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 もう、15年も経つのだろうか。僕と飼い猫のミーちゃんは同じ日に産まれた。僕は今15歳で、ミーちゃんとともに育った。同じ日に産まれたというのは、ミーちゃんはもともと野良猫が産んだ猫で、僕の家の軒下で見つかった取り残された産まれたばかりの赤ちゃん猫の一匹である。だから、正確な産まれた日というのは分からない。
 僕たちはずっと一緒だった。雨の日も風の日も、僕が学校で嫌なことがあった時にはずっと寄り添ってくれた。
 近頃、ミーちゃんの様子がおかしい、どこかおとなしく、寂しい雰囲気を纏っていた。どうやら、猫の寿命というのは12年から18年程、とくに外で飼っている猫においては12年から14年と言われているらしいが、外で飼っているミーちゃんは15年間生きている。死期が近づいているのだろう。猫は死ぬとき姿を見せないというが、軒下にいたミーちゃんの姿を見かけることが少なくなった。猫が死ぬとき姿を見せないというのはよく聞く。でも、僕は最後までミーちゃんと一緒にいたい。死ぬとき姿を見せないなんて寂しいじゃないか。そう思い、ミーちゃんのあとを追いかけることにしたのだ。もう長くない。ずっと一緒にいるのだから、僕にだってミーちゃんの寿命が限界に来ているのだろうというのが肌で感じる。
 ミーちゃんを抱くと少し震えている感覚があるのだ。少し強く抱きしめてしまったと思い筋肉を弛緩する。僕はミーちゃんの最期を絶対に見届けるんだ。ミーちゃんがよろけるように歩いて家の敷地外へ出ていく、僕は後を追いかけるようについていった。公園、路地裏、林の中、塀の上、目的地はどこなのだろうか、終には見失ってしまった。
 なんで、どうしてだよ…必死にミーちゃんの姿を探した。日も落ちてあたりは何も見えない。田舎の夜道は本当に真っ暗で、遠くに見える電灯の薄暗い明りだけが頼りだ。その日はくたくたになって家に帰りベッドで泥のように眠った。
 朝、起床した瞬間から頭の中はミーちゃんの行方でいっぱいだった。どこへ行ってしまったんだろう。まさか、姿を見せないまま逝ってしまったのか。いつもの軒下へサンダルを履いて見に行った。
 「ミャーオ」
そこにはミーちゃんがいた。安堵と嬉しさで胸がいっぱいになった。ミーちん、絶対にもう見失わない。
 学校から帰ってきたら、まず、ミーちゃんがいつもの軒下にいる事を確認する。そして、弱っている体を抱きしめる。何年か前より随分身体が細くなったと感じる。
 すると、ミーちゃんがよろけるように歩いて家の敷地外へ出ていく、僕は後を追いかけるようについていった。公園、路地裏、林の中、塀の上、目的地はどこなのだろうか、終には見失ってしまった。
 デジャヴだ。
ミーちゃんがどこかに逝ってしまう…
朝、起きて軒下を確認した。「ミャーオ」 
 安堵。
次の日も、抱きしめ、追いかけ、見失ってしまった。
朝、起きて軒下を確認した。「ミャーオ」
 安堵。
を毎日2週間。

「ミャーオ」

朝、軒下からか細い鳴き声が聞こえる。
なんか腹が立ってきた。お前もう寿命のはずだろ。
そっと僕はまた抱きしめた。
震えていた。嘘つけよ。
お前、昨日近所のボス猫と戯れてたろ。
知ってるぞ。森下さんちの犬の餌横取りしてること。
俺の部屋でうんちしたろ。
「ミャーオ」
嘘つきの瞳だ。まん丸だもの。
俺は騙されない。
ちゅ~るを鼻先に差し出す。
信じられない速度でちゅ~るが減っていく。
嘘つきの減り方だ。
騙されないぞ。
「ミャーオ」

ミーちゃんはそれから5年間、嘘をつき続けた。
猫の寿命は12年から18年程、それを超えて生きた猫。ミーちゃん。
僕は二十歳になった。

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