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短編小説集。

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自作サイトにて公開していた短編小説を詰め込み。
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2015年5月の記事一覧

光を浴びて

 クリーム色のカーテンの隙間から零れる朝日は、喜びに満ちて輝いていた。だがその輝きさえも、寛子には酷く薄っぺらで白々しいものにしか感じられなかった。
「午前七時三分です――」
 憔悴しきった声で告げる壮年の医師の額には、ほつれた前髪が張り付いていた。それがいっそう疲れた雰囲気を作り出している。
 手を尽くしてくれたことは、ちゃんと解っていたつもり。でも、やっぱり思う。どうして、助けられなかったの―

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ぜんぶながして。

 カーテンの隙間から陽射しが零れている。蜜季(みつき)は何気なく目覚し時計に視線を投げて、それからほうっと時間をかけて深呼吸した。七時三分。まだ、こんなに早い。
 昨夜は――正確には、今朝、かもしれない――遅かったから、絶対にいつもの時間に起きられるはずはない、と思っていた。でも、それでいいと思った。だから、目覚ましのセットもせずに、ベッドに潜り込んだのに。
 朝って、ちゃんと間違いなく、狂いなく

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