【批評】よしときさん 『なりそこない』

 ご依頼くださいまして、ありがとうございました。

 今回、批評させていただいた作品は、こちら。

なりそこない|yosh1tok1|note(ノート)https://note.mu/yosh1tok1/n/ncdff01952863

 取り扱うテーマは少し重いものですが、淡々とした一人称の語り口と「物語の相性」はいいのかな、と感じました。
 ただ、テーマがテーマですので、もう少し長く丁寧に書くか、あらゆるものを簡素化して、最後の場面のみに焦点を当ててもよかったのかもしれません。
 タイトルが『なりそこない』であることからも「私(主人公・尚美)は母親にはなれない」が最大のテーマで描きたいこと、なのだと感じたので、そこだけを切り取ってもよかったのかな、と。
 なぜそのように思ったかと言いますと、物語の『時系列』がすっきりしなかったからです。

 一人称は『私』の視点なので、時系列をすっきりさせようと思うと、どうしても説明臭くなってしまいがち、ですよね。ですが『半年前』や『二か月後』などと表記するより、具体的に『〇月の初め』『そろそろ冬が始まる頃』等の方が読み手にとっては親切です。
 瞳が香織に置き去りにされたのは、季節感の表現などから初夏の頃かと思ったのですが『真新しい制服』の一文で、あれ、春なのかなと思ったり。ここを『真新しい"夏服"』のように工夫して表現することで『ああ、あれくらいの季節か』と、読み手に想起させることができます。

 また、朝、ベランダで瞳を見つけ、その日の夜に『瞳をベランダで過ごさせる』という結論が出ているんですよね。その『一日』が『実際の時間よりも、やけに時間がかかっている』印象もあります。文章の前後を組み立て直した方が、すっきりと読みやすくなるかもしれません。香織と連絡が取れない、という部分など、夫との関係が険悪になっていった、という部分に差し込んだ方がより自然な流れになるようにも感じました。

 物語の中でも『時間』はきちんと流れています。例えばそれが、SFやファンタジーなど『時間旅行』を題材にしたものなら話は別、ですが。短編ですのでプロットなど難しく考える必要はないかと思いますが、それでもやはり『時間の流れ』に疑問を感じてしまうと、そこで読み手は混乱してしまうかもしれません。それはとても『もったいない』ことだと思います。読み手が混乱してしまえば、伝えたいテーマも伝わりにくくなってしまいますから。

 時間の流れや時系列を意識して、この作品を見つめ直してみてください。ご自身でも、ああ、と気づかれる部分が見つかるのではないでしょうか。

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