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モデル【涙鉛筆】(毎週ショートショートnote)


絵はデッサンで決まる。
何事も基礎と基本が大事だとお父さんは言う。
お父さんは長いこと部屋に篭って絵を描いている。
その部屋に入ることを禁じられていたぼくは、お父さんが描いた絵を一度も見たことはない。


家にはぼくしかいなかったから、こっそりその部屋に入ることにした。
鍵はかけられていなかったから、ドキドキしながらドアを開けてそっと入ってみる。
丸椅子がひとつあってその前にイーゼルと大きなキャンバス。筆や絵の具は無く、無数の鉛筆が箱に入って置かれていた。
キャンバスには白い布が掛けられている。
ぼくは布を滑り落とした。



横顔の女の人が座っていた。
ふっくらとした頬と唇が綺麗なので思わず線を指でなぞる。
ちびた鉛筆が誘うように置かれているから、ぼくはそれを手に取ってみた。
椅子の上に女の人が座っていて涙を流している。ぼくは迷いなく、鉛筆で涙を描き足した。
もう女の人はいない。


ぼくのお母さんはどこにいるんだろう。
この絵の人のようならいいな。

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