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wandering Tokyo vol.2

  地下にあるクラブの前にはまだ日も高いというのに、おしゃれした女性だけで構成されている列があった。この風景に既視感を覚えながら、とりあえず最後尾に並ぶ。しばらくすると列が動きだし、会場の入り口で予約した名前を名乗り無事に入場。会場内を埋め尽くしているのは見渡す限り女性である。先日、高円寺で観たダンスバーに出演している団体が、成人向けのイベントを新宿二丁目にほどちかいクラブで、昼間に行うというので、すこし覗いてみることにしたのである。
入場してすぐに、
チップ、いかがですかぁと甘くて少しだけ舌足らずな声が聞こえた。さらさらした御髪にすんなりした手足と均整のとれたスタイルの青年が販売している紙の束が目に留まる。
チップ
まさかここでもパンツ一丁になったダンサーさんにあの紙片をねじ込むなんてことが、できるのか?
とりあえず、チップ
「あ、あのっ、すみません、ち、チップ下さいっ」
その可愛らしさに思わず声を上ずらせてしまった、私。
「はい、ありがとうございまぁす❤」

か、かんわいいいい!


と、一瞬にしてデレデレになってしまう。
♂♀ミックスイベント、とのことだったがフロアはほぼ成年女性で埋め尽くされドリンクを貰うのも一苦労、の盛況ぶりである。会場の隅で、ビールをちびちび舐めながら開演を待つ。これからこのフロアで何が起こるのだろうと、ワクワクよりもドキドキのほうが強い。
長いドリンクチケット交換の列が途切れ、ようやくMCの男性と本日のダンサーが登場。先日、高円寺のイベントに出ていた2人のほかにも数名のダンサーが紹介された。
こちらのイベントはもともと男性のみが参加できるイベントだったそうだ。先日のチップをパンツにねじ込むイベントよりも凄いものが…?
もう頭の情報処理が、おっつかないですよ。
フロアでは新人ダンサーの紹介を兼ねたイス取りゲームでちょっぴりセクシーなやり取りが展開されたのち、ダンスパフォーマンスがはじまる。ダンスフロアやポールを満遍なく使った華やかでセクシーなパフォーマンスに会場のボルテージは否応なしに高まってくる。
ダンスのあとにはお約束のチップタイム。
ダンサーたちがパンツだけの姿でフロアを廻ってくるので、彼らのパンツにチップをねじ込む。フロアを埋め尽くすお客様方はぬかりなくチップを購入しており、めいめいのやりかたでチップをダンサーに渡していく。
チップを唇にはさんでみせれば、ダンサーも唇で受け取ってくれる。形のよいお尻を堪能したければ、後ろ向きになってもらい、お尻をこちらにつきだして貰うのもありだ。
チップタイム終了。
なんとも眼福。
さらに昼間から流し込んだビールのせいか、高揚感が半端ない。とりあえずもう一杯、ビールをと、ドリンクカウンターに向かうとカウンターの側に、スーツ姿のストレートのブロンドヘアの男性が紫煙をくゆらせて佇んでいる。うわあ…この人もパフォーマーなのかなあと思いながらキャッシュオンでビールを貰いながら、思う。チェキタイムでステージと客席の境界が無くなりさざめくフロアをぼんやりと眺めながら、ビールをすする。手のひらにはまだチップタイムの余韻のように、それぞれの「感触」がちょっとだけ残っていた。
 クラブのエントランスを出て階段を登りきると、まだ宵とよぶには早すぎる時刻だというのに、またクラブへの入場列ができていた。ただ、先ほどとは違い、行列は男性で構成されている。イベントはかなり人気のようだ。クラブを背にして、しばらく歩くとまだ人通りもまばらな飲食街にたどり着いた。今日はこの街…新宿二丁目にある、ブックカフェに寄ってみようと思ったのだ。そのカフェには様々な性癖に関する図書があるという。ネット記事を頼りに上京した学生のような面持ちで、新千鳥街と書かれた看板を見上げた。
目当ての店の名前ともうひとつ別の店の名前が貼ってあるドアをそっと開けてみた。
「いらっしゃぁーい」
目の前に傾斜のある細い階段。
階段を上がるとカウンターにびっしりのお客さんと店主さん。そして、書棚にひしめくLGBTやアングラに関するさまざまな本。時代も洋の東西も縦横無尽、自由かつ解放的でありながらその前に立つとシャンと背筋が伸びる、ものすごい書棚である。ただし、書棚の構造自体は何ら装飾もない、いたってシンプルなものであるが。
カウンターに座り、見せていただいたメニューには紅茶や珈琲のほか、グラスワインやビールといったアルコールもある。お茶うけもしくは軽いおつまみがついて、1時間半で1500円。ブックカフェなので、書棚の本も当然、読み放題である。
隣のお姉さんがたっぷりのミルクをマグカップに注ぐ様子を見て、実に美味しそうだったので、ミルクティをオーダーした。季節のくだものと焼き菓子がのったお茶うけとともに、店主さんとのやりとりを楽しんだり、珍しい本を眺めているだけで、すぐに時間が流れてしまう。濃密で深い、深淵みたいな場所なのにあたたかい…淹れたてのミルクティが入ったマグカップを両手で抱えたときに感じる、温もりに似ていた。
お店を出て、地下鉄の駅に向かって歩く頃には日が傾きはじめていた。ストリップショウに始まり昼下がりからでもできる新宿二丁目体験は刺激的ながらも、次のステップへの序章でしかなかった。ブックカフェの店主さんからいただいたアメリカンコミックのような絵柄が素敵なフライヤー…のイベントに、ずーっと気になっていたダンサーさんが出演するというのだ。このフライヤーをくださった店主さんもお店にいたときとは別の姿で同じ舞台に立つという。
…こうなったら
真夜中の鶯谷へ、いくしかない?


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