子供が(あるいは自分が)海外のゲームの大会で賞金をもらったら税金とかはどうなるのか

1.日本発祥のゲームなのに主催が米国の会社なのでややこしいことに

 2022年の夏、息子がイギリスで開かれたポケモンワールドチャンピオンシップス2022(PWCS2022)の、ビデオゲーム部門、ジュニア(2010年1月1日以降生まれ)カテゴリで優勝し、賞金1万ドルを獲得しました。円安でもあったので、1万ドルはかなりの大金です。心配になったのは税金とかはどうなるのかということでした。
 PWCSの主催は日本の株式会社ポケモンではなく、米国に拠点を置く、The Pokémon Company International (TPCi)です。なので米国の会社からドルでもらうことになるわけです。
 会場で現金や小切手が渡されるわけではなく、後日VISAのプリペイドカードが郵送されてくるのですが、お金が入った状態のカードがいきなり来るのではなく、まず、送金用のサイトにアカウントを作成し、そこにいったん入金された後、そのお金をそのサイト内でプリペイドカードに入金する手続きをすると、カードが使えるようになる、という流れです。
 カードに入金できるようになるまでの過程は結構めんどくさいです。まず連絡のメールは全部英語ですし、未成年の選手の場合は保護者の同意書の提出(これも英語)もあります。そして、W-8BEN(米国源泉税に対する受益者の非居住証明書)という、米国で収入のあった米国非居住者が提出しないといけない文書に署名をして提出することが求められます。ここから税金の話になります。

2.米国での30%課税は回避できないのか

 W-8BENは、その人が米国と自分が住んでいる国の両方で二重課税されないようにするための文書なんですが、メールで送られてくるこの文書の入力フォームには、米国の税制に従って30%課税されることが記入済みなんです。つまり1万ドルなら3000ドル引かれることを受け入れる文書を提出しないと賞金が受け取れないわけです。3000ドルはでかい。
 とりあえずネットで検索しましたが、そもそも海外のゲームの大会で賞金を獲得する、という事例自体がレアで、なるほどそうか、とすっきりするような記事は見つけられませんでした。近いのはプロスポーツかなと思ったのでそちらで調べると、その場合は経費とか計上して節税できそうな情報は出てきましたが、e-sports化してるゲームでもないし(目指してはいるようです)、子供だしもちろんプロでもないし、とりあえず目の前にあるW-8BENのPDFを勝手に書き換えていいのかは分かりません。
 またあれこれ調べて、米国で日本人・日本企業相手に仕事をしている税理士事務所の相談受付を見つけました。ウチのケースを詳しく伝えたところ、無料相談の範囲内でそこまで?と思うくらい親切に調べてくれましたが、結論は以下の通りでした。

 ゲームの大会での賞金は、プロゲーマーによる恒常的な収入でなければ、米国の税制上の「一時的な所得」で、必要経費等の計上による還付申告は困難。

 ということで、30%課税は受け入れてW-8BENは提出しました。

3.日本での課税等はどうなるのか

 次に心配なのは、W-8BENは二重課税されないための文書のはずだけど、ほんとに日本で申告・納税の必要はないのかという点です。
 これも日本の税理士会が無料でやってる税務相談とか、ネットの無料相談とかに聞いてみたんですが、やっぱりレアケース過ぎるので、直接税務署に行って聞いた方がいいと言われてしまいました。税務署は確定申告の時期以外も税務相談を受け付けているんですね。
 その時点で、2022年分の確定申告の時期は過ぎてたので、これで納税が必要だったら延滞税まで発生するのでは…と不安になりながら、電話で予約して最寄りの税務署に行ったんですが、結論は以下の通りでした。

 まずいったんアメリカでの課税は関係なく考える。
 賞金1万ドルを入金時のレートで円に換算し、これを収入として考えていく。
 所得の区分としては「雑所得」ではなく「一時所得」。
 必要経費は引ける。⇒今回の場合、ロンドンへの旅費がそれに相当(PWCSは選手が18歳未満の場合、保護者同伴必須なので、保護者分も計上可。ただし、大会そのもの以外の日は抜いて考えるので滞在6日中5日が大会関連であれば6分の5が経費に)。
 ⇒ということで、まず1万ドルから旅費を引いた額を出す。これに対して、一時所得の場合、特別控除50万円が差し引かれ、その額の2分の1が「総所得金額」となる。
 この総所得金額に対して、さらに基礎控除48万円が適用される。
 ⇒今回の場合:旅費がウン十万かかっていて、さらに特別控除50万引いて、それを2分の1して、さらに基礎控除48万引かれると、課税対象額は0となり、「申告要件を満たさない」ため申告する必要はなかった。
 一方、アメリカで徴収された3000ドルを日本で還付することはありえない。
 が、上の手順で計算した結果の金額が課税対象となる場合には、二重課税にならないよう、アメリカでの課税が計算に入る手続きが必要。
 この申告は難しいので税務署に来てもらって一緒に申告書を作成した方がよい。

 親の健康保険上の扶養から外れるのかについては、
 よく言われる、収入が103万円を超えると扶養から外れるというのは給与収入の話。
 一時所得の場合は上の手順での計算の、収入から必要経費と特別控除を引いた額(2分の1する前の額)が所得とみなされる。一時所得の場合、この額が48万円を超えると扶養から外れる。⇒今回は超えないので外れない。

 住民税(都道府県民税、市町村民税)の確定申告は別途必要かについては、国税局では答えられないが、そこでも「所得」は上の「収入-必要経費」で考えるはず(後日居住している自治体に尋ねると、その額なら不要との回答でした)。

 ということです。
 PWCSの場合、今年の大会から優勝賞金が3万ドルになるらしいので、そうすると、上の計算の結果、課税対象額が0にはならないと思いますから、日本でも納税義務が発生する可能性があると思います(ただし、税務署で言われた、二重課税にならないようにする計算が適用されるとたいした額にはならない、あるいは結局納税義務は発生しないのかもですが)。親の扶養から外れる可能性もあると思います。なので、旅費はもちろん、たとえばSwitchやコントローラを買い替えた、とかも、ちゃんと領収書取っといた方がいいんだろうと思います。
 以上、ご自身や、お子さんが思いがけず高額の賞金を獲得した場合のご参 考になればと思います。今回は国外の会社から賞金が出るというケースでしたが、国内の会社からであれば、上の話の、二重課税にならないように云々のところを抜いて考えてもらえばいいかと。
 あれこれ回り道した結果、確実に言えることは、心配なら直接最寄りの税務署に相談するのが一番早くて確実、かつ無料、ということです。

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