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感情の時代

ビジネスの世界では、表立って「感情」にフォーカスして、感情が大事だと捉えることは多くなかったのではないかと思う。

少なくとも、「感情をコントロールして、常に最大のパフォーマンスを出す」「やる気を言い訳にしない」みたいな世界が、プロフェッショナルの世界と言われていたように思う。

でも、そんなマッチョな世界観だと、結構多くの人がしんどい、ということが分かって来たんじゃないか。

研究でもご一緒している島津先生が提示した下記のモデルは、仕事を「活動水準」と別に「仕事の認知の快・不快」の軸をとったところがとても興味深い。

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活動水準が高くても、仕事の不快領域が多いと「ワーカホリック状態」になり、疲労が蓄積し、結果活動水準が徐々に落ちて「バーンアウト」してしまう。

例えば期待を込めたタフ・アサイメント(その人のそれまでのスキルや経験からみて、かなりハードルの高い仕事に取り組ませることで、急激な成長を促す人材開発法)。アサインした側は成長を期待してする訳だが(組閣人事がうまくいかず仕方ないパターンもあるけど)、アサインされた側少ならからず「不快」なタスクが存在する。それが多すぎるとあっという間に疲労蓄積、そして最後は活動水準が低下してバーンアウト状態に陥ってしまう訳である。周りを見渡してもこの流れで疲れてしまった人はすごく多い印象がある。

仕事にやりがいも感じ、毎朝出社が楽しくて目が覚める、そんな活動水準が高い状態をサステナブルに実現するためには、日々蓄積する疲労を取り除くとともに、取り組む仕事自体が「快」である状態を作ることが必要であると、この軸は示している。

つまりそれは「プロなら辛い仕事もグッと堪えて顧客にバリューを出す」みたいな世界観から、「プロは辛い(ところもある)仕事も楽しく変えることで、継続してバリューを出し続ける」みたいな世界観へ転換されたということではないだろうか。

快・不快というのは圧倒的に主観的な感情。つまり感情が大事な時代が到来したと考えられる。

僕らが展開しているAwarefyというサービスは「ACT」という認知行動療法(心理療法)をベースにしている。このACTでは「感情はコントロールできない」と置いている。

感情を無理にコントロールして、「辛くないって考えよう」とか「めんどくさいけど、めんどくさくないと考えよう」みたいな戦い方をすると、逆に感情に囚われてしまうというのだ。

ちなみに仏教の悟りを拓く世界でも、一次的に湧き上がるそういった感情自体は否定していない。悟りを拓くというのは、感情をなくしたのっぺらぼうな状態ではない。

感情が湧き上がること自体はある種自然現象に近い、アンコントローラブルな領域なのだ。

だから、湧き上がった感情をしっかり観察する、自分の感情に気づくことが大事になってくる。感情が湧き上がること自体はコントロールできないが、自分がどんな時にどんな感情が湧きやすいかは観察し続ければ分かってくるし、望ましい感情が起こるように環境や認知をマネジメントすることは可能なのだ。

プロ野球選手/監督であった故・野村克也氏の素振りに関するコメントはとても示唆深い。

「素振りはつまらないし、回数を基準にすると続かない。私がこの単純作業を継続できたのは、振った時のブッという振幅音に興味を持ったから。ミートポイントで力を爆発させるようなスイングができたときは、この音が短い。そして、この短い音を出すためには、力を抜いていないとダメだということに気がついた。これがおもしろくて、1時間、2時間はすぐに過ぎていきました」

素振りはしなければならないことだが、つまらない素振りを無理やり頑張ろう、というのは難しい。でも、素振りの中で自分が「面白い」と感じるポイントを見つけ、そこに注目することでしなければいけないことをやりたいこと/楽しいことに変換した。

感情を殺したり、コントロールしようとするのではなく、感情に着目し、自分が「快」と思える状況が増えるようマネジメントすることが、サステナブルに価値を出すための秘訣なのではないだろうか。

おもしろき、こともなき世を、おもしろく

感情の時代、僕たちは感情に気づき、環境や認知をアレンジする力をトレーニングする必要があると感じている。

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