中絶した②

ともかく、母性本能が中絶をものすごく嫌がるので、直前は堕ろすことに納得できなかった。めちゃくちゃ泣きながらもう一度話し合った。中身は割愛するが、最終的には納得して中絶に臨んだ。

前処置

前日に子宮口を広げる処置があった。
子宮口に細い海藻の棒を入れるらしい。中の水分を吸収して、1日経つと膨らんでいくそうである。
これは普通に麻酔なしだったので、すこしチクッとした。何をされているのかは全くわからないのだが、とりあえずちょっと痛かった。
異物が入っているので、体はそれを排出しようとするそうだ。したがって、鈍い生理痛のような痛みが来ると思います、とのことだった。
痛み止めを処方して頂いたのだが、「この痛みは飲むほどだろうか」と思い、結局飲まなかった。
私の子宮のやる気がなかったのかもしれない。
あと、どうでもいいのだが、腟内にガーゼを入れられており、おしっこしにくいかもと言われていた、が、普通にできた。

手術

当日は朝一の時間帯に病院に行った。
お手洗いを済ませて、点滴を打ってもらった。
そのあとは部屋に入り、静脈麻酔(だと思う)され、処置が執り行われた。
10分か15分程度だったそうだ。知らぬ間に意識がなくなっていて、知らぬ間に全部が終わっていた。麻酔は初体験だったので、こんな感じなのか…と少し怖かった。

中絶のイメージは掻把法(かき出すやつ)だったのだが、今回は吸引法という方法だそうだ。胎児と、子宮内膜の分厚くなっているものすべて取り払う感じ。らしい。よくわからない。

術後

麻酔が覚めたあとのことはあまり記憶がなく、話したことが夢なのか現実なのかよく分かっていなかった。後で確認したが、大体実際に話していた。

気分はあまり良くなく、数時間は休んでいた。
前段階の説明で、1〜2時間は休んでもらいます、とのことだったので、暇になるだろうと本を持ってきていた。しかし、読書する余裕はまったくなかった。完全に麻酔をなめていた。
途中看護師の説明を聞いているときに嘔吐した。前日からの絶飲食のおかげで、内容物は少なかった。

少し寝たり、看護師や医師が様子を見に来てくださったり、というのを繰り返して、午後には帰宅した。

所感

とにかく、1人だけだったら、全てのことが絶対に無理だった。病院にずっと一緒に付き添いで来てくれて、術後のベッドでもずっと一緒にいてくれて、それがどんなにありがたかったことか。男性方は絶対絶対絶対絶対何があっても、女性のそばに常にいなくてはならないと思う。横にいて、一緒に心配してくれる存在があるだけで、女性の不安感や罪悪感やその他いろんな感情が、少しでも楽になる。

また、妊娠がわかったとき、漠然と「産めないな」と考えてしまう背景を考えると、中々重たいものがあるのではないか。
金銭面での漠然とした不安がまず大きい。子どもをひとり育てるのに、仕事をやめて専業主婦になるという選択はしづらい世の中である。産休育休を経て、なんとか復帰して共働きが当たり前、両親ともに余裕がない、というのは仕事をしていても、ひしひしと感じている。
そんな余裕のない社会に、子どもを産んでも幸せになれないのではないか。というようなことも考えていた。
こういう適当に生きている人間が、「まあなんとか産んでみようか。きっと誰かが助けてくれる。」と、楽観的に、産み育てられる社会であるべきだと思う。現実問題、私はその選択ができなかったのである。

中絶のことを受け入れることも、忘れることも、しばらくはできない。自分の中のぐちゃぐちゃの感情をとにかく抱え込んで一緒に生きていくしかないと思う。
私の中の小さい命がなくなっても、私は相変わらずお腹がすくし、歯磨きもお風呂もするし、お皿を洗って洗濯をして買い物をしなくてはならないし、うんこもおしっこもするし、出勤はしなければいけないし、笑うだろうし、怒るだろうし、泣くだろう。
目の前の生活をこなしていくことで、日々過ごしていくしかないんだなぁと考えている。殺してしまった子に対して、何が最良の選択だったのかは誰にもわからないし、先に言ったように、私が生きていくしかないのである。

3億円ほしい