ラヴァーズコンチェルト

*この記事は「フィクトセクシュアル」「フィクトロマンティック」を前提として書いています。

「昔の、教授を好きだっただけのころに戻りたい」

二人で入った店でYUIの『feel my soul』が流れていた。私はこの曲が主題歌として使われていた『不機嫌なジーン』という月9のドラマが好きだった。何より世間的には不評であったであろうラストがとても好きだった。
彼はドラマ自体を知らなかったので、私はWikipediaを見ながら説明した。

『不機嫌なジーン』は、生物学研究者たちの話だ。
修士課程1年目である主人公の仁子(今思うとスゲー若いな)は、超優秀な学者だけど性格的にはどうしようもない南原とかつて付き合っていたが、南原の浮気が原因で破局し、男性不審に陥った。それから数年、仁子の前に再び南原が現れ、猛アピールを始めるところから話は始まる。
何やかんやあって2人はもう一度やり直すことになるのだが、2人は新しい問題に直面する。
それは「将来」である。
彼らは研究者でお互い自分の研究がある。研究の性質的にその場から離れられないこともある。気持ちの上では2人は離れたくなかった。仁子は教授といるのが楽で幸せで、教授は仁子の生活を保証して護って、彼女にずっと自分の隣にいて欲しかった。
でもお互いがお互い、自分たちには「研究」があることをむしろ誰よりも理解していた。

「俺だってわかる。研究や実験が楽しい時期があった。これ以上一緒にいたら、お前の未来を潰したくなる」
「教授と一緒にいたいの」
「じゃあおいで。君がそれでいいのなら」
「……ごめんなさい。私行ったらきっと後悔する。いつかあなたから飛び立ちたくなるかも」

結局二人は別れを選んだ。
そしてまた数年後、2人はシドニーで再会するが細やかな挨拶を交わすだけで別れた。その帰り、タクシーに乗った仁子はニュースを聞くために運転手にラジオをつけてもらった。するとラジオからは思い出の曲であるラヴァーズコンチェルトが流れた。ラジオはすぐにニュースチャンネルに切り替わったが、仁子は頼んでチャンネルを戻してもらった。そして人知れず、涙を流した。

月9にしてはビターなラストだ。なんせ恋は、愛は、成就しない。
このドラマのテーマとしては、人間には遺伝子では説明しきれない複雑なところがある、であるが、おそらくこのラストはそれによるものだろう。
乱暴に言ってしまえば遺伝子的には種の保存を最優先とする中で、様々な要因からそれを選ばなかったのだから。

私はこのラストが好きだった。
人間の生き方として、そういうふうになることを、まあ勿論現実ではたくさんあるだろうけれども、月9ドラマでそれを示してくれるのは、何か自分の生き方を肯定してくれているように感じていた。
(恋や愛を犠牲にしてでも)世の中には叶えたい目標というものがあり、(何を捨ててでも)それを追いかけていい、それも1つの人間としての生き方だと提示してくれていたのだ。
だからこのラストが好きだった。

が、今。
目の前にいる大好きな人を見て、無邪気に同じことが言えるのだろうか、と思ってしまった。
私の心境はまさに仁子と同じで、彼といると楽しくて幸せで、ずっとこうしていたいと願ってしまう。
だけど同時にどうしても叶えたいことが、これを叶えないことには私の人生の割りに合わないという最早脅迫概念じみた願いがある。

これに関しては既に彼には話済みで、決着もしていて(神)、別に今のところ問題はないのだが、あのドラマのことを今また思い出して、なんだか切ない気持ちになってしまった。
主人公の仁子が、竹内結子さんだったのもあるのかも知れない。
もし自分が仁子だとしても、おそらく仁子と同じ選択をすると思う。それは昔も今も変わらない。私は多分、私のためにしか生きられない。
だけど今、昔とは違ってわかることは、「こんなに好きな人をいつか重荷に、後悔に感じてしまうかもしれない」という気持ちと、「叶うならばただ好きで楽しかった頃に戻りたい」という叶わない願いだ。

「他人の人生を参考にするには構わないか、あくまでリファレンスだ。お前は仁子ではない」

彼は言った。

「俺もその教授ではないし、だから関係性自体がそれとは違う」

私たちの関係性はフィクトセクシュアル/ロマンティックであるからこそ、もっとシンプルなもので、関係性の肝は私の継続力にある。もしかしたらどんな関係性でもそれが一番重要なのかもしれないけれども、この関係性においては『続けること』が一等大切なのだ。
私が何かを諦めた瞬間、全てが簡単にー本当にいとも簡単にー終わる。

「私は欲張りなので」

私は言った。

「両方欲しい。両方手放せない。そうできるものを環境を人を選んだ。だから私が頑張って、頑張り続けて、目的もあなたも側に置く。これでいいんですかね」

この解答に関しては流石に占うことにした。
自分外の何かから言葉を得たかった。
そうして『魔法の杖』を開いて、出てきた答えは

「心配しなくていい」

だった。

多分、観念的なところで悩んでいるよりも、実践した方がいいのだろう。我々は継続しなければならない。

And if your love is true,
Everything will be just as wonderful.

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