仮面ライダー555 20th パラダイス・リゲインドを見て【ネタバレ注意

 こうも続けて自分の思春期を駆け抜けた作品の最新作を見れるものなのか。仮面ライダー555 20th パラダイス・リゲインドを見てきた。簡単に言えばどこまでも仮面ライダー555であった。熱が冷めないうちに感想を書いていこうと思う。

①夢に破れた2人
 TV本編は『夢』がひとつのテーマであった。主人公・乾巧は最終回で『世界中の洗濯物が真っ白になる様にみんなが幸せであるように』という夢を見つけた。人間として、ファイズとして夢の守り人として戦い続けたからこその夢だった。しかし、今作の巧は命の終わりが見えてきて、灰化が進むことによって洗濯物を汚す=誰も幸せにできないと思った巧は『散歩』と称して真理のもとを離れていった。そしてマヨネーズを買う約束もそのままにスマートブレインの尖兵としてオルフェノク討伐に加担した。
 一方のヒロイン・園田真理は本編当初から『美容師になる』という夢に突き進んでいた。ただ今作では菊池啓太郎のクリーニング店で甥の条太郎やいつの間にか戻って来た草加正人、海堂直也とともに働きながらオルフェノクの庇護を始めていた。その活動のために真理は美容師を続けることをあきらめた。本作では語っていないものの、美容店の前のベンチに座り込んでいる姿はきっとそういうことなんだろうと思うには十分だ。
 この『夢を諦めた』大人たちが妙にリアルで、真理と同学年の筆者の胸に突き刺さった。2003年に『仮面ライダー555』を見ていたかつての子供たちも今や20~30代であり、その中には『夢に向かったもののかなえられなかった』『夢を叶えたけど現実にぶつかって挫折した者』『そもそも夢を夢で終わらせた者』…様々な形で夢を捨てて生きてきた者もいるだろう。
 『 夢っていうのは、呪いと同じなんだ。呪いを解くには、夢を叶えるしかない。けど、途中で夢を挫折した者は、一生呪われたまま…らしい。』
 これは木場勇次のセリフだが、本作の巧や真理の夢に呪われながら生きている姿に自分と重ねてしまう。20年の時を経て『555』を送り出した意義が、ここにあるのかもしれないと勝手に感じてしまうのだ。

②新キャラが見せた、『あの頃の555』
 本作は巧と真理以外にも、木場の理想を引き継ぎラーメン屋をしながらオルフェノクとの共存を目指す海堂、なぜか戻ってきていつも通り真理を思い続ける草加、なぜか復活してスマートブレインの社長になった北崎とかつての面々の他に若いキャストによる新キャラが登場した。キャストの中には本編放送中には生まれていない者もいる。この若き新キャラが『555』らしさを体現していた。
 ヒサオがトラックにひかれそうな老人を助けた後その老人からオルフェノクだと通報されてその結果倒されたり、彼の死を見てビビったコウタが保身のために仲間や恋人を裏切るも結局始末されるところはいかにも人間の醜い部分を見せてきた『555』らしさだと思った。
 最もそれを表しているのはオルフェノクの討伐隊長で仮面ライダーミューズに変身する胡桃玲菜だ。変身を見られることを極端に恥ずかしがるなど、個性的なキャラクターであるが、一貫して巧みに思いを寄せており真理の存在を知ってから彼女に嫉妬し、オルフェノクにすることで討伐対象とし、自分の思いを受け入れない巧共々抹殺しようとするが、最後には2人を逃がそうとして北崎に処刑され凄惨な最期を迎えた。本編で言ったらスパイダーオルフェノク・澤田のような役割なのかもしれないが、そんな愛に生き、愛に狂い、愛に殉じる姿も『555』の世界観そのものだった。

③巧と真理の関係
 変わらないものの次は変わったものである。その最たるものが巧と真理の関係が変わったことだろうか。
 巧は上述のとおり、自らの死が近づいていることを悟り、真理たちのもとを離れてスマートブレインに付きオルフェノクの殲滅に加担した。進化したライダーシステム、ネクストファイズに変身するも彼の心は前に進まず、かといって自らその命を終えることもできず、空虚に死を待つだけの日々を過ごしていた。
 一方の真理は胡桃玲菜に拉致され、スマートブレインによってオルフェノクの記号を強化されミーアキャットオルフェノクとなる。オルフェノクとして覚醒した真理は衝動のままに医師をすべて殺害、さらには海堂達や巧をも殺そうとした。ふと我に返った真理は絶望のあまり自死を選ぶ。オルフェノクの庇護を通して彼らを受け入れていた真理は、自分が同じオルフェノクになったときそんな自分を拒絶してしまったのだ。
 ただオルフェノクになった以上簡単に死ねない真理は巧に救われる。真理は元に戻れない絶望を巧に、巧は心の空虚と死への恐怖を真理に打ち明けると2人は結ばれる。真理がオルフェノクになってしまったからこそ真理は巧の辛さを心から理解し、巧は真理に己の弱みをさらけ出すことができた。肉体関係を経た2人は誤魔化しとわかっていても『問い続けることが答え』とし、『今に生きろ』という結論にたどり着いた。広がる星空の下にちっぽけな体を寄せ合いながら。
 アラフォーの2人が絶望の中で今の自分を互いにさらけ出すことで、新たな関係を構築し今を生きようとする姿は今の我々への制作側からのメッセージだろう。巧も、真理も、我々も大人になったのだ。

