高校野球、試合の「流れ」を分析する

甲子園の準々決勝4試合は、勝ち上がってきた選りすぐられたチームの戦いで力が拮抗し、最も面白い4試合と言われている。しかし、今年は高校野球、特にセンバツ甲子園の難しさを目の当たりにした4試合となった。

その中で第1試合の仙台育英対天理は、野球の難しさ、面白さを象徴するような試合だった。
天理・達投手、仙台育英・伊藤投手、どちらのエースも今大会の注目投手。私の戦前の予想は2〜3点勝負、打線の力からすると仙台育英が有利だった。しかし、試合の「流れ」というのはわからないもので、思わぬ結果となった。そこで、この試合の「流れ」を細かく分析してみる。

1回。天理先発の達君。ストライクとボールがはっきりしていて、制球に苦しみ、3四死球。満塁のピンチを招いたが、何とか無失点で切り抜けた。しかし、先行き不安な内容だった。
一方、仙台育英の先発は11番をつけた古川君。1回戦の明徳義塾戦も古川君から伊藤君の継投がはまって完封していたので、須江監督からすると必勝パターンなのかもしれない。しかし、その古川君が初回いきなり2失点。その段階で、仙台育英有利の5点勝負に下方修正し、展開を楽しむことにした。
2回。天理の達君はこの回も2四球。無失点で切り抜けたものの、監督がどこまで我慢するのか。そこもこの試合の見どころの一つとなった。一方、仙台育英は、スパッと伊藤君にスイッチ。その伊藤君は初戦19日以来の登板で休養十分。調子も良さそう。それだけに先発させなかったことがマイナスにならないと良いが。
3回。立ち上がりから制球に苦しみ、我慢のピッチングが続いていた達君だったが、本塁打と犠飛で2失点。同点に追いつかれる。その裏、伊藤君はこの回もテンポよく力のあるストレートを投げ込む。

こうなると、中盤の攻防が鍵となるが、調子の上がらない達君と、絶好調の伊藤君。試合が大きく動きそうな予感はしていた。

4回。達君は案の定、2本のヒットを許してピンチを招く。続く4番・5番をなんとか抑えて切り抜けた。逆を言えば、仙台育英。毎回チャンスを掴むものの、ここまでで9残塁。とくにこの回はクリーンアップで決めきれなかったのが痛い。
そしてその裏。ピンチの後にチャンスあり、と言うが、天理はヒットとショートの2つのエラーで1死満塁。それでも伊藤君は8番達君を見逃し三振に仕留め2アウト。そして迎えた9番政所君。3-2まで粘られ、投じた7球目が三遊間をきれいに抜けるレフト前ヒットとなり2点。さらに1番内山君の左中間へのヒットとショートからホームへの悪送球も重なり2点。この回、天理が4点を奪い6対2となった。それでも、今日の達君の出来からすればセーフティリードとは言えない。
5回。失った流れを取り戻したい仙台育英は先頭の遠藤君がセンター前ヒットで出塁。続く島貫君はフルカウントからファーストゴロで1死2塁。達君の苦しいピッチングはこの回も続いた。しかし、続く8番の伊藤君が、1球もバットを振らずに3球三振。この伊藤君と達君、エース同士の直接対決での3球三振が私はこの試合の分岐点になるような気がした。続く9番の木村君にファウルで粘られるもセカンドフライに打ち取り、達君はこの回のピンチも切り抜けた。
そしてその裏。デッドボールとツーベースヒットで無死2.3塁。ここから伊藤君は連続三振を奪い2死2.3塁となるが、7番杉下君の左中間を破るタイムリーツーベースで8対2に。
中盤の攻防が鍵を握るとは思っていたが、達君と伊藤君の調子からすると、私は全く逆になることを予想していた。
6回。達君は、この回も2四球で苦しいピッチングが続くが、相手のクリーンアップ4番・5番を打ち取り、無失点で切り抜けた。調子が悪いながらも、なんとかピンチをしのいで、マウンドに立ち続ける達君。これぞエースという頼もしい姿だ。
一方、伊藤君は、その裏。先頭の9番政所君にツーベースヒットを打たれ、ツーアウトから3番・内藤君に四球を与えたところで甲子園のマウンドを降りることになった。調子は良かったはずの伊藤君が、このような形でマウンドを降りるのは残念。結局、リリーフした松田君が4番・瀬君にタイムリーツーベースを打たれて10-2となった。

結局、達君は、大量リードに守られながらも8回までマウンドに立ち続けた。試合後の中村監督の談話によると、6回での降板を打診したが、続投は本人の意思だったという。8回、164球を投げて8被安打、8四死球、3失点。見事な完封もカッコいいが、苦しみながらも冷静に対処し、粘りの投球でマウンドに立ち続けた達君。今大会から球数制限が採用されるようになり、継投など、ピッチャーの使い方が重要になっている。その中で、マウンドを譲らない達君の姿は、「これぞエース」に相応しい頼もしさを感じたし、エースが苦しいときこそ奮起し、伊藤君を攻略した天理打線もアッパレだった。

調子の悪いエースと調子が良いエースの投げ合いがもたらした結果は10対3。調子の悪いエースを援護した天理の圧勝となったが、両チームの残塁を見ると、天理6に対し、仙台育英は15。チャンスを如何にしてものにするか。この攻防こそが野球の難しさであり、面白さだ。打ちたい思い、抑えたい思いは誰も同じ。しかし、どの球をどうやって打つのか。どの球をどうやって投げるのか。脳と身体が対話し、その通りに再現する能力が求められる。天理のバッターは、この試合、ここぞで伊藤の球を捕らえて、得点につなげた。伊藤君には、この経験を活かして、夏の甲子園に一回り大きくなって帰ってくることを期待したい。

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