伝説のスター【動かないボーナス】(毎週ショートショートnote)

彼の姿はステージ上にない。
きらびやかなライト。
観客達はカオスの中。
泣いている者、喚いている者。そこにいる全員が口々に彼への愛を叫んでいる。
人の上に人が転がっていく。
誰が誰やらわからない。
抱きしめあう者、キスし合う者。
誰も彼もが思い思いにこの感情に折り合いをつけようとしているようだ。

無数の火花が上がると同時に奈落から彼がまっすぐ迫り上がる。この世界から音という音がすべて集められたような咆哮に包まれた。
彼はステージに降り立ってから微動だにしない。
生きているのだろうか。
この歓声は聞こえているのだろうか。
早く歌え、踊れ。
誰もそんなこと望んじゃいない。
動かない彼の姿こそスターだ。
神がこの世に降り立ち、最初にパフォーマンスするのを皆が固唾を飲んで待っている。
汗と吐く息が熱く、空間は熱量と興奮が充満する。

彼が動かない1分39秒間という時間はニ度とない、その場にいた者達だけに与えられた至上のボーナス。

マイケルよ、永遠に。