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春はもうすぐ

通る車の
雨を弾く音を、部屋の中で聴いている。
大概の高校では
卒業式が行われているであろう日。
うちにもひとり、いるのだけれど。


普通に、誰もが通り過ぎてゆく物事を
同じように進むことをよしとしない娘と
朝から対話を重ねている。

決めつけるでもなく
ありふれた言葉に置き換えるでもなく
言葉にならない言葉はあるよねと
その想いを
噛み締めるように
抱き締めるように
虚空に離す。

そうやって
何もない部屋の片隅を見つめ
ない言葉の重みの中で揺蕩う。


雨のせいだろうか。
珍しく朝から目眩のする日で
今日は朝から
動くことができずにいた。

学校からの電話に
聴き耳を立てていた娘の硬い表情から
低い声が漏れる。

もう少ししたら
少しばかりの目眩を連れて
証書をもらいに行ってこなくちゃね。

春の花が咲く。

祖父の好きなメジロが
どこからともなく飛んできて、花と花の間の細い枝にとまっている。

今までに、こんなにも、梅の木を眺めたことはあっただろうか。
仕事場に行くと必ず、木のそばに立ち、見上げている。

桜の木も一本だけ、植わっている。

冷たくはない雨が降って
まだ固く閉ざされている蕾も
時が来れば紐が解けるように
開いてゆくのだろう。
そんなふうに思う。

春は、
すぐそこまで来ているのだから。

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