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初めて書く物語③

エリーゼ物語③

第3幕

冬になり、昨夜に降った雪が太陽を浴びてキラキラと輝いています。

窓にできた、光を含んだ氷柱(つらら)から落ちる水滴の音と
暖炉のパチパチと燃える音がまるでエリーゼとオリヴァーの奏でる音の様に溶け合っています。



エリーゼは、オリヴァーが来てから毎日穏やかに過ごせている事に気がついていました。

(最初は怖い人かと思ったけど、他の人とは違って、優しくて親切なオリヴァー。
あなたの事をもっと知りたいと思ってしまうのは、なぜ?)と自分の中に芽生えた何かを感じていました。


ある冷たい月明かりが照らす夜
エリーゼは夢を見ていました。

窓の向こうに広がる海をみて、ため息をついていました。
••••手元のお見合い写真のなかで爽やかに微笑む男性を見れば見るほど、心が痛む。

お父様によると、大きな国の王子様で評判の人格者だとか、、

(でも、、、)

「オリヴァー、この結婚をどう思いますか?」

いつものように優雅な手付きでカップに紅茶を注ぐオリヴァーに問いかけると、エリーゼを見ないまま彼は答えます。

「私は、エリーゼ様の結婚に口をだす資格などありません。」

優しく微笑み、一礼をすると部屋を出て行こうとします。

「待ってオリヴァー!。」と叫ぶエリーゼ。

ドアの前で立ち止まり
オリヴァーは苦しげに呟きます。
「私は、私は、ただ、エリーゼ様の幸せを祈っております。」と。

目が覚めたときには、頬が涙で濡れていました。
(...夢  単なる夢なのにどうして?どうしてこんなに悲しいの?)  

ドアがノックされ
サティが入ってきました。
「エリーゼ様どうかされましたか?」
「なんでもないわ。」と言うものの、胸の奥がチクリと痛みます。

ある日、
音楽室に行きピアノを弾いていても、オリヴァーが来ません。

(どうしたのかしら?
部屋で練習をしているのかしら?)と
オリヴァーの部屋をノックしても返事が返って来ません。

恐る恐るドアを開けると
オリヴァーの荷物がありませんでした。

「サティ。オリヴァーはどこへいったの?」
「エリーゼ様、ご存知ないのですか?今日からしばらくお城には来られないと聞いてますよ。」

「え?なんですって!?」

エリーゼは王様の所に行き
「お父様!オリヴァーはなぜお城にいないの?」とたずねます。

王様は
「エリーゼ、今まで黙っていて悪かった。実はオリヴァーはジョーンズ伯爵の息子であり、、今日は縁談の日なんだ」と言います。

エリーゼは息を飲み、王様の部屋を飛び出しました。

自分の部屋に入り、バタン!とドアを閉めそのままずりずりと扉に寄りかかるように座り込みエリーゼは泣きだしました

(みんな私を騙していたの!?、、酷い、酷いわ!)

次の日も、エリーゼは部屋から出て来ませんでした。

ドアがノックされ
サティが入って来ました。
「エリーゼ様。何かお食べにならないと、、」
「ごめんなさい。食べたくないの。。1人にして。」

「では、ここに紅茶を置いておきますね。少しでも暖かいものを召し上がって下さいませ。」

サティはサイドテーブルにティーセットを置いて部屋を出て行きました。


エリーゼはゆっくり起き上がって、 
ポットからカップに
紅茶を注ぐと湯気から大好きなアールグレイの香りが立ちました。

カップを持ったまま、涙がポロポロと頬を伝います。

(私はこんなにもオリヴァーのことが好きだったのね。
もう一度会いたい。そして自分の気持ちを伝えたい…でも、、もう会えないの?)

オリヴァーの笑顔やバイオリンの音色が浮かび、枕に顔を埋めて更に泣きました。

(出会わなければこんなに苦しい思いをしなくて済んだの?、、だけど会ってしまった、、この報われない恋になんの意味があるというの?)

気がつくとあたりは薄暗くなっていて
サイドテーブルには
サティが持って来たと思われる焼きたてのクロワッサンの香りが
部屋中に充満していました。

(寝てしまっていたのね。)

ベッドから降りて窓辺に行くと
ちょうど遠くの丘に陽が沈む所でした。


そのまま、瞬きひとつせず、陽が沈む瞬間のグリーンフラッシュを黙って見つめていました。

数日後
目を覚ましたエリーゼは
窓辺で遊んでいる小鳥達を
ベッドの中から見つめていました。


ベッドから起き出し
窓を開けると、澄み切った青空が広がっていました。
凛とした冷たい空気が一気に部屋の中に入ってきます。
庭を見ると、シエロが薔薇の剪定をしていました。

(今年の薔薇も綺麗に咲くといいわ。)
そんな事を思っていると

「私は、エリーゼ様の幸せをお祈りしています」といつか見た夢の中のオリヴァーの声が聞こえてきました。

(私も
今回の縁談がオリヴァーの幸せだと思うなら、祝福をしなければいけないのよね。私はこの国の王女。しっかりしなくてはいけないわ!)
そう思うと涙を拭き立ち上がりました。

食堂へ行くと、
王様、お妃様がいました。
エリーゼは
「おはようございます。お父様、お母さま。」と言いながら椅子に座りました

王様は
「エリーゼ。今回の事は、、」と言ったのと同時に
「気にしないで、お父様。私はもう大丈夫よ。」と気丈に振る舞うのでした。

同じ頃
オリヴァーは父の友人で
ロレーヌ公爵の娘ロザリーとの縁談に向けて準備をしていました。エリーゼに
何も伝えぬままこの日を迎えてしまった事をとても後悔していました。

(エリーゼ様は王妃になる身、、でも、、、
私はあの方を愛しても良いのだろうか、、)と思っていました。

 
窓の外に目を向けると、
到着した馬車から、貴賓に満ちたロザリーが降りて来る姿が見えます。

オリヴァーは
大きくため息をつくと、
重い足取りで部屋を出て行きました。

使用人に
ロザリーを客室に案内するように伝えた後
あるドアの前に立ち
ノックをすると
か太い声がしました。
「失礼致します、お父様。」と父の部屋に入って行きました。



第3幕おわり。

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