④草加と北崎、驚きの正体
 本編で死んだはずの2人がなぜいるのか、というより『どういうことにするのか』非常に気になっていた。
 結論から言うと2人ともアンドロイドだったわけで、本編で死亡した彼らを再登場させるにはこれしかないよね、としか言えない。
 北崎は本編ではラッキークローバーのリーダー格であり演じた藤田玲氏の年齢もあるが幼さの中に不気味さと怪しさ、そして危険さを感じさせるビジュアルだったが20年の時を経てスマートブレインの社長となりもはや別人と言っても過言ではなかった。
 一方の草加はしれっとクリーニング店に戻っており真理や海堂と共にオルフェノクの庇護にあたっていた。真理に思いを寄せているのは相変わらずだが、反目しあっていた巧のことも少し理解を示す態度を見せたところは20年の時の経過を見せているように見えた。ただ巧を『乾君』と言ったり、オルフェノクは倒すべきと考えていた草加が庇護に協力したり、この違和感も絶妙だった。20年で変わらないところ、少し変わったところ、劇的に変わったところがしっかり描かれていた人物と言えよう。
 パンフレットのインタビューにも掲載されていた2人ともアンドロイドという設定ができたことによってその存在が永遠のものとなった。特に草加はこの20年でライダー史に残る愛すべきネタキャラとなった。今後続編が出るならこのアンドロイド草加のさらなる活躍に期待できるだろう。

⑤やっぱりこっち!
 北崎のミューズ、草加のネクストカイザと最後の戦いを迎える中で条太郎がファイズギアを巧に渡す。今作は啓太郎はいないが、彼の魂が条太郎に流れていることを感じた。『わかってるじゃねえか、条太郎!』『俺はやっぱりこっちでいくぜ!』は巧の台詞という枠を飛び越えた20年間ファイズを好きでいた我々の気持ちそのものであったと思う。
 ここからはカタルシスの連続だ。当時毎週見てきた変身、主題歌『JustiΦ's』をBGMとした戦闘シーン、助けに来てくれるオートバジン、やっぱりとどめはクリムゾンスマッシュ。ミューズが旧型のファイズの行動が読めないのはきっと巧は本能で戦い続けていたからで、まさに『疾走する本能』を体現したのだろう。さいごワイルドキャットオルフェノクの真理と2人でライダー2体を倒したのは本編最終回でライダーとオルフェノクでアークオルフェノクを倒したそれを思い出しつつ、木場が自らを道連れにしたのと違い2人でポーズを決めて終わったのも希望がある終わり方でよかった。これだけサービス精神にあふれたシーンも20周年ならではだからだろう。ラストバトルは20年『555』好きでいた我々への制作陣からの最高の『プレゼント』である。

⑥JustiΦ's~終わらない物語~
 この60分の中で何かが解決したわけではない。北崎を倒したところで草加アンドロイドが次期社長になっただけで代わりならいくらでもいるだろう。さらにそのスマートブレインも政府主導で動いているためもし完結編をやるならもう日本転覆がストーリーとかをしなければならくなるのではと思ってしまう。
 なので個人的には『555完結編』ではなく『555続編』としてとらえている。『JustiΦ's』の歌詞に合わせていけば今作でも『悲しみは繰り返した』し、巧の『守ることと戦うことのジレンマは終わらない』かもしれない。ただ、彼らは見つかるかわからない答えに向かって『走り続け』、今を生きていくのだろう。
 本編では命の終わりを示唆されたEDも今作では仲間たちとあの時約束したマヨネーズでお好み焼きを食べながら談笑する幸せなEDになった。真理が条太郎に『あんたもオルフェノクになればいいのに』なんて言ったときには少し驚いたが悲しみを乗り越えた真理が本当の意味で『人間とオルフェノクの共存』に進みだしたと筆者は期待したい。今を生きながら、よりよい未来を目指す。また彼らが我々に『夢の向こう側』を見せてくれることを信じて、我々も今と言う日々を生きていきたいものだ。
 


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