。
歌詞分析
このように冒頭1小節目に一致率の高い韻を配するのは、読者に強い印象を与えるので効果的。
そして、これが先述した通り、文脈と音響と韻面積に気を配った三面両立ライム。
もう、何もいうことはない……。
また導入部なので、いきなり具体的な話に入らず抽象的な表現を使うことで、“何がはっきりしないんだろう?”と引き込む効果がある。
(いうことあったんかい)
「曇天」「どうでも」、「はっきり」「歯ぎしり」は子音一致率100パーセントではなく、一部濁点のついた音で代用している。
このような濁音代用や、アナグラム的な子音スライドもぺーたは好んで使っている。
(結構あったわ)
「酩酊」「やめてえ」のショートライムを内側に配した“ABBA”の構造。
ここは「十六歳上」を採用すれば「夕食は売れ残り 出来合い」「十六歳上の子に溺愛」というロングライムにできそうだ。(「い」は発音時にシュワ化して馴染ませる)
だが実際には「十六歳下」が採用されている。
何らかの実体験に即し、リアリティを追求しているのだろうか。
自然さを備えた対句ライム。
「愛とは」「ライトアップ」は補助的なショートライムに見えるが、「解読不能」のライムグループと部分一致しており、連打ライム寄りの性格がある。
あるいは、「解読不能 愛とは」「ナイトプールのライトアップ」で形成されたライムグループがあり、その部分ライムが「何を映すの」だという見方もできる。
この「にんちを」「にちよ」や「こんしゅー」「こーしんを」は歌い回しで音響一致率を補正した発音依存ライム。
意味の関連性がある言葉で踏んだシンクロライム。
「キメるあざといポーズ」「消えるあざといぼ」は“自撮り・加工”つながりのシンクロライム。
作品コンセプトとも密接に結び付いた秀逸なフレーズ。
「幸か不幸か」は「小顔効果」の時間差ライム。
「明日学校かい?」も「足長効果」の時間差ライム。
「小顔効果」「足長効果」の時点でショートライムと思わせた後に登場するため意外性がある。(カムフラージュライム)
「小顔効果」から「打つスマホ」に至る“ABCBADCD”というライムグループの配置がトリッキーで面白い。
さらにAとCの内部に「効果」「効果」「幸か」「校か」という連打ライムも見出せる。
「どうか認知を」から「どうか元気で」へのシフトには、一方通行で構わないという心情の変化が読み取れる。
哀切な余韻を残す締め方。
自然な文章の中に、ここまで一致率が高く音数の長い韻を盛り込めるライマーをぺーた以外に知らない。
もはや“韻を踏まない曲の歌詞”として通用してしまう。
一行一行が芸術品のようだ。
各フレーズの自然さもさることながら、「して」「停止」や「メッセージ」「生命維持」のアナグラム的な作りも印象深い。
当然のような恋人視点が怖い。
終わりというか、いつ何が始まっていたというのか?
これはこれで尊い純愛といえるのかもしれない。
自然な文章で一致率も高く、美しい韻。
ただし「許す訳だし」からの理屈は異次元。
老い先短いおじさんになっても心は男子。
それが歪んだ形であるにせよ、こうしてストレートに本心を晒した“俺”の姿は、映像加工や嘘にまみれた“君”よりもピュアな存在に見える。
ここで、いつの間にか二人称「君」の指す対象が別の人物に入れ替わっていることに気付き、読者は当惑する。(叙述トリック)
また、最終的に「恋した」と踏める「十二個下」へ着地させる伏線として、「十六歳上」でなく「十六歳下」だったのかもしれない。
しかし、未練断ち切れすぎ。
補足:ライムローテーション
フックの韻配置がトリッキーなので整理してみよう。
さらにいえばAとBは「効果」の箇所が部分一致した入れ子ライムである。
Bは直前に登場した「恰好」「加工」にもリンクしている。
本物の偉業にして本物の異形。
(文/SIX)
from 韻韻
関連項目
韻面積
韻の三冠王
文脈音響両立ライム
三面両立ライム
変更履歴
2022.3.21 メールマガジン用に書き下ろし
2024.5.28 note用に改稿
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