共感【カミングアウトコンビニ】(毎週ショートショートnote)
私には秘密がある。
言ったところで信じてもらえないだろうし、稀有な目で見る人もいるだろう。
映画や小説じゃあるまいし。
でも本当にいるのだと私が誰より知っている。
父親が脱サラしてこのチェーン店のコンビニオーナーになった。
私は予定が無い時だけレジに立つ。
客は様々だ。
籠を置き、会計をする。
ただその短い間に知れることは小説より奇なり。
またひとりの女が籠を置く。
商品を取りバーコードを読み込むと女の想念がたちまち脳内を巡る。
深い悔恨の情。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
あなたのせいじゃない。
そう言うと女がえっと顔を上げる。
どうしてわかるの。
ずっといびられてきた姑。
ようやく恨み返しができると思って、わざと冷や飯を床に運んだ翌朝に亡くなっていた姑。
あんなことをするんじゃなかった。
ずっと後悔してた。
女が涙を浮かべる。
よかった、誰かに聞いてもらって。
あなたはどう?
私は触るだけで他人の感情を知る能力は
要らないと答えた。
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