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あの頃のこと

できるだろうか
そう思い訪ねた場所で
普通の世界からは隔絶されている子ども等に、会った。

首を振り、目は焦点を合わさず
時折り、ひとり笑い始める。

折れ曲がったように見える手や、足
つーっ、と
唇の端から流れ落ちる唾液は
かつて見慣れた光景だった。



生まれて間もなくして、頭部のC Tを撮った。
まだことを飲み込めていなかった私を気遣い
「心配ないからね」
と、小児科の医師は声をかけてくれたけれど
(何かがおかしい)
そう胸の奥で感じていた。

眼球が上を向き、文字通りひっくり返り
目が合うことはなかった。
首の座りも遅い。
母乳の吸い方が弱く、とても時間がかかった。
手の指と足の指は、ちゃんと5本ある。
唇も裂けてはいない。
体のどこにも、目に見えてそれらしき異常はなかった。
けれど、何かが違ってみえた。


生後3ヶ月目に
医科大学の小児脳外科を受診する。
そこで、


『小頭症』

大泉門と言われる頭の上の凹みがほとんどない。
普通の子よりも脳みそが少ない。
皺も、少ない。

「残念ながら、脳みそを治す薬はないからねぇ」

と、地元の小児科医は口元を歪めながら呟いた。
その後、染色体の異常を調べることに同意を求めた。
1度目の検査では、異常は全くなかったけれど
再度検査をしたいと申し出があり、検査をすることになった。

結果として、なにもなかったのだけれど
その時の医師の嬉々とした様子が、今も残る。
(もし、その時の症例だったとしたら
日本では初めてだったことから、発見した小児科医として注目を浴びただろう。)

いっこうに目が合わないのは、
見ようとしていないためか
本当に見えていないのかどちらともつかず
診てもらうこととなった。

家族性滲出性網膜症

稀に、突然変異で起こる目の病気で
右目の視力はなく、左目は少し見えているとのことだった。
見た目には斜視に見えるほど、視点が引っ張られている。
その為に、見える範囲も狭く、常に暗い場所にいるような状態だそうで…。

診察の済んだ後で、泣けて泣けてしようがなかった。

見えないって
どういうことなの?
どうしてなの?

ただただ、
腕に抱く子の目を見つめていた。
そうしてまた、
同じ言葉を繰り返していた。



今日はここまで。

 #小頭症 #障害児 #家族性滲出性網膜症

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